はじめての将棋ウォーズ

 「『頭がいい』ということ」のエピソードの中に、将棋道場で「棋士・藤井聡太の将棋トレーニング」の弱いコンピュータが訳の分からない手を指す、という話を、めちゃめちゃ将棋の強い若者にしてみたところ、コンピュータは人間と価値観が違う、という話をされたことは書いたと思う。それからアプリの将棋ウォーズを勧められ、それをツイッターに書いたらなかなかの地獄であるということをフォロワーに教えてもらったのも書いた。


 確かに将棋ウォーズのアプリレビューを見てみると、ときどき星五つほとんど星一つという地獄絵図になっていて、そこの問題はどうやら課金してコンピュータにお任せができる、ということや、外部の将棋ソフトを使って不正に勝ちを重ねる輩がいること、そして勝利を重ねていたらソフト指しを疑われてアカウントを消された人がいることなど、いろいろ問題があるようだ。


 そういうわけで一週間か二週間くらい、「どーすっかなあ~」と保留していたのだが、家族にそれを言ったところ「でも公民館の若者が勧めてくれてるのは一つの根拠だし、ダメだったらやめればいいだけのこと」と言われたので、若者の顔を思い浮かべながら将棋ウォーズをインストールした。


 まずアカウントを作らねばならんというのが面倒だ。アカウントのパスワードをいちいち覚えていられるほど賢い脳みそじゃないのに、ツイッターだのカクヨムだの楽天だの覚えねばならないパスワードが多すぎる。かといってレディ・プレイヤー1の悪役みたいにポストイットに書いて貼っておくわけにもいかない。そういうわけでアカウントというのがそもそも面倒なのだが、作らないことには将棋を指せないので、ぽちぽちとアカウントを作った。


 ちなみに、パスワードはメモして人に見つからないところに隠している。我ながらかなりガバガバである。程度としてはレディ・プレイヤー1の悪役となんも変わらないような気がする。


 それで、さっそく! と思えるほど元気な人間ではないので、数日間対局開始のボタンを押せずに開いたり閉じたりする日々を送った。我ながらチキンである。初めてすぐはいろいろな棋力のひとと当たると聞いて、負けるとしか思えなかったのである。


 しかし負けることも勉強のうちだ。とある日、夕飯を食べ終えて部屋でぼーっとしているときに、(ちょっと指してみっか)と思って、「対局開始」をぽちりと押した。


 とりあえず十分ならそんなにひどいことにはなんないだろ。そう思って十分を選択した。三分とか一手十秒とか、考えるだに無理ゲーだ。なんせわたしは序盤で普通悩まないところを延々と考えているような人間だからだ。とにかく十分ならなんとかなるべ。そう思ったのである。


 初戦の相手は27級だった。お、比較的なんとかなりそうだ。わたしが先手だ。これもなんとかなりそうな気配。


 とりあえず飛車先を伸ばしてみる。相手は振り飛車だった。ふむふむなるほどと思いつつ、なるべくすぐ考えてぱちぱちと進めていく。


 わたしはどうぶつの森の自分の島に「いびしゃ島」と付けるくらいの居飛車党である。こういうのを対抗形というのだったか。まあそんなご立派なものではないのだが、とにかくなんとか飛車を成り込む手を考えた。


 飛車……飛車を成り込む……銀か……と、飛車先に銀を進める一方、角が使えていなかったので左の銀も繰り出していく謎戦法になってしまい、訳が分からなくなってどうしようと思案に暮れていると、画面の隅に「棋神」というアイコンが光っているではないか。これだ! とそれをタップする。よくよく考えたら終盤までとっておいて詰むや詰まざるやに持ち込んでから使えばよかったのだが、それはともかくそのAIさんはなかなか頑張ってくれた。


 しかし実際のところそれで形勢がよくなったかというとそんなことは全くなかった。


 そうやっているうちに不注意で角をただ取りされてしまい、取り返そうとしたものの今度は同じく不注意で飛車を取られるというひどいミスをやらかした。


 わたしは馬鹿か(出●哲朗の声で)。


 なんとか交換で手に入れていた銀を割り打ちして駒損を取り返そうとするものの、とりあえずは銀と金の交換で、状況は一向に改善しなかった。


 こりゃ負けだ。完全なる負けだ。


 どんどん相手に取られた大駒が投入され、自陣はえーらいこっちゃえーらいこっちゃヨイヨイヨイヨイの状態である。まさに火の車。まさに灼熱地獄。


 ……そのときはっと、持ち時間が相手より30秒ほど多いことに気付いた。


 ウォーズのルールは切れ負けである。残り1分30耐えきれば勝てる。必死で玉を逃がして粘る。ひええーこわいよー。それでも投了したくなくて踏ん張ったものの、結局詰んで負けてしまった。


 ううむ、おそるべしネット対局。こんな難しいんかこれ。


 敗北後、しばし悔しい顔をしてから思ったのだが、よくよく考えたらわたしは持ち時間のある対局というのをあんまりやったことがないのであった。


 でもこれを続ければ思考の瞬発力がUPする気がするし、頑張ってみるか……と素直に思った。しかしその敗北以来、まともにウォーズを開いていないのであった。このエッセイを書くためにいろいろ確認はしたが、ちゃんと指したのはその第一回だけである。


 ネット対局の向こうにいる人間はどんな顔をしているのか分からないが、おそらくあまりにあっけなく勝ってしまってぽかんとしたのではなかろうか。


 盤で見れば気付くような凡ミスに気付かなかったのは、たぶんアプリの画面を見慣れていないからだと思う。将トレにせよぴよ将棋にせよ、慣れたらそこそこできるようになったからだ。それから背景がうるさく動くのなんとかなりませんか。


 あとアイコンな……アイコンが謎なのしかないのもなんとかなりませんか。とりあえずコナンくんの犯人みたいなアイコンは嫌だったので金髪の女の子に変えたのだが、もうちょっとこう……おしゃれにできませんかね。


 これからもなにかあったらウォーズのことを書いてお茶を濁しまーす。

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