暴れん坊将軍と娯楽時代劇の話
お正月の4日に、特番として暴れん坊将軍がテレビで放送された。わたしは録画で観た。
暴れん坊将軍と言えば誰でも知っている、テレビ娯楽時代劇の金字塔だ。かつてのテレビシリーズでは隕石まで成敗したという、「娯楽時代劇なんだからこまけえこたぁどうだっていいんだよ、面白けりゃ!!!!」という内容の、凄まじいパワーを持った時代劇だ。
だってよくよく考えたら将軍徳川吉宗が城を抜け出して旗本の三男坊を名乗って一般人に紛れているというのがそもそもムチャだ。そして特番の暴れん坊将軍スペシャルではその息子の家重まで身分を偽って城下をうろついていたのだから娯楽時代劇の発想というのは凄まじい。
家重はなにか体に特性があって、右腕が動かないのだが、その代わり左手にレイピアを持って戦うというのだから娯楽時代劇はぶっ飛んでいる。吉宗公の長子に特性があるというのはえねっちけーでやっていたよしながふみ「大奥」でも(性別は逆転していたが)そうだったのできっと史実もそうなのだろう。
町娘がホストクラブ(そんなもん江戸にあってたまるかと思うのだが娯楽時代劇だからきっといいのだ、シャンパンタワーならぬ日本酒タワーだってあっていいのだ)にいれあげて借金をつくり悪漢に追い回される、というのが社会問題を突いているし、悪役の目論んだことが日の本を戦争状態にすること、というのはウクライナ情勢や中東情勢を踏まえてのことなんだろうな、と思う。娯楽時代劇というのは広くお茶の間で観られるものであるからこそ、メッセージ性を込めることができる。
いやあ面白かった。松平健がたいへんかっこよかった。若いころのようにシャープな印象ではなかったが、なんというかどっしりと貫禄があってとてもよかった。
家重役の西畑大吾は某朝ドラで戦死して大泣きさせられたあの可憐な男の子がずいぶん凛々しくなったなあ、と思った。アクションもいけるのか。彼を主人公にしてシリーズ化してもいいのよ。
ちなみに暴れん坊将軍でいちばん好きなところは「開き直る悪役」である。いちどは上様であることに気づいて「ははあーッ!!!!」と平伏するのだが、「潔く腹を切れ」と言われて「上様とてここで死ねばただの浪人」とか「かようなところに上様がくるわけがない、上様を騙る痴れ者じゃ」とか開き直るのが最高に楽しい。
あと今回は吉宗公が末っ子(役者さんの実年齢的には孫でもおかしくないのではないだろうか)に、「鬼狩りの剣」だったか、明らかに「鬼滅の刃」のパロディと思われる話をしようとする……というシーンがほんの一瞬あって、そこもくすっと笑ってしまった。
松平健のすげえところは、おそらくこの将軍吉宗公を演じながら、朝ドラのヒロインのおじいちゃんも演じていたはずである、というところだ。
朝ドラ「おむすび」のヒロインのおじいちゃんこと米田永吉は、困っている人がいると動かずにはいられないホークスファンの九州のおじいちゃんだ。ちょっとホラ話をする癖があるが、ごくごくふつうのおじいちゃんである。そういうキャラクターと、八代将軍吉宗公というスペシャルなキャラクターを、完璧に演じるというのはやはりただの役者ではない。
暴れん坊将軍には人生を救われた、と思ったことがある。
いっときアルバイトをしていたころ、家に帰ってきてテレビをつけるとやっていたのが時代劇の再放送だった。最初に観たのは「八丁堀の七人」だったが、それが終わった(なお完全なる打ち切りエンドだった)あと、「暴れん坊将軍」が放送され、夢中で観ていた。
起きる問題こそ違えど、いつも上様が大暴れして悪をくじいていくのを観るたびに胸がすいた。いま苦しんでいることを少し忘れた。「暴れん坊将軍」というのはそういう力を持った時代劇だったのである。
いまはテレビ局の予算が少なくて、時代劇を作れない、と聞いた。セットと衣装とカツラを全員ぶん用意しなくてはならないのだからそりゃそうだろう。殺陣のシーンで斬られていく人たちも必要だ。
えねっちけーなら娯楽時代劇をぽつぽつ作っていて、よくBSで放送しているようだが、原作のある硬派なものが多いようで、日曜朝の地上波再放送をたまぁに観ているが昔の娯楽時代劇とはちょっとベクトルが違うように感じる。
わたしが求めてやまないのは、馬鹿馬鹿しくて荒唐無稽で、楽しくスッキリ終わる娯楽時代劇である。
もちろん大河ドラマも大好きだ、あれも娯楽時代劇である。ただ一部に「高尚な歴史物語」を求めているファンがいるようで、「どうする家康」みたいな娯楽時代劇味の強いやつを作ると「史実と違う!」と言い出すやつがかならずいる。史実をどう仕立て直すかが脚本家の腕の見せ所ではないか。
一部激しく叩かれていた「どうする家康」は、すごく楽しく観た。紫禁城のごとき清洲城とかはゲラゲラ笑ったし、武田信玄が完全なるローマ貴族だったのも面白かった。
そのあとの「光る君へ」だって、源氏物語を描いた紫式部の物語だが、紫式部が藤原道長と不倫関係にあるというぶっ飛んだ内容で、そこは賛否両論だったが、とても面白く観た。
時代劇というのはぶっ飛んでいていいのではないか。今年の大河「べらぼう」に期待である。
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