名画座しかない街
わたしの住んでいる街には新作映画を上映する映画館がない。歴史ある名画座があるだけだ。だから新作映画を観に行くとなると片道1時間かけて隣県の都市に行くか、県庁所在地まで片道2時間かけていくかになってしまう。ポケモンみたいな子供向けの人気作なら文化会館で上映することもあるが、文化会館の音響はハッキリ言ってかなりざらつく。
そういう街でも鬼滅の刃ブームは到来しており、買い物に出かけるといたるところで鬼滅の刃のキャラクター商品を見るし、書店でも大々的に展開されている。
こりゃあ隣県の都市に鬼滅の刃の映画観に行く子供さんいっぱいいるんだろうなあ……と思っていたら、噂によると市内のすべての小学校に隣県の都市に出かけるなというお達しが出ているらしい。まさにその隣県の都市で、コロナウィルスのクラスター感染があったらしいのだ。
これすなわち事実上の「劇場版鬼滅の刃禁止令」である。
片道2時間かけて県庁所在地に行くとなると、小学生の体力ではしんどいのではなかろうか。二時間あれば「風の谷のナウシカ」を全編ぶっ通しで観ることができる。
最初のエッセイに書いたように、歴史ある名画座で「一生に一度は映画館でジブリを」が始まり、わたしは劇場で「風の谷のナウシカ」を観るという貴重な体験をした。二時間ぶっ通しで観る、ノーカットCMなしのナウシカは最高だった。テレビではカットされがちな「わしゃギックリ腰」という爺さんのセリフを聞けたのがめちゃめちゃ嬉しかった。ナウシカは原作を全巻揃えるレベル、セリフを暗記できるレベルで好きなのだ。
その日、その劇場には前の日に学習発表会があって振替休日だったらしい小学校の学童保育軍団が来ていた。結構な人数で、高学年の子供もいたように思う。
(きっとナウシカより鬼滅の刃観たかったんだろうな……)と、わたしは思った。鬼滅の刃を読んだり観たりしたことのない、流行に遅れているわたしであるが、子供たちのみならず大人もハマる、社会現象を起こすヤバい作品であることは知っている。もしわたしが子供だったら、昔の名作アニメより新しい人気作を観たいと思うだろう。
高学年と思しき子供さんが、「せんせー、寝てるってアリですかー?」と言っていて、ハナからナウシカに興味がないことを表明していたが、劇場の大音響のなか、あの子は眠れたんだろうか。いや眠れないだろうな~!
これがきっかけであの小学生たちがナウシカにハマって原作を読み人間性をねじられるのを期待しているのだが、どうだろうか。待ちたいのだ(クシャナ殿下の声で)。
ちなみに小学生たちはナウシカたちが腐海に不時着するシーンで集中力が切れたらしくぞろぞろトイレに向かった。やっぱり2時間動かないでいることを子供さんに強いるのは酷なのだ。でも文化会館じゃあPG12の映画を子供向けに上映はしないんじゃないだろうか。いや待てよ、文化会館で大人向けに北野武の「龍三と七人の子分たち」やってたな、なら鬼滅の刃もブームが去ったころにワンチャンあるかもしれない。
それまでに鬼滅の刃をちゃんと読んでみたい。ミーハーなので。
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