テレビの話

 わたしはそんなにテレビっ子というわけではなかった。むしろ小さいころはドラえもんのアニメを見ていてのび太くんがやらかすのが怖くて逃げだす子供だった。大人になってから知ったのだが、この他人が失敗するのが恥ずかしいのは共感性羞恥というらしい。ちなみに高校生が部活で先生に叱られているのを見るのも大変苦手である。見ていると怖くなって逃げだす。


 そういうわけでテレビが苦手なまま大人になったのだが、二十代前半の夏ごろ、助成金ありきの会社でアルバイトをしていて、そこで助成金が下りなくて辞めざるを得なくなった。しばらく死体のような生活をしていたのだが、十月に入ってすぐだったか九月末だったかに「新しい朝ドラの子役さんかわいいよ」と母氏に言われて、生まれて初めてちゃんと朝ドラを見た。かの名作「ごちそうさん」である。


 小姑の和枝ちゃんのイケズだとか戦争で息子を亡くすだとか、すさまじくヒロインに残酷な朝ドラで、「主人公に残酷な物語は面白い」を地でいく展開に夢中になった。そこから、すっかり朝ドラクラスタになってしまい、ツイッターの朝ドラタグでわぁわぁ言うテレビっ子になった。ごちそうさんから後の朝ドラはほぼコンプリートしているはずだ。


 まあすごくすごくつまらない朝ドラというのもあった。でもどんなつまらない朝ドラでも面白く観ているひとは必ずいるので具体例は挙げない。だいいち朝ドラというのはNHKがいい脚本家を連れてきてお金をかけたセットや衣装を用意し一流の役者に演じさせるものなので、そもそもどれも同じくらいの水準にあるはずなのだ。だから「つまらない朝ドラ」というのは単純に自分に合わないだけなのだと思っている。


 朝ドラを見るようになってしばらくして、ちょうど「あさが来た」のあたりでさすがに毎朝ワナビ垢で朝ドラの感想をツイートすんのもなあ……と、朝ドラ垢を作った。そこで目にしたのは、2016年の大河ドラマ「真田丸」の第一話で盛り上がるTLであった。どうやらすごく面白かったらしいと聞いて、土曜の再放送を録画して観た。結果、すごく面白かった。


 真田丸は本当に傑作だった。大河ドラマをちゃんと見るのはこれが初めてだったので、理解のために月曜の昼間に二回くらい繰り返して観た。もっと日本史をちゃんと勉強しとくんだった……と思いながら、滅びていくものの美学に涙した。でもきっとすべて終わってからきりちゃんが江戸城の台所に忍び込んで鯛の天ぷらに一服盛ったはずだと想像するところまでが真田丸である。


 そういうわけで朝ドラと大河は欠かさず視聴している。「エール」もすごく面白いし、「麒麟がくる」もとても面白い。やっぱり基本として「主人公に残酷」であるというのが面白いドラマの基本なんだろうな、と思う。


 民放のドラマもぽつぽつと見ている。最近だとテレ朝の「妖怪シェアハウス」もすごく好きだった。最後、人間のふつうの喜びを選ぶのではなく、妖怪になって自由に生きていく生きざまを選んだ主人公はすごいと思ったし、やまちょすとかヨモツシコメさんの放つエネルギーはすさまじかった。あと座敷わらしさんがつんつるてんの着物で可愛かった。


 いま放送しているのだと日テレの「極主夫道」が好きだ。重曹やクエン酸をパケ分けしてアタッシェケースに入れたり、ハロウィンパーティの保安官の仮装を「メリケンのマッポ」と表現するセンスがすごい。


 民放でドラマというとTBSが強いらしいのだが、残念ながらわたしの住んでいるところにTBS系列の局がない。だからTBS系列のドラマは夕方にときどきやっているくらいで、ツイッターで「重版出来!」だの「逃げるは恥だが役に立つ」だの「アンナチュラル」が流行ったときもその盛り上がりに参加できなくてグギギとなった。ブームが落ち着いてから「逃げ恥」を別の系列の夕方の枠で観たが、なるほど盛り上がるわけだと納得した。


 アニメもときどき観る。それこそNHKのアニメばかり観ている。「映像研には手を出すな!」はとても面白かったのでぜひ二期をやってほしい。映像研は面白過ぎて原作にも手を出してしまった。たぬきのエルドラド編とかアニメですごく観たいのだが。


 アニメで観たいといえば、もうずいぶん前のことだが3月のライオンも面白く観て原作に手を出した。それで妻子捨男のくだりとか滑川さんのくだりとか、アニメにしたらぜったい面白いと思った。滑川さんの声はぜひ鳥海浩輔さんでお願いしたい。わたしが中学生のころはイケボの代表格だった鳥海さんが、最近「クラシカロイド」のショパンとか、某爆死アニメの申公豹みたいなぬるっとしたキャラクターを演じていらっしゃるのを見て、滑川さんの声は鳥海さん一択だろ……! というのが最近思うことである。異論は受け付ける。


 そういうわけで、NHKの深夜の枠でやっている「未来少年コナン」を、とても楽しく観ている。もう次回は最終回だ。このハードなアニメを子供向けにご飯時に放送していた昭和という時代は大変おおらかであるなあと思う。


 ぜひこの枠で「錆喰いビスコ」をアニメ化してほしいのだが、どこに頼めば実現できるだろうか。できれば制作はトリガーで。


 あと、NHKの「LIFE!」というコント番組が好きだ。キャラクターコントが充実していて、ムロツヨシのやっていた「妖怪どうしたろうかしゃん」を、中川大志が引き継いで「妖怪どうしてやろうかなん」というのをやるとかなかなか面白いことをやっている。しかし妖怪の姿で中川大志が出てきたとき、真田丸を思い出して「あのうるわしい秀頼さまがこんなことに……」と思った。


 LIFE! はほかにも秀逸なコントがいっぱいあって、「囲み取材」のゲスニックマガジンはどこの出版社から出ている雑誌なんだろうか、とときどき考える。あともうだいぶ前のコントだが星野源の「うそ太郎」とか「オモえもん」とかもすごく面白かった。


 それから最近仮面ライダーセイバーを見始めた。人生初の物心ついてから見る日曜朝の特撮である。最初はどこまでが番組でどこまでがCMかよく分からなくて録画をスキップするのが難しかったが、最近ちょっと慣れた。なんでいまさら見始めたのかというと、主人公が小説家だ、という設定がドラマ垢に流れてきたからである。ドラマ垢は朝ドラ好きばかりフォローしている結果周りに主婦が多くて、子供さんが仮面ライダーを観たところから特撮にハマったような人が案外いるのだ。


 武器がそのままおもちゃにできそうなデザインなのが面白いし、結構コミカルな演出があったかと思えばシリアスな展開になったりと感情の持っていきどころの激しさに驚いた。


 基本的に子供さんが見るものであることを想定して作っているから、そこには当然おもちゃの需要や子供さんの集中力に合わせた展開なのだろうなあ、としみじみ思う。とりあえず、きょうび原稿用紙に万年筆で原稿を書く若手作家はそうそういないと思うのだが、まあパソコンなりポメラなりをカタカタ叩いているのでは小説家に見えないのだろう。


 それから仮面ライダーセイバーを見始めてすごいなと思ったのは、現代日本人じゃない人間の着ている服のデザインである。一見すると普通の服なのだが、よくよく見ると地球上の人間が着ている服ではないデザインなのである。こりゃすげえ、と思った。


 あと、いったんストーリーを楽しむものから離れると、やはり最近好きなのは「ソーイング・ビー」である。NHKEテレで木曜9時に放送している、イギリスのガチ裁縫バトル番組である。この番組の何がすごいって「こんなん手製できるん?!」というようなものを作ることがすごいのだ。


 この番組は、若い人から年寄りから、男女問わずイギリスじゅうの腕利きのアマチュア裁縫好きがてっぺん目指して戦う番組である。イギリスくさいユーモアセンスがとにかく面白い。「このマネキンダイエットしないと」みたいな皮肉が出てくるし、登場するアマチュア裁縫好きが、わたしが「えっこんな難しいのを六時間で作れと?!?!」と思うようなものをひょいっと作ってしまう。すごすぎてびっくりする。


 いまやっている「ソーイング・ビー2」では、驚いたことにコルセットみたいな、そうそう家での裁縫では作らないようなものを作っている。課題はどれもすごく技術が必要そうだ。カーテンの仕立て直しや子供用の仮装衣装も面白かった。そしてこの番組は、だいたい必要で服を作っていた人が勝つ。今回の優勝はローナというお婆さんでないかと踏んでいる。ローナさんは背丈が高すぎて着る服がないという理由で裁縫をしていた人であるから。


 で、ここまでずっとつらつらと面白いテレビの話をしてきたわけだが、ここからは見てみたいテレビの話になる。


 ぜひやってほしい、いや観ずに死ねないのが、NHKで菅田将暉を主役にして、将棋のレジェンド加藤一二三先生の人生をドラマにしてほしい、というやつである。


 ご存知の方も多いかと思うがいちおう説明すると、加藤一二三先生はいまでこそぬいぐるみみたいな見た目だが、若いころはすさまじくシュッとしたイケメンで、それこそ菅田将暉みたいな顔をしているのだ。ぜひその若いころをNHKでドラマ化してほしいのである。


 加藤先生が菅田将暉なら奥様役は有村架純かなあと思っている。可愛らしくて大人しそうな、でもハッキリとした強さのある女優さんがいい。


 加藤先生目線ではなくて、奥様目線で(この人連敗しているのに不安がらない……なんで……わからない……いいえわたしにできるのはステーキを焼くことだけだわ……!)みたいな感じの話にしたら面白いと思うのである。そして菅田将暉がチョコレートを重ねてかじったり、子供が生まれたという連絡を受けて産院のガラス仕切りに激突したり、即詰みを発見して「うひょー!」と叫ぶところを、ぜひ観たいのである。


 というわけで朝ドラに加藤一二三先生とその奥様が主役の「グラジオラス」というのはどうだろうか。リアル中学生くらいの子役さんに、加藤先生が対局で授業に出られないときに奥様になる女の子がノートを取ってあげるという超リア充エピソードをやってほしい。なかなかないですよこれだけのリア充エピソード……。


 ただ加藤一二三先生本人が自分の結婚について「秘するが花」とか「秘中の秘」とか言って恥ずかしがってなんも喋らないので、このドラマは取材が難航するかもしれない。


 そしてもちろん、このドラマの最終回は、特殊メイクでまるまると太らされ年老いた主人公が、くせっ毛にニキビに学生服の少年と対局し、カマンベールチーズをモグモグするシーンで終わるのである。完璧じゃないですかこれ。NHKさんシクヨロです。


 さて、次の話題であるが、この原稿を書いているのがいつなのかというと、2020年10月29日である。ほとんどの部分は午前中に書いて、さて昼飯食いながらニュースでも見るかあとテレビをつけたところ、この原稿の全体に登場していた俳優がひき逃げで捕まっていた。


 昼飯を食べてからツイッターを開いてみると「もうやだ2020年!」というツイートが流れてきていた。確かにもうやだ2020年ではある。コロナウィルスの影響でテレビドラマは収録が滞って朝ドラも大河も遅れてしまったし、俳優さんが亡くなったり不祥事を起こしたりする事件もいろいろあった。さっき挙げた「LIFE!」というコント番組も、年末に特番としてひき逃げで捕まった俳優が出るスペシャルドラマをやる予定だったはずだ。


 その俳優が捕まったせいでいまこうして書き直しをしている(朝ドラ「スカーレット」とかLIFE! の「スポーツ番長RX」とか……)わけだが、果たして出演俳優が不祥事を起こしてドラマや映画がお蔵入りになる必要があるのだろうか。


 正直なところ、それはわたしにはよく分からない。出演俳優が放送のさなか問題を次々起こした大河ドラマ「いだてん」が役者を変えたり編集したりあるいは大英断で登場させたりしているようにやり方はいろいろあると思う(そして「いだてん」はすごく面白かった)し、作品に罪はないという考え方も分かるし、それでも悪いことをした人間を堂々と映すわけにいかないというのも分かる。


 しかしいちばん肝心なのは、悪いことをしたことを茶化してはいけないということではなかろうか。たとえば「某無人島に更生施設を作って某元メンバーのアルコール依存症を直そう!」というのは、ちょっと度の過ぎる大喜利だと思う。


 悪いことを茶化してはいけない。悪いことをした人間はしかるべき手段で罪を償い、ちゃんともう悪いことをしない、と反省しなくてはならないと思う。そのうえで、作品を公開するかしないか決めるべきだと思うのである。だからその、「罪を償い反省する」という過程を、面白がってネタにしてはいけないと思うのだ。


 母氏が言うには、芸能人が事故を起こすと被害者にたかられて膨大なお金を取られたりするらしい。どうか、今回捕まった俳優が、ちゃんと罪を償い戻ってこられるといいなあと思う。そしてとりあえずNHKは局員全員お祓いを受けたほうがいいと思う。

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