明日は雨が降りますように
香枝ゆき
明日の予報は
明日の天気予報がテレビから流れている。
より詳細にわかるスマホの天気予報でも、結果は変わらない。
一般的に、いい天気。
つまり晴れ。
ため息が出てきてしまう。なぜなら晴れは、誰かにとってはいい天気でも、私にとってはそうではないから。
晴れた日の週末は。
彰と最初に会ったのは小学校のときだった。
転勤族の親がいるらしい。
ただでさえ、転校生というだけで注目されるのに、彼にはほかにも注目される要素があった。
彰は双子の片割れだった。
双子の兄、
珍しがられていた。私たちの学年に双子はいなかったし。
そして、彰の人柄だ。明るくてスポーツ万能。だけど目立ちたがりやじゃない。
私のような本の虫にも接してくれる。
というか、彰には、意外にもそういう友達が多かった。
いわゆるスクールカーストにしばられない、ちょっと不思議な人。
そして中学校を卒業する前に、転校していった。
私の初恋のひと。
思い出の中だけだっだのに。
それが、大学で、出会った。
文学部、日本語日本文学科。
女子が多い学科で、昔より背が高くて、体も大きくなった彰がいた。
「彰くん?」
染めることを知らない黒髪がわずかに揺れる。声をかけたら、一瞬きょとんとして、ぱあっと嬉しそうにして。
「ひさしぶり、章子ちゃん」
そういってくれただけで、天にも上る心地だった。
覚えていてくれた。
そしておなじ、日本文学専攻だった。
もしかして、また前みたいに仲良くなれるかも。
だけどそれは最初だけ。久しぶりに会って話そうとしても、講義前の休み時間くらいだ。
だから週末。
彰のバイトとかが休みの。
土曜や日曜に遊びに誘ってみた。
勇気をだして。
なのに。
「友達と遊びに行く」
「キャンプ」
「キャンプ」
「キャンプ」
誘ってOKをもらえた戦績、0勝十数敗。
わたしはキャンプに負けている。
あるいは、キャンプをダシに、断られている。
私が体よく断られているのに気づいていないだけだろうか。
だけど普通に話しかけてもこたえてくれる。
だからなおのことわからない。
「あのさ」
「うん」
「帰りにちょっと付き合ってくれない?」
なりゆきで大学終わりに寄り道したショッピングモール。
登山やキャンプ用品を扱う専門店。
ぶつぶついいながら、同じようにしかみえないアイテムを見比べて悩んでいる。
そして気づいた。
彰は狂ったようなキャンプ好きだ。
「ねえ彰くん」
「なに?」
「彼女ほしいんだよね?」
「どっから聞いたのその情報」
「語学が一緒の恒川くん」
「ああ、ツネちゃんね」
「私思うんだけど、例え彼女ができてもその頻度でキャンプ行ったら続くものも続けないとおもったのですが」
「それ言っちゃう?」
お願いします。
てるてる坊主はさかさにつります。
だって会いたいから。
雨が降ったら、彰は家にいるのだから。
そしたら私は会いに行ける。
ーーこの週末は、雨模様となるでしょう。
「ねえ、彰」
「なに?」
「明日はキャンプ、行く?」
「行かないよ」
「じゃあ、遊びにいってもいい?」
はっとした顔が瞳にうつる。
「いいよ」
次の瞬間には、笑顔になって。
「俺も、休みの日に会いたかったから」
明日は雨が降りますように 香枝ゆき @yukan-yuki
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