モールス・コードで愛を伝える。今は遠くの、愛する人に伝わると信じて。

本作品は、SFミリタリーとサスペンスを主軸に、主人公の恋愛を描いた物語です。
詳しい人物描写、心象風景、その機微を事細かに描かれた内容は、キャラクターに愛着を持つに十分です。読み進めて行くと、きっと素敵な……思い入れ溢れる誰かに出会えるでしょう。

特筆すべきは、その緻密な人物描写と言いたいですが、それだけではありません。
舞台装置となる近未来と政治形態、それに関わる多くの組織、それを濁す事なく重厚な設定を背景に書き切っています。
専門用語の多さも、それを脚色する補助役になっており、それが一層この世界観をリアルなものに感じさせてくれます。

そして、そこで外交官として働く主人公が、テロを阻止するところから物語は動き出します。この時点で恋愛要素は薄目で、匂わす程度になっています。
しかし、このサスペンスとして描かれる群像劇が、映画を思わせる様な脚本で見ていて飽きません。

情報量の多い作品ですから、読み解くのは苦労するかもしれません。
昨今の余計な部分は極力削いだ、読み易い文章とは対極に位置する文体かもしれませんが、読み進める毎に虜となっていく事に気付ける筈。
そうなった時、この緻密に計算された脚本の良に気付く事でしょう。

主人公に隠された壮絶な過去、二重人格を思わせる不穏な雰囲気。
それら全て、ご都合主義的ではなく、しっかりとした伏線が用意された上で描かれています。
有能完璧、非の打ち所がない主人公が見せる顔の裏にあるものとは……。

数々の困難と、それを乗り越え幸せを掴み取る物語を、是非ご堪能下さい!

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