餅つき婆
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第01話:餅つき婆
ぺったん、ぺったん。
僕が
辺りはもうだいぶ暗い。こんな時間に
ぺったん、ぺったん。
また声がした。後ろの方からだ。
歩くのを止めて
気のせい……だよね。そう自分に言い聞かせて
ぺったん、ぺったん。
まただ。
僕は怖くなってきて走りだした。
ぺったん、ぺったん。
あきらかに声は僕を追ってきていた。つかず離れず僕に合わせてピッタリとついてくる。
怖がりながらも、何とか僕は家まで逃げ帰ることができた。
急いで玄関の鍵を閉めると、恐る恐る外の様子を
あの声は何だったんだろう? きっと誰かのイタズラだよね? まさかお化けなんかじゃないよね? その疑問をA君に聞いてみることにした。A君は霊感が強くて都市伝説にも詳しい子だった。
早速A君に電話すると真剣な声でA君が言う。
「それは『
「
「
「
「そうだ」
「走って逃げられないかな?」
「無理だね。
「大丈夫。もし
「
「『その
僕はA君にお礼を言って電話を切ると忘れないように
翌日も帰りの通学路であの声が聞こえた。
ぺったん、ぺったん。
僕はA君に教えてもらった通りに
結局、その日も僕は泣きそうになりながら家へ逃げ帰った僕は、もう一度A君に電話をした。
それからは悪夢だった。翌日も、そのまた翌日も、翌週も、そのまた翌週も、僕が学校から帰ろうとすると
しかも、
我慢の限界だった。朝、起きるなりに泣きわめいて登校を拒否したけれど、母は僕を叱りつけて無理やり学校へとやった。
どうしようと考えているうちに下校の時刻になってしまう。
帰りの支度もしない僕を見てA君が「大丈夫か?」と声をかけてくれた。状況を説明するとA君は「今日から一緒に帰ろう。だから心配するな」と言ってくれた。嬉しくて泣きそうになってしまった。
いつもの帰りの通学路。でも今日はA君が一緒にいてくれる。
「手をつなごう。何があっても離すなよ」
僕は
しばらく歩いていると、またあの声が聞こえ始める。
ぺったん、ぺったん。
息がかかりそうなほど、すぐ近くだ。背筋に冷たいものが走った。
僕は
「……今の声、聞こえた?」
「聞こえた」A君の声にも緊張が走っていた。
ぺったん、ぺったん。
「……なぁ、
今度は耳元で
「……なぁ、こっち、向いて、一緒に、
僕の手を
ぺったん、ぺったん。
「……きなこ
ぺったん、ぺったん。
「……悲しい、な。こっち、向かん、と、悲しい、な。
ぺったん、ぺったん。
「……クソ、ガキ。こっち、を、向け。向け。向かす、ぞ?」
両手で耳を
A君もすぐに僕の意志を
僕の背中にピタリと張り付いたように
ぺったん、ぺったん。
「……逃がさ、ない。逃が、さない。逃が、さ、ない」
僕達の叫び声の合間に耳元で囁かれる恐ろしい声。きっと
走った。がむしゃらに走った。息があがる。心臓が破裂しそうだ。それでも僕達は走った。
できるだけ車の通りが少ない
いつのまにか
「もう大丈夫。逃げ切れたようだ」
A君の声に
「……
A君の肩
うわっ! 僕が思わず飛びのこうとするが、手をつないだままのA君を思い切り引っぱってしまい、僕達は
ところどころ毛の抜けた白髪。
それを見てA君が叫ぶ。
「
僕達は急いで立ち上がると、すぐさま
ぺったん、ぺったん。
後ろを見ると、
「追いつかれちゃうよ!」
そう僕が言うとA君がすぐさまに叫んだ。「助けて! 殺される!」
周囲の人影が歩みを止めて、こちらに注意を向けたのが分かった。中にはわざわざ
A君が
もう駄目だ。逃げ切れない。誰も助けてくれない。もうどうすれば良いのかわからない。いつのまにか僕はボロボロと涙を流していた。そんな僕をA君が
「大丈夫。まだ諦めるな。交番まで逃げきれれば助かる道がある」
僕は
大通り
「変質者に追われてます!」
A君がそう伝えると警察官は警棒を手にした。「君達は奥へ。危ないから下がっていて」そう言って慎重な足取りで入り口に近づく。周囲を確認して外へ出ていった。
僕達は交番を奥に進む。A君は視線を
ライオットシールド? 僕が訪ねるとA君が「
「
シールドは突然の
僕も一緒に
しばらくして警察官が戻ってきた。交番に入るなり僕達を見て優しく微笑む。
「君達、安心して。あたりに怪しい奴はいなかったから。ところで詳しい話を聞かせてほしいんだけど――」
「……こっち、を、向い、て?」
不意に声がした。警察官の背後から。
警察官が
グシャリ。命が潰れる音がした。
警察官が勢いよく机にぶつかって、ずるりと地面へと崩れ落ちた。そこへ
ぺったん、ぺったん。グシャリ。グシャリ。
目の前で行われる
ぺったん、ぺったん。
ひとしきり
わあああああああぁぁあぁぁぁっ!!
逃げ出さないと!
でも
僕達の近くには窓もドアもなかった。
すぐ後ろは壁。
もう逃げられない。
殺される。
そう思った時、A君が
「……
ハッとした。そうだ、なんで僕達は忘れていたんだろう。
僕達は
「その
それでも僕達は一心不乱に
ぺったん、ぺったん。
迫りくる恐怖に、僕は目を閉じ、耳を
「その
ぺったん、ぺったん。
ふと、周囲が静かになった気がした。
「……そんな
グシャリ。僕の
恐る恐る目を開く。
もう疲れた。何かを考えるのも
ぺったん、ぺったん。
そういえばA君は
あの時は深く考えなかったけれど、A君はどうして武器を探していたのだろう?
……ああ、そういうことか。
逃げ出せない。誰も助けてくれない。そして身を守ることすらできなかったのなら。
都合よく
すかさず
その光景を見て、僕はなんだか可笑しくなってしまって
僕は
ぺったん、ぺったん。グシャリ。グシャリ。
手に伝わる
ぺったん、ぺったん。
一
ぺったん、ぺったん。
腕を
ぺったん、ぺったん。
ぺったん、ぺったん。
あと何回で死ぬかな?
ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん。
ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん。
ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん。
ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん。
ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん、ぺったん――。
……さて、次は?
あたりを見回しても、次がいない。
だから、僕は、探す、ことに、した。
次を、見つけて、今日も、
ぺったん、ぺったん。
翌日も、また、その翌日も。
ほら、あなた、にも、聞こえる、でしょ?
ぺったん、ぺったん。
あなた、の、後ろ、で。
すぐ、近く、で。
ぺったん、ぺったん。
――ほら、こっち、を、向い、て?
餅つき婆 ペーンネームはまだ無い @rice-steamer
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