第523話「番外3・この世界の事(3)」

「さて、ここまでは良いな。この時点で『世界』は、この世界の連中にホイホイと力を与えたらえらい事になると悟った。そこで自分たちが制御できる、つまりリミッター付きの体を生み出した。それが「客人」の依り代の大本となり、強制退場、肉体と精神を切り離すのがそのリミッターというわけだ。しかし」


「また問題でも?」


「うむ。魂が宿らなかったそうだ。『ダブル』がかかる「病気」と同じ状態だ。まあ、一種のホムンクルスを作ったせいだろうな。クローンソルジャーかもしれんが」


 オレは経緯はどうあれ二度ドロップアウトしかけたので、なんとも耳の痛い話だ。

 けど、この話の答えも見えた。


「それで「客人」を呼ぶようになったんですね。けど、なんで300年間隔? 何かの縛りでも?」


「まあそうだ。SF的に言えば、エネルギーを貯めないと新しい「異界」の扉を開けないのだそうだ。そしてここからが吾輩達にとって重要なのだが、新たに開いた「異界」の扉は、30年程度しか最盛期を維持できない」


「つまり、あと10年ほどで閉じる? エッ? じゃあオレ達は、どっちかの世界を選択しないとダメとか?」


「流石にそれは大丈夫だそうだ。30年ほどでご新規さんが呼べなくなり、「客人」の数も徐々に減るだろうから、それに合わせて扉を小さくしていくのが慣例らしい」


 シズさんの言葉に、心底ホッとする。

 けれど、「だが」と博士は続ける。


「それでも100年程度で扉は完全に閉じる。そしてこっちに残る「客人」は、一部の妖人となった連中だけという事だな」


「まあ100年なら、向こうでの一生は終わっているから問題ないか。それにしても、いまひとつロマンに欠ける世界だったんだな」


「そうか? 魔法が使えて魔物や魔獣がいるんだ。ファンタジーとしては十分だろ」


「相棒は前向きだな。だがまあ確かに、その通りだ。それに話を聞いたところで、何かが変わるわけでもなかったな。チートや抜け穴もなかったわけだし」


「そんな期待してたの? さすがバカジョージ」


「そうだよ。やっぱ、兄弟みたいに強くなりたいだろ」


「地道に努力するのね。ショウ君達も、死線を何度も潜り抜けてきてるんだから。そのせいで、気苦労は絶えないけど」


 ジョージさん達の会話の最後に、マリアさんがハルカさんに近づいて上から抱きかかえる。

 そしてそれを受け入れたハルカさんが、首をあげて応えている。

 けど、それも途中で止まり、レイ博士へと顔と視線が戻った。


「ねえ、創造主が旅立ったとか言ってたけど、滅びたんじゃないのね? 神殿の神話では、世界を創造した後、さらなる高みへと旅立ったとされてるけど?」


「ん? 話してなかったか? まあいいか。文字通り創造主なり造物主は、この世界を捨てて旅立ったんだよ。何しろ「異界」の扉を開けるほどの文明だ。恐らくは三次元より高位の次元へと旅立ったんだろう」


「高次元?」


 思わず声が出た。

 またSFだ。


「自分、またSFだと思っただろ。だが純粋なファンタジー世界だって、神の世界や魔界や精霊界があるだろ。あれだって、普通に考えれば異次元か高次元だぞ。何せ大抵は3次元世界で必要な肉体がいらんのだからな。もっとも、大抵、精神世界とかフワッとした表現しかせんから誤解されるのだ。

 それはともかく、この世界から旅立つのに必要がないから、肉体を含めて三次元的なものを全部置いて行ったんだろう。で、エルフの元祖なりご先祖は、高次元に旅立つのが嫌で残った連中。人も恐らくはそのエルフが退化したものだ。

 あと、神々の塔とかが残っていて、その管理者である『世界』があるのも、神話とは違う経緯を辿った証拠だ。

 あれだけのものを作った創造主なり造物主が滅びの戦争をしてたら、下手すりゃこの太陽系ごと吹き飛んどるぞ」


 めっちゃ喋る。

 これが喋りたかったんじゃないだろうかと思わせる話ぶりだ。

 そして、ポンポン喋るから、一部を除いて圧倒されてしまっている。

 面白そうな表情はトモエさん、少し憮然としているのはシズさんだけど、どちらもレイ博士の見解を否定する気は無さそうだ。

 けど、ハルカさんには、思うところがあるらしい。

 神官なら当然だろう。


「ねえ、神々が捨てた大地って言っている気がするのだけど?」


 少し非難や抗議の声色だ。

 それに気づいたレイ博士も少したじろいでいる。


「わ、吾輩に言われても困るぞ。だが『世界』の話と現状から推測する限り、吾輩はそう感じる。それにだ、三次元以上の高次元に旅立てるほどの存在だ。まさしく神々ではないか。

 SF的に言えば、おそらく物質的にはなんでもありだった筈だぞ。何しろ300年単位で定期的に生産される「客人」を呼ぶ魔導器、つまり量産可能な製品が、簡単にクローン人間のようなものを創造できるのだ。しかも一瞬で。

 世界竜だって、連中が生み出したので間違い無いだろうし、もしかしたら残留した創造者達の一部が、その肉体を依り代としたのかもしれない。何万年も生きて色々忘れとるようだから、真実は分からんだろうがな」


 再度の博士のまくし立てに、ハルカさんが憮然とした表情をしている。

 二度にわたるレイ博士の大攻勢を前に、否定し難くなったようだ。

 けど、正直オレにとっては、ただのトリビアに過ぎない。

 そこで小さく挙手する。


「レイ博士、壮大な話はともかく、そういうのは再現できるんですか?」


「は? 出来るわけなかろう」


「あ、一応聞いたよ。古代文明を再現とか再興できるかってのは」


 とはトモエさんだ。


「現状維持が精一杯で、古代の建造物や能力が失われたら再現も再構築も不可能だそうだ」


 とはシズさん。

 何にせよ、オレが聞くまでもなかったらしい。

 となると、オレの残る疑問は大して残っていない。

 他のみんなも似たように思ったらしい。

 ジョージさんが、同じように小さく挙手した。


「でよう、なんでオレ達なんだ? 呼ばれたのは?」


 言葉が少ないけど、みんな何を聞きたいのかは理解できた。

 オレ達の世界に「異界」としての扉なり穴が開かれたのは良いとして、そこから「客人」としての選抜基準の事を聞いたのだ。

 レイ博士も、小さく頷く。


「もっともな疑問だな。『ダブル』は、なぜティーンエイジャー中心なのか、なぜ欧米、日本からなのか? 過去多く語られてきた事でもあるな。だが、今までの推論と今回『世界』から聞いた話を総合すれば、大体の推測は可能だ」


「というと?」


「「魔力」が生体電流などを利用して吾輩達を呼んだのだとすると、その生体電流が強い対象を選ぶだろう。呼びやすいんだからな。

 それと、これは以前から言われているが、適合対象が多少なりとも見つけやすい、インターネットなどの電子情報媒体が普及していた地域を『世界』が最初の対象として、その後は広げたり移動したりできなかったのだろう。

 あと年をとると、眠りが浅くなったり不規則になりがちだから、対象をティーン中心にするのは当然だろう」


「そこまでSF的なんでしょうか?」


「さあな。だが今の話は、吾輩の仮説や推論を多分に含んでいる。だが吾輩としては、精神とか魂とかスピリチュアルとかフワッとしたもので理解、説明されるより余程納得がいく。

 だいたい、この世界は神も天使も精霊も妖精もおらんではないか。吾輩、来た頃は随分と期待したものだぞ」


「天界も魔界も妖精界、精霊界も無いものな。で、話を少し戻すが、その高次元は異次元とか三次元半とかのSFにありがちなものでは無いのか?」


 珍しくシズさんが同意している。


「どうだろうな。だが吾輩は、4次元以上の高次元だと推測している。亜空間などでは無いだろう。でなければ、三次元同士のこの世界と吾輩達の世界をなんらかの方法で簡単につなぐなどできんだろう」


「簡単なのか?」


「簡単だろう。100年も継続して繋ぎ続けられるのだぞ。しかもエネルギー供給の方は、半恒久的ときた。一体、どうなっとるのか、さっぱり分からん」


 最後に腕組みして「フンっ」と居直ってしまった。


「聞いても分からないんですか?」


「そりゃ、『世界』自体が何も分かってなかったからね。あれって確かに管理者であって、創造性ゼロだもんなあ。……と言うわけで、」


「わけで? 何か手が?」


 オレの相槌的質問にトモエさんがにこりと笑みを浮かべる。


「神々の塔以上の古代の遺跡を探しに行こう。熱砂大陸のどこかにあるかもらしいよ」


「マジですか?」


「何にせよ、まずは海皇の聖地アルカディアだな」


「賛成。私、別に世界の謎とかに興味ないから、巡礼さえできたらそれでいいわ。あでも、ウルルは見たいかも。あるんでしょ、この世界にも」


「らしいな。あれの方が余程世界の謎っぽいし、この先は観光気分で行きたいところだな」


「エーッ、面白そうなのに〜!」


 新しい探し物を見つけたトモエさんの訴えにも、他の女子達は興味なさげだ。

 けど、レイ博士はそうでもないようだ。

 男子勢も古代の遺跡に興味を惹かれている。


「面白いかはともかく、空母2隻にSランク多数という戦力で、大巡礼だけとは勿体ない限りだな。その気になれば、行く先々で国を征服できてしまうぞ」


「それ、滅ぼすだけでしょ」


 とはハルカさんだ。

 レイ博士の言葉は大抵一言多いので、予想通りの展開だ。

 


「世界征服は興味ないけど、勿体ないのは確かだよねー。ねえ、探そうよ、キューブが眠ってるかもよ」


「神々の塔の二週目は勘弁だな」


「大巡礼もまだ半分も行ってないもんな。この後、どう寄るんだっけ?」


 オレの言葉に、何人かが場所を思い浮かべる。

 女子は地理が苦手というけど、このメンツでそれはない。

 そして数人が目配せして、結局神官であり実質リーダーのハルカさんが代表した。


「海皇の聖地、熱砂大陸のアルカディア。陽帝の聖地、ホーライのさらに上に浮ぶ天祥神殿。陸皇の聖地、草原の都ザナドゥ。炎皇の聖地、レムリアのガンダーラ。月帝の聖地、中東、三日月地帯のバビロン。星帝の聖地、ナイルのイスカンダル。で、ノヴァ、アースガルズに帰っておしまい。以上の順番ね」


 ハルカさんがスラスラと諳んじたけど、何となく聞き覚えのある名前や地名が並ぶ。こういうところに、古い昔からのオレ達の世界とこの世界のつながりを感じる。

 けど、それよりも思う事があった。


「大巡礼だけでも先は長そうだな。オレも世界の謎探しは、二の次でいいよ」


 異世界に居ようが、地に足をつけるのを忘れたくはないものだ。





_________________________


長い間、お付き合いいただき、ありがとうございました。

超長編を完結させるという目的もあり書いてきましたが、何とか書ききることができました。

これも読んでくださった皆様のお陰です。

この場を借りて、御礼申し上げます。

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チート願望者は異世界召還の夢を見るか? 扶桑かつみ @husoukatumi

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