第522話「番外2・この世界の事(2)」
「ぶっちゃけ、この世界の謎は分からずじまいだ」
「『世界』がだんまりだったからですか?」
「チガウヨー。知らないんだってさ。『世界』はただの管理者で、今まで色々あったから記憶の多くも無くなっているんだってさ」
トモエさんがオレの質問に答えたせいで、レイ博士が口をパクパクさせている。
「そ、そういう事だ。だが、神話レベルでの話ならば、多少は聞き出せたぞ。こいつは神殿の言い伝えより古い記録だ」
「へーっ、どんな神話ですか?」
「自分、もう少し興味持ってくれよ」
げんなりしながらも、レイ博士が説明を始めた。
創造者や造物主とされる存在がこの世界を「作った」のは、数万年前の出来事。しかしそれが2万年前なのか10万年前なのかは、記録が無くなっているので分からない。
今までの『ダブル』の調査などからの推測を含めると、3万年以上前という説が有力だそうだ。
けど、人類文明発祥以前の話をされても仕方ないし、調べようがないのでここでは置いておく。
そしてその創造者や造物主は、「魔力」によって非常に高度な文明を作り上げた。そしてさらに高度な技術を生み出し、その力によって異界の彼方へと旅だったらしい。
神々の塔など、今の世界に不似合いな人工的構造物などは、その時代に作られたと見て間違いない。
しかも宇宙空間の事を『世界』は認識しており、宇宙にも色々と残されている可能性が高いそうだ。
この話は『世界』だけから聞けた話で、神殿の神話だともっとファンタジー色満載に書かれている。
けど「魔力」が最初かあったのか、それとも創造者や造物主が生み出したのかは分からない。
分かるのは、世界は様々な効果をもたらす「魔力」で満ちているという事だ。
ではその「魔力」とはなんぞや。
オレが聞きたいとするなら、ここからだ。
「魔力」はある種中立的な力だ。
お約束なファンタジー世界のように、正邪もなければ地水火風などのカテゴリー分けもない。
正しい法則に従って命令を与えれば効果を発揮してくれる。
人が使おうと悪魔が使おうと、魔法は魔法でしかない。意思や信仰の力も関係ない。
そして勘違いしていたけど、「魔力」と魔力に力を与えるエネルギーは別物らしい。
これは新しい情報だ。
なんでも「魔力」は、創造者や造物主が開いた「異界」の穴から流れ出してくる力を活動源にしているのだそうだ。
そしてその「異界」の穴は月軌道辺りにあるらしく、月の巡りが「魔力」にもたらすエネルギー量に関わるらしい。
レイ博士は、真空からエネルギーを捻り出しているのではと推測していたけど、その真偽は不明だ。
少なくともノヴァでの実験では、大量の電気エネルギーなどは空気中に存在していなかったらしい。
なぜ電気を調べたかといえば、『ダブル』が再現した無線機が用をなさなかった為で、空気中の非常に電子が多いのではと考えられたからだ。
けど実際は、空気中に無数に存在する「魔力」そのものが電波妨害の役割を果たしている事が朧げながら分かったのだそうだ。
こうした考えが出てくるところに、『ダブル』が「魔力」をある種の科学的根拠を持つ存在や物質と捉えている証拠を見て取れる。
けど、実際は違っていた。
「異界」の穴から流れ出すのはエネルギーそのもので、もし科学的根拠があったとしても量子レベルのものだろうというのが、レイ博士の新たな推論だ。
まあそんな無理やりな科学的な話はともかく、「魔力」は空気中に満ちていて、オレ達の世界とは別の場所に開いた「異界」から無限にエネルギー供給を受けている事になるらしい。
そして「魔力」自体だけど、創造者や造物主が目的や用途に応じて色々な種類を生み出したか、もしくは元からあったものを改良していた。
だから様々な魔法があったりするのだけど、それをこの世界では「神々」や魔法属性で分けていたりする。
共通しているのは、能力発揮には知性による命令、恐らくは人工的な生体電流による電気信号を必要としている事。
『世界』はそんな科学的な言葉は一切使わないけど、話を紐解くとそういう事になるらしい。
少なくともレイ博士の説によれば、だ。
「なんだか、ファンタジー感半減な話ですね」
「だが、多少は納得いく話しであろう。そしてこの世界は、超高度だったであろう魔法文明の残り香を、間違ったもしくは歪んだ、いや退化した形で使っているという事になる」
「じゃあそれを高度な形に戻すことは可能ですか?」
「できたら苦労しないよねー」
「色々聞いたんだがな」
常磐姉妹の処置なしな声色が多くを物語っていた。
けど、ハルカさんは少し納得顔だ。
「だから私達の世界にも魔力が漏れて、そして力を発揮できたのね。もっと現実世界にも「魔力」を送り込めないものかしら?」
「それも『世界』に聞いたけど、ダメだってさ。いろんな意味で」
「いろんな意味?」
「「魔力」は有限で大量に漏れたら大変。それに「魔力」自体が、この世界以外だと長期間の活動は恐らく無理。大きくはこの二つでダメダメだってさ」
「そうなのね。治癒魔法があれば、私みたいに救える人が増えるのに」
「まあ、こちらの世界の人を救えば良いだろう。それでレイ博士、魔物や亡者と「魔力」の関係は説明できそうか?」
「うむ。任せたまえ」
シズさんの言葉に、ヒョロガリな体で威張ってドヤる。
けど、どういう事なのだろう。
「良いか? 「魔力」は命令を受けないと活動しない。だから活性化した「魔力」と不活性の「魔力」がある。ここまでは良いか?」
レイ博士の言葉に全員が頷く。
「うむ。つまりだ、「魔力」自体が知性を受け入れられるだけの能力を有しているという事だ」
「なるほどねえ」
「そうか」
「うむ、そうだ」
常磐姉妹がすぐにゴールにたどり着いたらしい。
レイ博士も満足げだ。
そして常磐姉妹以外の視線を受けると、また改まる。
「SF的に言えば演算能力を持つ、つまり小さなコンピュータ、ナノマシンのような機能を恐らく全ての「魔力」が有しておるのだ。
いや、科学と魔法の違いはあるが、別のアプローチから似たような技術に辿り着いたと表現しても良いのかもしれない。もっとも、現代文明ではそんな高度なナノマシンはまだまだSFの世界の話だがな」
「博士。だから話をファンタジーに戻せ」
「う、うむ。だがこの方がわかりやすかろう。それに続きがあるのだ」
「まあ、聞いてみようよ」
「かたじけないトモエ君。それでだ、吾輩達『ダブル』が魂の行き来する方法、それに「亡者」が生前の魂とでも呼ぶべきものを残している事は共通しているのではないかと予測する。シズ君の例を見れば、特にな。ついでに言えば、人型以外の魔物が高い知性を有している事も同様だろう」
「「魔力」がコンピュータ的な役割を果たして、脳の役割を肩代わりしているって事?」
「うむ、その通りだハルカ君。冴えとるのう」
「シズの話もだけど、私自身が死にかけたけど元に戻れた事も、レナが二重人格なのに実質二人に別れた事も納得はしやすいわよね」
「そうだな。それでだ、「魔力」の少なくとも一部は、演算装置でもあると推測するわけだ」
「けど、ファンタジー感がますます薄まるな」
「現実世界にまで魔法が干渉して、実質1日感覚で『ダブル」が行き来している時点で、ファンタジーの一言で説明できないんじゃない?」
「むしろ、偉大な神様の力の方が良いよ。まあ、あの塔を見たら、そんな考えも薄らいだけど」
ハルカさんの言葉にも、なんか少し脱力して机に突っ伏してしまう。
なんだかなー、な雰囲気はジョージさん達も同じようだ。
「ほらそこ、まだ続きがあるぞ。次は魔物だ」
「これは『世界』の言葉だけだよねー?」
「一応吾輩の推論も入っておるぞ」
トモエさんの言葉にレイ博士が付け加えるが、その声色から大半は言葉通りみたいだ。
「それで『世界』はなんと?」
「うむ。魔物は澱んだ「魔力」から生まれる。それはなぜか? 「魔力」は命令を受ける事に自らの意義を見出している。少なくともそういう命令なり指令が基本的に刷り込まれているんだろう。
で、その対象は殆どの場合は人だ。
そして深い森など人のいない場所でも、「魔力」はなんとか知性ある者からの命令を受けようとする。それが、まあ要するにバグって、自分たちで命令を与えてくれる存在を作ってしまうのだ」
「つまりその存在が魔物だと?」
「そうだ。だから魔物は基本人型であろう」
「動物を乗っ取る場合もありますよね」
オレがそう問いかけると、ボードに下手くそな何かの動物らしきの絵を描き、丸で囲んだり線を引いたりと色々と加えていく。
「それも知性ある魔獣のような力を、強引に与えようとする影響だ。だが、正規の手続きを経ているわけじゃないから失敗する。しかも一度に複数対象に行う事が多いので、その場にいる動物をつなぎ合わせた合成獣、キメラが生まれてくるというオチだ」
「なるほど。それで、魔物が基本人型ですけど、矮鬼ってあんまりあたま良くない感じですよね。あれもバグのせいですか?」
「そんなところだな。だが年月を経る間に是正が繰り返され、出世魚のようにより適合した魔物へと変化し、人となんら変わらない能力を有する悪魔へと進化していく」
「魔物全体がそうした歪んだ存在だから、基本的に人、知性ある者を憎む。何しろ、自分達は人の代わりでしかないのだからな」
シズさんがシニカルな笑みを浮かべ論評を添えた。
『世界』から聞いた魔物の話はここまでらしい。
「それで人を憎む魔物退治を『世界』から強制依頼された『ダブル』、じゃなくて「客人」登場ってわけだね」
トモエさんは元気そうだ。
そしてそのトモエさんに、シズさんの視線が向かう。
そうすると今度はトモエさんが話し始めた。
「私、ナイアガラのエルフの里でもちょっと話とか聞いたんだけど、やっぱり300年間隔で「客人」は呼んでるっぽいよ」
「エルフも?」
「エルフは別。基本、人と人に似た強い種族が交互に出現の流れね。人、獣人、人、ドワーフ、人、龍人、人って」
「つまり最初に「客人」が喚ばれたのは1800年前?」
「それより前は、あそこのエルフは知らなかった。それで、エルフは基本魔力量の多い人が変化するもんだけど、あそこのエルフは純粋なエルフの末裔らしいよ」
「と、そこで、なぜ『世界』が「客人」を呼ぶようになったのかという話になるのだよ」
せっかくトモエさんがテンポよく話していたのに、という視線がレイ博士に飛ぶけど、たじろぐ事もなく博士は話を継いでいく。
話している間は強気だ。
「この世界には、「世界竜」が滅ぼした大陸や地域が沢山あるだろ。だが、ほとんどは、何千年も前にエルフがやらかした跡なのだよ」
「そこから『世界』から聞いた話だね」
「最初『世界』は、澱んだ魔力から生まれる魔物退治を促進するために、この世界の人々に力を与えた。それがエルフ、妖人の元祖だ。
だが、はるか昔に旅立った創造主か造物主の姿の可能性も高いと、『世界』自体が推論していた。まあ、そうでないと、『世界』がポンポンと力を与えたり生み出したりはできんだろうからな」
「で、そのエルフがやらかしたのか」
「よくある話だな」
ジョージさんとレンさんが、呆れ顔で相槌を入れる。
「まさにその通り、邪神大陸と魔竜大陸はエルフ同士の相互確証破壊で滅びたそうだ」
「他は? 世界竜か?」
「これもエルフがらみだな。基本世界竜は、その名の通り世界の調整、均衡を図る存在だ。記録に残されたその力から推測するに、大規模な気象制御が本来の役割なんじゃないか?
でまあ、強欲なエルフは、その力を欲して逆鱗に触れた。熱砂大陸、暗黒大陸の南部、吾輩達が言う所のロシア地域にあったエルフの国々は、似たような感じで世界竜の超超巨大台風で、文明ごと消し飛ばされたというわけだ」
「一連の話は神話の話の真相って事ね」
ハルカさんが解説を添える。
なんとも真実を聞くと、神話も随分生臭い。
けど、どう繋がるのだろう。
その質問顔を見たレイ博士が、小さく頷く。
話には続きがあるらしい。
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