第521話「番外1・この世界の事(1)」
「さて、暇を持て余している諸君、午後の講義を始めたいと思う。議題は「神々の塔で聞いた世界の秘密」だ」
レイ博士が昼下がりの食堂を借り切って、聴衆というほどでもない仲間達を前にしている。
場所は飛行船エルブルス号の食堂。更にいえば、神々の塔を離れた翌日の南太平洋上だ。
周辺には海と空と雲しかない。
「それで博士、何の話だ?」
「話ではない、講義だと言っているだろ。神々の塔の中で聞いた話が、ようやく吾輩の中で多少整理がついたから説明すると、昼食中に説明しただろ。だいたい、これを頼んだのは自分らではないか」
「いやー、悪い悪い」
「まだ話が見えないんですが?」
レイ博士とジョージさんのやりとりに、予備知識なしに呼ばれたオレは質問するしかなかった。
そしてオレの言葉に、ジョージさんの隣に座るレンさんが「そういえば」的な表情を浮かべる。
けど口を開いたのは、臨時の壇上の上に立つレイ博士だ。
「自分が一時ドロップアウトしている間あんまり暇だから、ヒイロ君達が先に聞いたこの世界の謎などを、思いつく限り聞いておいたのだよ」
「あ、なるほど。じゃあ、オレの為にわざわざこの会を?」
「そうだと言いたいところだが、吾輩のように塔の『世界』に話を聞きに行ったのは、シズ君達女子の半数くらいだ。だからこうして自分以外も集めたという次第だ」
その言葉を受けて周囲を見渡す。
確かにヒイロさん達5人の姿はない。また、オレの領地の家臣の人たちの姿も見えない。
基本的に呼ばれたのは、オレ達とジョージさん達だ。ルリさんは隣の厨房で仕込み中なので、一応話声は届いていると思う。
またリョウさんはレイ博士の助手状態で前にいるので、席についているのはオレ達6人とジョージさん達4人になる。
レイ博士と一緒に『世界』に話を聞いたというシズさんは、前に出て話す気はないらしい。
「他にする事もないしね。それで、なに聞かせてくれるの?」
意外というべきかトモエさんはかなり積極姿勢だ。
席も前の方に陣取っている。
けどレイ博士の目は、少しうんざりげ。
「自分も一緒に聞いただろうが。しかも質問しまくって、『世界』が何度も返答に窮していたではないか。逆に吾輩の話を聞く意味あるのか?」
「あるよ。私の理解と他の人の理解が同じかを確かめとかないとね」
その言葉に「確かに」とレイ博士が妙に深く納得している。
この二人、インテリ的な会話の時だけ馬が合っている。
「まあ、言いたい事があればこちらから声をかけるから、進めてくれ」
「うむ。リョウ君資料を」
「はい」
シズさんの音頭取りで前の二人が動きだす。
そして事前にホワイトボードのようなものが立てかけられていたのだけど、そこに紙で大きめに書かれた資料らしものが手際よく貼られていく。
やはりリョウさんは、すっかりレイ博士の助手となっている。
そして本来リョウさんのポジションに居るべきスミレさんは、みんなにお茶を入れて回った後は横に控えているだけだ。
それだとクロや他のキューブと変わらない。
そしてその事に気付いてないレイ博士に、言うべきかと少し悩んでしまう。
けど口にしたのは別の事だった。
「確か、ヒイロさん達が聞いたこの世界や魔物についてですよね」
「あと、300年間間隔で『客人』が呼ばれる件だな。だが吾輩達は、それだけに止まっておらんぞ。ぶっちゃけ情報量が多いから、これから数日かけて順に話すので覚悟するよに」
「えーっ!」半数程度が一斉にブーイングだ。
「どうせしばらく暇なのだから良いだろう。それと誰でも良いので、今からの話は現実世界でも公開して欲しい」
「それ、自動的にオレの役目になるんじゃあ? そこまで暇じゃないんですけど」
「ん? そうなのか? まあその辺は吾輩以外で決めてくれ。はい、ハルカ君」
隣で小さく挙手したハルカさんを、もはや現実世界では死んでいるレイ博士ピシッと指差す。
指されたハルカさんも、少し前までは事故死したと考えられていたのだから、見方によっては興味深い構図だ。
「私、シズとトモエからある程度聞いてるから、他の事したいんだけど?」
「それを言えば、何も知らないのは男子どもだけじゃない?」
「そうですよね。一緒に聞きに行けばよかったのに。このバカジョージ」
「いや、あの堅苦しそうなやつから聞くより、航海の間にサキ達から聞けば良いかなっとか思ってたからだって」
ジョージさんの言い訳にレンさんが深く頷いている。
けどジョージさんところの女性勢の視線は厳しいままだ。
そうなるとオレへの視線が厳しいのではと危惧を抱き、後ろを見回してみると静かな理由が分かった。
年少組の悠里とボクっ娘が、早くもお昼寝タイムに入りつつある。
部屋に入って何分だよ。
午後の授業は拷問に近いので、気持ちは痛いほど良く分かるけど、それではレイ博士にあんまりだ。
と言うか、レイ博士は女子達からの受けが少し悪いから、自業自得の結果でしかない。
たまに歓心を得ようと動くも、ほぼ確実に空回りしている。
今日もその一例という事だろう。
真面目なハルカさんがあんな事を言うのも、相手がレイ博士だからだ。
仕方なくオレが小さく挙手する。
すると救いを求めていたレイ博士が素早く指してくれた。
「全員集めましたけど、希望者だけで良いんじゃないですか? オレは早く話聞きたいですし」
「あ、ありがとう。じゃなくて、その通りかもしれんな。と言うわけで、せっかく集まって頂いたが他に用事のある者はそちらを優先するが良いぞ」
「えっ、ほんと、よかったー。悠里どーするー?」
眠っていた筈のボクっ娘が、声とともにむくりと起き上がる。
流石にひどい。
「うぅ。え、えっ、終わった? じゃあ午後の運動に行こう! このままじゃ、夜寝れなくなりそう」
「ウンウン、それは死活問題だね。強制睡眠の危険は是非とも避けないと。と言うわけで、みんな後でねー」
「でねー」
そう残し、さっさとボクっ娘と悠里が食堂を後にする。
そして「じゃあ俺も」とそれに続こうとしたジョージさんは、レンさんに止められていた。
「流石にそれは不義理だろ」と。
そうして仕切り直しとなったけど、常磐姉妹とハルカさんは残ったままだった。
「あれ、用事があるんじゃ?」
「かいつまんでしかまだ話は聞いてないから、表題だけでも聞こうかと思ってね。それ次第」
「あ、それで、聞く必要ない話だったらって事か」
「そういう事ね。まあ、落ちこぼれ君についてあげても良いけどね」
「ハルカさん用があるなら、私全部聞くからショウのお守りしておくけど?」
ハルカさんの意図を分かってか分からずか、トモエさんがぐいっと首を上方向から器用に、いや、少しキモい感じで曲げてくる。
そしてこちらに見せた表情は、分かってて言っている顔だった。
当然、ハルカさんの表情がジト目気味になる。
「ありがとう。私も全部聞くから大丈夫よ。シズは?」
「私は、あれとこれが変な事を吹き込まないか監視しておく。特にあっちは、スキあらば話をSF仕立てにするからな」
目線でレイ博士とトモエさんを指すと、レイ博士は一歩後ずさる。
けど、今日は引かないらしい。
「良いではないか! フワッとしたファンタジーより、機械技術の延長的な話の方が分かりやすいであろう。特に男子ならばな。なあ、ショウ君」
「どうでしょう? 分かりやすければどっちでも良いです」
「俺もー」
「右に同じ」
どうやらレイ博士の味方はいないらしい。
見た目で分かるほど悄げるレイ博士に悪い気がしてくる。
「は、博士、そんな事よりも早く話をお願いします」
「う、うむ。そうだな。では始めるとしよう」
・この世界の謎
・この世界の成り立ち
・魔力とは
・魔物とは
・なぜ「客人」を呼ぶのか
どうも魔法で何か細工がされているらしい板に、ホワイトボードに書き込むように記していく。
そうしてレイ博士の講義が始まった。
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