私は負けたことがない
加藤ゆたか
私は負けたことがない
私は負けたことがない。
いや、正確には、例えば三回勝負のルールだった時に三回のうちの一回を負けてしまうことはあった。しかし必ず
「マナちゃんはジャンケンでも負けたことないの?」
「そうだよ。」
フフフ。みんなそれを言うよね。ジャンケンは運の勝負だとみんな思っているのだろうけれど、ジャンケンには
「どうして勝てるの?」
「どうしてって、ジャンケンには必勝法があるんだよ。」
「そうなの? えー、教えて!?」
「みんなに教えたら私が勝てなくなっちゃうじゃない。教えられないよ。」
「もー!」
カナはホッペをプーと
カナとは四月に新しいクラスになってからすぐに仲良くなった。それまではカナと同じクラスになったことはなかった。
カナは私とは違って
「週末、タイシ君と映画に行く約束してるの。」
「……そうなんだ。」
タイシ君はカナの彼氏だ。そして私の
「ねえ、あっちに新しいカフェのお店が出来たの知ってた? 行ってみない?」
「いいけど、駅前のスタバでいいんじゃない?」
「よし、それじゃジャンケンで決めようよ。マナちゃんが勝ったら私のお店に行こー!」
「それ、なんかズルくない?」
「行くよー、ジャーンケーン!」
ポイ!
ほら、やっぱり私が勝った。
「もー、マナちゃんには
カナが決めたお店は古い感じの
店の中は思ったよりも広く落ち着いた
「アイスコーヒーを二つお願いします。」
お店のメニューはコーヒーとケーキが書いてあるだけのシンプルなものだった。
「それでは作戦会議を始めたいと思います。」
カナが
「作戦会議って?」
「もちろん、週末のタイシ君とのデートのだよ。もう四回目もデートしたのにまだ手も
「へえ、意外だね。」
「だから、マナちゃんに相談したくって。」
「うーん。」
コーヒーが運ばれてきた。私はコーヒーにミルクとガムシロップを入れてストローでかき混ぜる。
「タイシ君って
私はあまりこの話題に興味が
気がつくと私は
私と同じように倒れている人が数人……。
「カナ!?」
私から少し離れたところにカナも倒れている。私はカナに
息はしているみたい。眠っているだけ? そうだ、私も眠っていたのだ。あのお店でコーヒーを飲んでいるうちに眠くなって……。
「んー、ここはどこ?」
カナが目を覚ました。
「わからない。カナもあのコーヒーを飲んで眠くなったの?」
「……そうかも。」
私たちは部屋の中を調べてみた。ドアは
この
「私たちどうなっちゃうの?」
カナが不安そうな声でつぶやいたその時、
「ひぇ!?」
「ようこそ
テレビに映ったその男は話し始めた。
「これからこの部屋を出てもらうと、それぞれの
男がそれだけ言うとテレビは消えて、今度はドアの鍵がカチャリと開く音がした。
「どうするの?」
さっきからカナはずっと私の
私もカナもドアに近づこうとは思わなかった。
「とりあえず外を見てみるか。」
一緒にこの部屋に閉じ込められていた男の人の一人がドアに手をかけノブを回した。ドアはあっさり開いた。
ドアを開けた先には
壁の左右には
「これを見てみてほしい。」
男の人が壁の紙を
……紙には私たちの名前と誰がこれからどこに移動するかという指示が書かれていた。
「この指示に従うの?」
私は他の全員に向けて聞いてみた。この指示通りにしたら私とカナは離れ離れになってしまう。
「他にここから出られる方法が無いなら、しょうがないんじゃない?」
少し
「カナはどうする?」
「……私も、今はそれしかないと思う。」
こうして意外にも私以外の全員がこの紙の指示に従うことに
私は部屋を出て右に、カナは左に行き、それぞれの数字の書かれた部屋に入るというのが紙に書かれた指示だった。私の部屋の番号は六番だ。
六番の部屋に入ると、そこには
つまりこうやってそれぞれをゲームで対戦させようということか。
部屋の真ん中に置かれたテーブルにはまた指示が書かれた紙が置かれていて、そこにはこう書かれていた。
『今回のゲームは、ダーツです。』
ダーツならば私の得意な
ちらりと五番の部屋の男の人の顔を見たが、自信は全く無さそうだ。これから絶対に私が勝つ。
私は全てのダーツの矢を中心に当てて五番の部屋の男の人に
カチャリと次に続くドアの鍵が開く音がする。
部屋に置かれた紙の指示にはこの後はどうするのか書かれていなかった。この男の人と二人で先に進んでもいいのだろうか。
私が
「え? 大丈夫ですか?」
「ああああああ!」
男の人が急に叫びだしたかと思うと、足の方からスーっと男の人の体が消え始める。
「え? え?」
私が
「どういうこと?」
あの男の人はどうして消えたの? まさか死んでしまったのだろうか?
私はしばらくこのダーツの部屋の中を
私は仕方がないのでドアを開けて次に進むことにした……。
ドアの先には廊下のような道が続いていて少し歩くと
『次のゲームは
迷路!? 対戦相手の
私は
迷路は、片方の手を壁に
……しかしそれは時間に制限がなければの話だ。今は脱出の速度を競っている。そんな
それに、負ければあの男の人のように体が消えてしまうかもしれないのだ。
「……。」
私は少し考えて確実な方法を選んだ。壁に沿って歩く。いや、走る!!
私は走った。毎朝五キロ走ってる私でもどれだけの距離を走ればいいのかわからないのは不安だった。
体感的に十キロは走っただろうという頃、あの年上風のお姉さんとすれ違った。あの人が対戦相手だったのか。迷路の中をさまよい歩き
そして私は迷路のゴールに辿り着いた。あのお姉さんがどうなっただろうかと考えるのはやめた。
ゴールにあったドアを開けるとそこにはテーブルが一つと椅子が二つ置かれていた。テーブルの上にはオセロがあった。
この部屋には指示が書かれた紙が無かった。対戦相手もまだ来ていない。
しかし、何のゲームをすることになるかは想像が付く。私は椅子に座り、テーブルの上のオセロの
やがて、この部屋のもう一つのドアが開いた。私が入ってきたドアとは別のドアだ。この部屋には二つのドアしかない。
ドアを開けて部屋に入ってきたのはカナだった。
「カナ! 良かった、無事だったんだね!」
「マナちゃんだったら絶対に勝ち残ってると思ったよ。」
「……カナもゲームに勝ってここまできたんだよね? ……ゲームに負けた人たちはどうなった?」
「みんな消えちゃった……。ねえ、あの人たちはどうなったの? まさか死んでないよね?」
「……わからないよ。」
カナがテーブルの向かいに座った。
私は最初のテレビに映った男の言葉を思い出していた。勝者はこの中で一人だけ……。
もしも、負けた人間はみんな消されてしまうのだとしたら。私がカナとゲームをしてカナを負かしてしまったら、カナは消えてしまうということだ。
私はカナを見た。カナは私と再会してホッとしたのかこの部屋の中をキョロキョロと見渡す
「ねえ、カナ。私を信じて、私の言う通りにオセロの
「どうして?」
「私、このゲームの秘密がわかったと思う。」
「さすが、マナちゃんはすごい! わかったよ!」
私は白、カナを黒にして、カナから私の指示通りにオセロの
私にとって、この『ゲーム』の勝利条件は何だろうと考えていた。私は友達の命を
あと数手で勝負を決するというところにきて、カナの手が止まった。
「どうしたの、カナ? 次はここに打って。」
「ねえ、マナちゃん……。これってどういうことなのかな?」
「どうって?」
「……どう見ても私の黒の方が少ないじゃない。もしかして、私に指示してるのって私に勝つためだったの? そんなのってズルくない?」
「ち、違うよ!」
「私ね、マナちゃんがタイシ君のこと好きだって気付いてたの。気付いていてタイシ君のこと好きになって、タイシ君のこと盗っちゃったんだよ。……マナちゃんは私のこと、ほんとは恨んでるんじゃないの? 私のこと消そうとしてるんじゃないの?」
「そんなことないよ! 私は、カナに勝たせるために指示を出してたんだよ! ほら、あともう少しでカナが勝てるから!」
「……じゃあ、どうしてマナちゃん、さっきから笑ってるのよ? ……勝ちを確信してたでしょ。」
「え?」
私を見るカナは少しも笑っていなかった。ギロリと私を
「ダメだよ! 戻して!」
私がカナの置いた駒を
「カナ! 話を聞いて!」
カナは私の駒も
黒は白をひっくり返せないまま、白の圧勝……。
「うわああああん!」
カナはうつむき泣きながらドンドンとテーブルを叩いている。
「カナ……!」
私がカナに
「あら、目が覚めた?」
目を開けた私は天井を見ていた。私がいるのはベッドの上だった。
私に声をかけた女性はどうやら病院の
「ここは?」
「あなた、路上で急に倒れて救急車で運ばれたのよ。
「……カナは?」
「カナって友達? 倒れた時、あなた一人だったみたいだけど。」
「そうですか……。」
あれは夢だったのだろうか。カナはどうなったのだろう。
私は自分の手と着てる服を見た。私はこんな
あれが今日の出来事だったかもわからない。
……これは現実? あれも現実? 私が負けたことがないというのは現実?
「あの……、看護師さん。」
「なあに?」
「ジャンケン、しませんか?」
私は負けたことがない 加藤ゆたか @yutaka_kato
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