第85話 大団円
「う……!」
「気がついたか!」
目が覚めると、目の前にはラバウルの基地と軍医、そして長らく久しぶりの再会である同僚が心配そうに勝を見つめている。
「柴田! ここはラバウルか!?」
勝は、柴田という泣きぼくろのある同僚に、自分が今いるところがラバウルだというのがあまり実感できず、思わず尋ねる。
「あぁそうだ! お前はさっき、空から落ちてきたんだ! 撃墜されたのか!? にしても、別の服を着ている気がするんだが……?」
「あぁ、いやこれは、服がボロボロになって原住民から貰ったんだよ」
(本当は前の世界の服なんだがな……)
「軍医殿に治療を受けてもらえ。治ったらまた前線復帰だ……!」
「あ、あぁ……」
勝は頼りなく返事をした後、右手に違和感を感じて拳を当てると、赤褐色に光る鱗のようなものが握られており、それは音を立ててサラサラと崩れ落ちた。
🐉🐉🐉🐉
現在の世界に戻った勝の活躍は目まぐるしく、ラバウルでは100機以上を撃ち落とし、終戦後は町役場で働き、周囲の勧めもあってか議員に立候補、3回目で初当選を果たした。
その後、内閣総理大臣となり、戦争をなくすための努力を惜しみなく続け、95才の時、とうとう世界中から戦争が無くなる。
そして、100才を迎えた時、長年の過酷な仕事で体に鞭を打ったせいか体はボロボロで入院生活を送らざるを得なくなり、今命の灯火が尽き掛けている。
(俺もとうとう死ぬのか……)
勝に家族はいない、何度か見合いする機会はあったが、ジャギーの事が頭に引っかかっており、生涯独身を貫いた。
瞼を閉じると、ゼロやヤックル、マーラやエレガー、そしてジャギーの事が頭に浮かび、身体中が暖かい光に包まれ、ふわり、と軽くなる感じがする。
この瞬間、100年を駆け抜け、世界を平和に導いた立派な人間は、完全に命の炎が消え失せ、部屋の中には心電図の無機質な電子音だけが鳴り響いた。
🐉🐉🐉🐉
勝が目が覚めると、そこは大平原が広がり、そこにはゼロやアラン、ヤックルやマーラ達が待ち侘びた表情を浮かべている。
「な!? なんでみんなここにいるんだ!?」
「勝、ここは死後の世界よ」
ジャギーは、混乱している勝を落ち着かせようと、冷静に今現在の状況を伝え、「やっと会えたね」と抱擁をする。
「死後の世界ってことは、お前ら死んだのか!?」
「厳密に言うと、君が世界の流れを変えたから、僕らの存在自体が無くなったんだ。あれから、戦争自体がなくなって、君ら現代人がこの世界で暮らすようになった。僕らのように改造された人間は生まれなかったんだ」
ヤックルは、物悲しそうにため息をつきながらそういうと、「シャキッとしなさいよ」とマーラが肩を叩く。
「まぁよ、これから生まれ変わるんだよ! 自信持っていこうぜ!」
アレンはがはは、と笑い、オスカーの頭を軽く撫でると、『グギャア』と一鳴きして、アレンの顔を軽く舐めた。
「俺らはこれからあれに飛び込むんだ」
ヤーボは空を指さすと、勝が異世界に入り込むきっかけとなった虹色の雲がもくもくと浮かび上がってきている。
「な!? あれは!?」
「そう! 前の予言に書いてある通りにさ、虹色の聖杯が宇宙人から手渡されて、各国が実験したらこれが出てきたんだ! これから行くぞ!」
「おう!」
勝はゼロの頭を撫でると、ペロリと顔を舐め返してくれており、ここ数十年で長らく感じなかった、ホッとした気持ちに襲われる。
「勝、私も乗せてよ」
ジャギーが照れくさそうにしており、ゆっくりと手を繋ぎ、ゼロの背中に乗せると「今度はセクハラしないでね」と笑いながら言った。
ゼロに勝は乗ると、ジャギーが後ろから手を回しており、Jカップぐらいの胸が背中に当たるのだが、気持ちの高鳴りを抑え、飛び立って行く。
虹色の雲が、彼等の存在を全てを包み込み、別世界の次元の隙間に彼等は勢いよく飛び込み、そしてこの世界から消えた。
完
並行世界戦記 赤龍の撃墜王 鴉 @zero52
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