第84話 虹色の雲
もはや泥沼であった戦争が終わってから1週間が過ぎ、ムバル国では、カヤックが戦争の責任を問われる裁判が行われている。
「では、貴様とバモラによる兄弟喧嘩の諍いで、国を巻き込む戦争に発展したんだな?」
裁判官は、元はカヤックの部下であったが、仮にも自分の国王が戦争を起こした張本人であることを知り、複雑な表情を浮かべている。
「ああ。ムバル国の倉庫から虹色の聖杯が見つかって、古文書の言うとおりだと、ある液体を入れれば時空を超える力を手に入れると書いてあった。兄貴とは秘密裏にあっていて実験は何度かしたが、無理だった。全く何も変わらなかった。倉庫に保管していたのが持ち去られてしまった。兄貴を疑ったがキレて戦争を起こしてきた。……俺の責任だ」
「弁護人のエレガー、何か言いたいことはあるか?」
エレガーは、スパイの容疑をかけられていたが、ハオウ国を内側から壊すためのものだと分かり、無罪放免となった
「元々バモラは聖杯に取り憑かれていて、精神に異常をきたしていた。精神喪失者は、罪には問われない。第一死んでいるから罪に問われようはない。この戦争を起こした発端はバモラの暴走だ。カヤックに何も罪はない。……無罪を求刑します」
「被告人を無罪とする」
最高裁判官の一言で、カヤックは無罪となり、勝達は安心した、他の国民達もバモラのせいだと分かったので、無罪にして欲しかったらしく、傍聴席のあちこちから、安堵のため息が漏れる。
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ハオウ国はメチャクチャになった国内を復興させるためにレジスタンスと衛兵たちが力を合わせて取り組んでいる。
勝達はムバル国におり、国王から貰った勲章のメダルを誇らしげに周囲と見せ合いながら、戦争の時の思い出を語り合っている。
「あれさ! 死ぬかと思ったからさ!」
マーラは、特攻して生還したアレンの肩を叩き、改めて無事に生きて帰れたことを奇跡だったんだなと感じている。
「心配したよあれは」
ヤックルは戦争で眼鏡が壊れたのか、新調した眼鏡をずりあげ、コーヒーを飲みながら、貰ったばかりの勲章を見つめている。
「ってか、お前ら結局付き合ってんの?」
アレンは、マーラにヤックルが好きだということを伝えたのだが、彼らがそれからどんな仲になったのか気がかりでいる様子である。
「え? それはねぇ……うーん、まぁ言っていいんじゃない?」
「うん。付き合ってるよ僕ら」
「なんだ、やっぱりそうだったんだな」
勝達は彼等のやりとりを微笑ましく聞きながら、虹色の聖杯の今後の取り扱いについて、どうなるのかと思い、コーヒーを口に運ぶ。
ふと空を見つめると、一年ほど前に勝が飛び込んだ、虹色の雲が現れて、その隙間からはラバウルの原生林が映っている。
「な、なんだあれは!?」
「どうしたんだよ、いきなりよ!」
「あれ見てみろ!」
いきなりの出来事に、周囲はざわめき始め、慌てふためいた表情を浮かべる勝たちの元へ、エレガーが深刻な表情を浮かべて走ってやってくる。
「勝! 君がこの世界に紛れ込んでやってきたっていう雲はあれのことか!?」
「ええ! あれです! 一体何が……!?」
「シルバードラゴンの死体からサンプルで採取した血液を虹色の聖杯に試しに入れてみたら雲が湧き上がった!」
「え!? じゃあ戻れるのですか!?」
「おそらくな! ただ聖杯がひび割れてきて、早めに入らないとダメだ! 今すぐ行くぞ!」
「は、はい!」
寝耳に水、勝達は急いで研究所の方へと走って向かいながら、ゼロやジャギー達と一生離れ離れになるのだろうなと思い、虹色の雲を見つめる。
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別れは、ある日突然前触れもなく訪れ、心の準備ができないまま、ある人はそれを運命だとか宿命だと適当な事を言う。
勝にとってそれは、青天の霹靂であり、元の世界に帰れるのは嬉しい筈なのだが、戦争に負けるのが分かっており、しかもその後に核戦争で人類が滅びかけるという結末を迎える為、未来がわかっており素直に喜べない表情を浮かべる。
「……!?」
研究所の外では、虹色の聖杯から虹色の雲がもくもくと上がってきており、それをカヤック達が不思議そうに見つめている。
「勝! 来たか!」
ドレ老人は、長年の謎が解けたというような快活な表情を浮かべており、ここ半年でかなり老けて、いよいよ後先が長くないなと勝達は感じる。
「ドレさん! これは一体!?」
「おそらくだが、シルバードラゴンの血液がトリガーになった! この雲に飛び込めば、お前が住んでいた世界に戻れるはずだ!」
「えぇっ!?」
「ゼロが上空で待機しているから呼び寄せるぞ! 雲はもうそんなに長くはできないだろう! 聖杯もすぐに壊れる!」
「な!? いやだが……」
勝は、今の世界が居心地が良く感じており、せっかく仲良くなれたアレン達と離れ離れになりたくはないという心境に襲われる。
「勝……」
ジャギーは勝に近づき、じっと見つめながら不意にキスをして、「待ってくれてる人がいる元の世界に戻って」と、目に涙を浮かべながら口を開く。
「勝! 確かにさ、前の世界では悲惨な結末を辿ってたけどさ、勝が過去に戻って頑張れば、未来は変わるんじゃないか!?」
ヤックルは、本音は勝とは離れたくはないのだが、彼にとって本当に暮らすのはこの世界ではなく、元の世界だと思っている。
「そうだよ! 俺らだって本当は戦争に負けてたのだろうけど、お前のおかげで勝ったじゃないか! 元の世界でなんとかすればいいんじゃないか!?」
「そうよ! 家族がいるじゃない!」
アレンとマーラは目に涙を溜めながら、名残惜しそうに勝を見つめており、初めは変なやつだと思っていたが親友だと思っている勝とは離れたくはないと思っている。
『グルル……』
上空で待機していたゼロが降りてきて、勝の顔を舐めており、相棒がこれから一生会えなくなるのを心残りな表情を浮かべている。
「分かった、これから元の世界に戻るぞ。今までお世話になりました、それと……」
勝はゼロの体に手を伸ばして、鱗を一枚剥ぎ取り、ゼロの体を抱きしめて、「これは思い出として貰っていく」と言い、背中に乗る。
「勝! 私達のことを忘れないでね!」
「あぁ、一生忘れないからな!」
彼等の声援を背中にうけ、勝はゼロと共に上空に上がり、虹色の雲のそばに向かうと、雲の隙間からは、勝がいた基地が見える。
「ゼロ! またな!」
勝は勢いよくゼロから飛び降りて、虹色の雲の中へと飛び込むと、今までの歴史の事実が目まぐるしく移り変わり、そこで意識は消えた。
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