第83話 相殺
バモラとカヤックは、お世辞にも仲がいいとは言えない兄弟であり、愚痴や喧嘩が絶えなかったと周囲の者は口を揃えて言う。
カヤックはムバル国に養子として出され、兄弟の仲は更に疎遠になったが、ムバル国の宝物庫から発見された聖杯が彼らの運命を狂わせた。
表向きは、聖杯は盗難されたことになっていたが、実は秘密裏に彼らは実験を繰り返しており、聖杯を巡る言い争いから戦争にまで勃発した。
「……」
バモラの遺体を見て、カヤックは複雑な心境に襲われるが、長年にわたる戦争を起こした張本人には変わりなく、自分もその中の一人で、この戦争が終わったら間違いなく断罪されるんだなと背筋が凍りつく。
「これ、マジでどうするか?」
アレンは、聖杯と核兵器を見て、これらの処理をどすればいいのかと学者達に尋ねるが、どうしたらいいのかわからずに首を振る。
頼みの綱のシオンが自殺してしまった以上、どうする事もできず、保管しようにもこの世界の技術ではずっとは出来ないのである。
「リアルにやばいよね……」
マーラは、さてどうしたものかと頭を捻らせており、簡単に爆破できる代物ではないというのは、ゼロが見せてくれた動画で分かっているため、深刻な表情を浮かべている。
「うーん……ねぇ?」
ヤックルは何か気がついたのか、勝が持っている魔封剣を見つめて、顎に手を当てて少し考え事をして口を開く。
「その剣ってさ、エレナさんの呪文を封じ込めたんだよね?それを解放してさ、核兵器の爆発を相殺できないか?」
「相殺だと?」
勝は、ヤックルにそう言われて、確かに半年ほど前にデルス国の一戦でエレナの魔法を魔封剣で封じ込めたのを思い出した。
「うん。ゴードンさんが言ってたんだけどさ、爆弾って爆弾同士を爆発させれば威力を相殺できるんだとさ」
「そうなんだな、ただしかし、放射能はどうなるんだ? 仮にもし俺がそれをやるとして、この国の土地が使い物にならなくなるし、ここにいる人や俺だって被爆するぞ」
「それなんだけどさ、まだこの国にエリクシルはあったはずだよね? ここにいる人達を、この国の魔導士全部の力で空間移動の魔法を使って安全な場所に避難する。ムバル国の外れの方に大きな自然公園があったよね? そこに移動させる。もちろん勝にも魔法膜の呪文はかける。多分それで大丈夫そうなんだがそれでやってみないか?」
「ただそれだと、この土地自体が使い物にならなくなるぞ」
「それは、ムバル国にある封印の洞窟を使う。あれって元々は核シェルターでしょ?その中に核弾頭を持って行ってその中で爆破させればいいんじゃない? 威力だって分からないしさ」
「う、うんまあそうだな。それでやるか皆さん?」
ヤックルのアイデアに、彼らは賛成しており、全員が頷き、特にゴルザは、「立派に成長したんだな」と言いたげに、ヤックルを見つめている。
🐉🐉🐉🐉
ハオウ国は、案の定エリクシルを本土決戦用に備蓄していたのか、空間移動魔法を使える極少数の上級魔導士たちに飲ませ、国民総員の退避が無事に終わり、核弾頭を封印の洞窟に移動させ、勝は外でゴルザやトトス達に何重にも魔法膜の呪文をかけられている。
「では、そろそろやりますので、皆さん退避してください」
魔法膜で虹色に光り輝く勝を見て、周囲は「やけに神々しい野郎だな」と思いつつ、核弾頭の後始末をなんとかしてくれと言わんばかりに、そそくさと彼らは洞窟を出ていく。
「勝」
ジャギーは、胸がはだけた服装では流石に痴漢の対象になると思い、新しいシャツに着替え、勝を不安そうに見つめる。
「?」
「無事に帰ってきてね」
勝は不思議な表情を浮かべ、皆と共に洞窟の外へと出ていくジャギーを見つめ、胸がほわっとした感じに襲われる。
(あいつが無事で良かった。さて、ここからが本番だ……やるぞ!)
核弾頭の先端に、魔封剣を突き立てると、広島長崎の原爆投下後と同様に、凄まじい爆風が炸裂し、激しい光に襲われる。
魔封剣からは、エレナの封印した破壊魔法が解かれ、強烈な衝撃波が巻き起こり、勝は身体が吹き飛ばされそうになる。
「……!」
数分後、辺りは高熱があったのか、建物の中は溶かされ、中に置いてあった前時代の遺物は跡形もなく消滅し、勝は腰を抜かしながら魔封剣を見やると、音を立てて崩れ去った。
『勝、聞こえてるか!?』
魔法石からは、ヤックル達の声が聞こえてきており、自分は生きているんだなと実感して、返事をする。
『無事に終わったぞ! 生きてるぞ! これから出る!』
『わかった! 良かった! 早く戻ってきて!』
ジャギーの声が聞こえてきて、勝は何故かその声を聞くと、赤子の頃に母親の胎内にいた時のような、安心する気持ちに襲われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます