第82話 異世界から来た仲間

 目の前にある、大量殺戮兵器の分解方法が分からず、途方に暮れている中、カヤックは何か思い当たる節があるのか、渋い顔をして考え事をしている。


「なんだ、最後に風俗に行きたくなったのか?」


 バモラは精神の均衡が崩れかけており、失禁して、周囲からは、かつての独裁政権をふるった元国王の情けない姿を見て失笑が起こる。


 空間移動魔法での行先は、国内にいるはずであろうシオンの元なのだが、肝心の彼が生きているのか死んでいるのかすらわからず、ただ最強であるため死ぬはずはないなと淡い期待をしながら、ぐにゃりと歪んだ視界の先を見やると、そこには死に体のシルバードラゴンとシオンがいて、レジスタンスから拘束されている姿が彼らの目に飛び込んできた。


「な!? 負けたのか!? お前ら最強のコンビだったんじゃないのか!?」


 彼らはひどく動揺し、レジスタンス達が取り囲み、積年の恨みを晴らそうと今にも飛びかかりそうな勢いでいるのをルーカスが制す。


 その傍では、先程オスカーと共に墜落してきたアレンが治療魔法を受けながら、すでに絶命したオスカーを嘆き悲しみながら見ている。


「……あのジャップに負けた!」


 シオンは全身を酷く打ち付けられており、骨が数本折れ、自ら回復呪文をかけながら、本来ならば負けるはずではなかった、全く魔法が使えない勝と、弱小の種であるレッドドラゴンに殺されかけたことを悔しく思っている。


「勝が降りてくるぞ!」


 勝とゼロは、意気揚々と戦線から離脱して地上に降りてくるのだが、カヤックとハオウ国の国王らしき人間がレジスタンスに囲まれて拘束されているのを訝しげに見つめている。


(確かに戦には勝ったのだろうが、国王が拘束されているということは、勝負に勝って試合に負けるという具合ではなかろうか……?)


 いくら兵士同士で争って勝ったとはいえ、肝心の国が戦争に負けるということは、意味がないことなんだよなと勝は思いながら地上におり、オモコに火をつける。


「よくやった!」


「本当に勝っちゃったね!」


 ジャギーやヤックル達は勝の元へと歩み寄り、勝負に勝ったことを褒め称えているが、場の雰囲気的に素直に喜べない空気が流れている。


 レジスタンス達はシオンを取り囲んで尋問のようなものを始めるらしく、ルーカスとエレガー、ゴルザがシオンの元へと足を進め、勝達もそちらへと向かった。


「さて、いくつか君に聞きたいんだが、まず君は勝と同じ世界から来た人間なのか?」


 エレガーは、もしかしたら殺されるか幽閉されるのかもしれないという恐怖に怯えているシオンに、「君の命の保証はするから」と、確証がない口調で語りかけ、周りにいた人間は、薬物投与などのモルモットとして扱いたい気持ちであるのを隠している。


「あぁ、そうだ。俺はアメリカ合衆国のオレゴン州から来た! 第二次世界大戦でラバウルに任務について、こいつと対戦した! プロペラに被弾して、攻撃を回避しようとしたら虹色の雲が現れて、この世界に来たんだ!」


「やはり、では貴様は、黒塗りのP38に乗ってやってきたのか!? あの時、貴様と戦ったのは俺だ!」


 勝は、疑問が確証に変わり、かつて周りを恐怖に追い詰めた人間が、爽やかな好青年であることにギャップを感じている。


「貴様は何者なんだ!? 教えろ!」


「俺はサンダース陸軍空軍部隊中尉だ! 年齢は25! 徴兵前は物理学研究所の職員をやっていた!」


「物理学だと……? ではあの、核兵器の事は分かるのか!?」


「あぁ、俺はアインシュタインの隠し子だからな……。当然わからねーんだろうが、核兵器を作った学者の息子だ」


「あれを、解体する方法は分かるか?」


「……さあね」


 シオンは、軽くため息をつき、腰につけられた革製のバッグから、拳銃を取り出してこめかみに当てる。


「お前、何する気なんだ!?」


「あばよ」


 勝達が止めようとする先に、シオンはトリガーを引き、地面一面に脳漿がぶちまけられ、核兵器を解体する方法がもうこれで完全に知る由も無くなり、勝達は途方に暮れる。


「なぁ、取り敢えず核兵器が置かれている場所に案内しろ、何か分かるかもしれない」


 エレガーがすでに薄くなった頭をかきむしりながら、核兵器の保管場所を尋ねて聞き、ここにいる人間達全員を保管場所に瞬間移動魔法をかけ、勝は気持ち悪くなり小便を漏らした。


     🐉🐉🐉🐉🐉


 核兵器が厳重に保管されている倉庫は、普段彼らが出入りしている武器庫とは違い、使いかたを誤るだけで大災害になる危険な兵器が眠っている。


「おえっ」


 瞬間移動してきた勝達は、かなりのダメージを負って心身が疲弊している為なのか、魔法酔いをしている状態である。


「これが、核兵器なのか……」


 ヤックルは、本当は思ってはいけないのだが、知的好奇心が芽生え、一瞬核弾頭に触りそうになり慌てて手を引っ込めた。


「おいどうするんだよ!? こんな危険なもん作ってしまって! 勝がいた世界の二の舞だろ!?」


 アレンは、戦争で考えが変わったのか、大量殺戮など決してやってはならない行為だと自覚しており、制御しきれない兵器を作ってしまったバモラ達を怒鳴りつける。


「落ち着いてくれ、こいつは今すぐ処刑する。なんてったって、泥沼の戦争を起こしたからな……」


 ハオウ国のリーダー格らしき兵士は、腰に刺さった刀を触りながら、既に頭の中がお花畑で精神障害を起こしかけているバモラを睨みつける。


「ねぇ、ってか、聖杯はどうなったの?」


 ジャギーは聖杯の存在に気がつき、この戦争の引き金になった曰くつきのものを一目見てみたいという欲求に襲われる。


「それは、これだ」


 カヤックが指さす方向には、テーブルの上に置かれた虹色の聖杯が置かれており、その不自然なまでの異様な美しさに彼らは息を呑む。


「ひひ、俺の聖杯じゃあ!」


 バモラは案の定精神に異常をきたしており、涎を垂らしながら聖杯の方へと向かうが、鎖で繋がれており、周りが拘束する。


(この男、たかが聖杯に執着するだなんて、相当に現状に満足してないんだなあ……)


 勝は取り乱して押さえつけられるバモラを見、こんなイカれた兄貴を持ったカヤックは苦労したんだな、と苦渋の表情を浮かべる彼に同情の視線を送る。


「ひぎいっ」


「な!? 兄さん!」


 いきなり悶絶して床に倒れたバモラを兵士たちは介抱するが、誰かが医師を呼び、診断すると、ため息をつき、「心臓発作で絶命しています」と言った。


「……!」


「んな、そんな死に方ってあるか!?」


 カヤックは、たった一人の肉親が死んだ悲しみを通り越して、怒りが湧いてきており、無性にオモコを吸いたい衝動に駆られる。


 長年にわたる悪政を敷いた国王の死は実に呆気なく、ただ残された最悪の兵器の処分方法をどうすればいいのかという問題だけが残された。





 

 

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