第81話 底力

 アレンは、中流階級の家庭に生まれ、それなりにいい暮らしをして、そこそこにいい学校に通い、青春を謳歌していた。


 実家は宝石の貿易商で、貴族相手に商売をしていたが、戦争が始まり物価高の影響で収入は激減、学生だったアレンは食い扶持を稼ぐために仕方なく兵士となった。


 そこで勝やヤックル、マーラと出会い、また新たな兵士の青春生活が始まり、特に勝とは、同じ竜騎士同士で切磋琢磨する仲となる。


「……」


 アレンは、もし自分が兵士にならず、勝達と出会わずにそのまま毎日を享楽的に過ごしていたらどうなっていたのか考える。


 もしかしたら自分は、ずっと苦しみから逃れ続ける負け犬になっていたのかもしれないと思い、少しでも勝利に貢献しようと囮役を買って出た。


「アレン! ねえ聞こえてる!?」


「アレン!」


 魔法石からマーラとヤックルの声が聞こえてきており、自分と勝のやり取りが聞こえたんだな、と思い、魔法石に語りかける。


「俺これからさあ、囮になるからさ、後は頼んだわ!」


 アレンは涼しげに、しかし、死の恐怖を抑えきれずに大量の脂汗をかきながら、心不全や脳梗塞になりそうな強烈なストレスに襲われているが、同じ釜の飯を食べた親友達に悟られないようにすました表情でそう答える。


「え!? ちょっとねあんた、即死だわよ!?」


「んなよ、簡単にくたばらねーよ! それよりよ、ヤックルはお前に惚れてるから! お前も好きなんだろ!? 早く一緒になっちまえよ!」


「んな……!」


「アレン、君なんでそれ知ってるんだ!?」


 ヤックルは、マーラが好きな事は誰にも話しておらず、何で自分の気持ちを知っているのかと不思議な表情を浮かべながら上空にいるアレンを見つめる。


「出撃前にお前泥酔して話してたろ!? 籍だけ入れちまえよ!」


「……」


 アレンはヤックルがマーラが好きで、そんなマーラもヤックルに興味があるのを知っており、それを話した後に魔法石を投げ捨て、目の前に迫るシオンをギロリと睨みつける。


      🐉🐉🐉🐉

 シルバードラゴンの速度は、大体700キロぐらいだな、と勝は長年の勘から感じとり、アーツ鉱から製造された、大陸で1番の切れ味を誇る槍をを高々と上げてシオンに突入するアレンを見つめる。


 シオンは元戦闘機乗りらしく、アレンとドッグファイトをするのか、旋回して迫り、相手がすこしよろけたところを勝は見逃さなかった。


(あいつやはり、双頭だから、旋回能力が弱いのか!?)


 勝はシオンを見て、元の世界で何度か対戦したP38ロッキードライドニングの事を思い出し、何か思い当たる節があるのか、指で顎を撫でている。


 P38は二つのエンジンを持ち、高速大馬力を活かして一撃離脱戦法を駆使して猛威を振るったが、格闘戦では大型の機体が災いして、旋回性能は零戦よりも大幅に劣っていた。


「あっ」


 シオンはドッグファイトでは分が悪いのか、シルバードラゴンの持ち味である高速を活かし、アレンを引き離し、上空に上がり、一気に下降して槍をオスカーもろとも突き立て、胸を貫かれたアレンは地面に落ちていった。


「アレン!」


(……またな!)


 勝の耳元で、アレンの声が聞こえ、命を賭けて弱点を教えてくれたんだなと分かり、右瞼から一筋の涙がこぼれ落ち、敬礼をして、ゼロの手綱を引き、シオンの方へと向かっていく。


 シオンは血気盛んな米兵の若者らしく、中指を立てて勝の方へと向かっていくが、勝は後方に回ろうとして、ゼロを旋回させ、後ろに着こうとする。


『勝! 魔法シールドはできたぞ!』


 耳元からヤックルの声が聞こえ、勝の体がまばゆい金色に光り輝き、気のせいか、力が沸いてくる気がした。


『ついでに身体能力を一時的に向上させる魔法も掛けておいたからな!』


『ありがとう、恩にきる!』


 シルバードラゴンとシオンは、後ろからトドメを刺そうという魂胆なのか、旋回運動をしてゼロに迫り、ドッグファイトが展開される。


 ゼロは旋回性能では、どのドラゴンの種族よりも優れており、シルバードラゴンは体がデカイせいか細かい動きが鈍く、ゼロが上回りつつある。


(やはり、こいつは旋回性能ではゼロよりも劣るんだ……!)


 このままでは埒が開かないと、シルバードラゴンは速度を上げて上昇してゼロを振り切り、上空から獄炎の炎と凍てつく吹雪を浴びせかけるが、勝達にかけられた魔法がそれを中和した。


 シルバードラゴンはゼロの喉笛を掻き切ろうと迫り、勝はゼロの手綱を引き、左捻りでシルバードラゴンの後ろにつき、魔封剣を天にかざす。


「封印されし魔法よ! いざ解き放たん!」


 魔封剣からは、デルス国での一戦で敵が使われた、雷や業火など、今まで封印された大量の魔法が解き放たれ、シオン達を襲い、流石にそれはいくら頑丈な鎧や鱗でもある程度のダメージは喰らいよろけ、勝はその隙に乗じて下降し、シルバードラゴンの腹の下につき、魔法剣で剥げ落ちた鱗を突き刺す。


 暴走した魔法はシルバードラゴンを貫き、グギャア、と大きな声をあげて絶命し、シオンは空中に投げ出された。


「やった! 最強のドラゴンに勝ったぞ!」


 他の兵士から歓声が上がり、勝はドヤ顔で魔封剣を掲げて、シルバードラゴンの死体と共に地上に落ちたはずのシオンやアレンの元へと向かった。

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