第80話 囮

 勝達がハオウ国に着くと、シオンや兵士達による反乱分子の粛清が始まっており、いくら最新の兵器を持つレジスタンスもシルバードラゴンの脅威には勝てず、一進一退の状況である。


 シルバードラゴンは高々と咆哮を上げ、煉獄の炎と凍てつく吹雪を口から吐き出して、周囲にいる者たちに甚大な被害を与える。


「逃げてください!」


 ルーカスは、防護膜の結界を張るが、あまりもの威力に防ぎきれずに吹き飛ばされ、背中を思い切り地面に叩きつけられる。


「ダメだ! 金縛りが効かない!」


 ゴルザはこの数十分でかなり疲弊しているのか、髪がどんどん抜け落ちていき、落武者といっても過言ではない風体である。


「煉獄!」


 ヤックルは、覚えたての頃よりもさらに威力が増した煉獄を放つが、シルバードラゴンの鱗は軽く焦げ、2.3枚ほど焼け落ちただけで、蚊に刺された程度しか効いていない。


「な!? なんで効かないんだ!? ならばこれではどうだ! 稲妻!」


 気を取り直して、上級の雷属性の呪文を放つが、それでも全く効かずに涼しげな表情を浮かべて、シオンは中指を立てる。


「やはりあれは、最強なんだ!」


 遠くから見ていた勝は、ゴーレムを駆逐する程の威力を持つ煉獄をや飛行戦艦を破壊した稲妻ですら、シルバードラゴンには全く効果はなく、一体どうしたものかも思案に駆られる。


       🐉🐉🐉🐉

 ハオウ国の兵器研究所には、すでに完成の領域に達しつつある核兵器が製造されており、その中にはジャギーが持っていたプルトニウムの結晶が入っている。


 研究所員は、バモラが拘束されているのを見て、仮にも自分達の王がここまで追い詰められたとしても、自分達が行なっているのは鬼畜の所業であり、一刻も早くこの任務を放棄したいのである。


「これが、核兵器か……あんた、とんでもないものを作り上げたんだなあ」


 前時代の物である機械や、核兵器の燃料が入っている、爆弾のような形状をした鉄製の容器を見て、バモラの首筋に刃物を突きつけている衛兵のリーダー格らしき男は「こんな物を税金で作るなら、少しは俺たち国民の暮らしに還元してくれ」と思い、深いため息をついた。


「これを使えなくするのにはどうするんだ?」


 カヤックは、悲壮な表情を浮かべて、ほんの10分足らずで老人のように生気がなく、かなりのストレスで一気に白髪が増えたバモラを気の毒に思っている。


「それは……分からない」


「何だと!? こんな危険なものを作って、解体ができないだと!? そんなバカな話があるか!」


「いや、ゼロからは核兵器の処分方法は聞かされてない! もしかしたらシオンが知ってるのかもしれない!」


「本当だな!? シオンはどこにいるんだ!?」


「城の外でレジスタンスを駆逐している!」


「今すぐ行くぞ! 誰か、瞬間移動の魔法をすぐにかけろ!」


 手練れの魔法使いらしき初老の兵士は、深刻な表情を浮かべながら瞬間移動の魔法をかけ、周囲に叱責されているバモラをカヤックは横目で見た後、核兵器を製造した技術者達を尊敬の眼差しで見つめる。


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 勝達は、シオン達の目の前に立ち塞がるような形で陣営を組み、米兵よろしく、中指を立てて睨みつけるシオンを見るが、それがどんな意味なのか彼等は分からずに呆気に取られている。


「は! いやいかん! 民間人を避難させるのが優先だ!」


 アレンは、兵士としての自覚が芽生えたのか、魔法石でヤックル達に避難指示を送り、一刻も早くこの修羅場から立ち去る事を命じている。


(立派になったなこいつ……!)


 勝は、自分の部下がまだ駆け出しでひよっこだったのが、出撃を重ねるうちに逞しくなっていく姿を思い出し、いつも頭の中は学生のような性欲の塊であるアレンが、今ではもう一人前の兵士であるのを見て、自分も負けてられないなと気持ちを引き締める。


「来るぞ!」


 彼らが仕掛けるよりも先に、シオンが動き出し、双頭の口からは煉獄の炎を吐き出し、ヤーボが犠牲になり、丸焦げとなって地上へと落ち、慌てて散会した。


 ある一人の兵は、勇敢にも正面から立ち向かうが、シオンに槍でドラゴンごと心臓を貫かれ、たった20数年の人生に終わりを告げた。


「おいなんか、あいつ弱点とかねぇのかよ!? このままだと全滅だ!」


 アレンは勝と共に飛んでおり、慌てて雲の谷間に隠れ、シオンが他の竜騎士達に攻撃を仕掛けているのをただなす術も無く、指を咥えて見ているだけである。


(弱点はないのか……!? いや、どこかに弱点はある筈だ!)


 勝は雲の谷間に隠れながら、動体視力6.5の眼でシルバードラゴンを凝視し、「あっ」という何かに気がついた声を上げ、魔法石を使い、地上で国民を非難させているヤックルに話しかける。


「ヤックル! 聞こえてるか!?」


「どうしたの!?」


「俺に魔法で防護膜をはれ!」


「防護膜?」


「あいつの弱点がわかった! 胸元に鱗が剥げ落ちている! おそらくあれは心臓だ!」


「弱点だと!?」


 魔法石からの通信がアレンにも聞こえていたのか、「これは一筋の光明だぞ」とばかりに、勝に尋ねている。


「あぁ! おそらくはさっき話した鱗のところだ! 炎や吹雪を防ぐバリアが欲しい! 俺とアレンの分だ!」


「わかった! 今すぐはるよ!」


 ヤックルは、手を空高く上げ、勝がいる方へと神経を集中させ、手のひらから魔力の粒子を放つが、魔法膜が出来るほどの魔力が残っていない様子である。


「ダメだ! 魔力がない!」


「何だと!? 気合いを入れろ! 他の人らはどうなんだ!?」


「みんな、魔力はないよ! 殆どシオン達の防戦で使ったから! 一人分しかない!」


 ヤックル達はシルバードラゴンとの戦いで、煉獄や稲妻、魔法の結界など最上級の呪文を使い続けたため、殆ど魔力は使い果たした。


「おい、あいつ俺らの事に気がついたみたいだぞ!」


 アレンは、シオンが他の兵士達を駆逐し、雲の谷間に隠れている自分達の存在に気がついたのか、彼らの方へとやってくる。


「な!? これはやばいぞ!」


「慌てるな、俺に考えがある」


「……?」


「俺が囮になる。お前はバリアをはり終えたら、あいつを倒せ……!」


「えっ?」


 勝は、アレンが何を言っているのか一瞬分からず、親指を立ててシオンの方へと向かう彼を見、敬礼をしてシオンの死角に行くようにゼロの手綱を引く。


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