第79話 宇宙人

 勝達がシルバードラゴンとシオンと対戦する一時間ほど前、ゴルザとカヤック、そしてムバル国の衛兵数名は瞬間移動の魔法を使い、ハオウ国へと向かった。


「う……!」


 時空間を歪めて空間を移動する原理の魔法は、ごく一部の限られた人間にしか扱えず、滅多に使う機会はないため、カヤック達は車酔いの様な感覚に陥っている。


 目の前の景色が変わると、そこはハオウ国の司令部であり、そこにはバモラ達が革命のことで必死に対応している姿がゴルザ達の目の前に飛び込んできた。


「なんだ貴様らは!?」


「兄貴!」


「お前何しにきたんだ!?」


 カヤックとバモラは、戦争が始まった15年前から一度も顔を合わせておらず、まだお互いの年齢が53〜55歳ぐらいなのだが、1番新しい記憶にある顔つきから、年相応に老けている表情と薄くなった頭髪を見て、「俺らも歳をとったな」と口に出さずにため息をつく。


 バモラの周囲にいる衛兵隊は、慌てて槍を向けようとするが、全身が金縛りにあってあり全く動かないでいる。


「ここまでだ! 兵士全員に金縛りの魔法をかけた! 私はその気になれば、ここにいる人間全員を殺すことができる! ただそれをやる前に、あなた方でこの戦争の後始末をつけていただきたい!」


 ゴルザは兵士全員に金縛りの魔法をかけ、衛兵に武装解除をさせろと言って、兵士から武器を奪い、両手両足を縄で縛る。


「兄さん、もう聖杯の事は諦めよう。持ってるんだろ? あれは、何やったって変わらないよ。それと、核兵器は作るのはやめようよ。放射能ってやつは、前時代の文明が発達してる時ですら、完全に除去できないんだ。かなり身体に悪いし……」


「あ!? 五月蝿え! これがあれば俺は神様になれるんじゃ!」


 バモラは、聖杯に固執しているのか、精神疾患の患者のように目が完全に常軌を逸しており、この国の王に支えなければならない兵士達をゴルザは気の毒そうに見つめる。


「あの、その聖杯は一体どんな力があるんですか?」


 ムバル国から連れてきた衛兵の一人は、聖杯の情報について断片的に知らされてないため、何故人一人の精神に異常がきたすまで執着しているのか疑問に駆られているのである。


「それは、大昔に天から来た人達が持ってきたものだ。俺たちが生まれるずっと前、まだ文明が出来て間もない時に、円盤に乗った青白い服を着た人たちがやってきて、この聖杯をくれた。これに合う液体を入れ天に掲げると、神がかりのあることが起きると。天が割れて別の世界に行くことができると。……兄さん、あの古文書を見せてくれよ、もう隠し事をしても仕方ない時期だろう?」


 カヤックの懇願に、バモラは首を縦には振らないが、バモラの衛兵の一人が、仕方ないな、と口を開く。


「黙ってたのですが、私達は貴方にはもう忠誠心はありません。核兵器を持つ時点で尊敬したいとは思いません。貴方を断罪にかけるつもりでいます。あなたの戦力なんてたかが知れてます。古文書を見せていただけませんか?」


「……分かったよ」


 バモラは詠唱をし、手のひらを天に掲げると、空気中に漂う原子が集まり、書物を生成しており、「腐っても鯛だな」と衛兵たちは思った。


     🐉🐉🐉🐉

 シルバードラゴンの強襲を受けた勝達は、慌てて空中に退避し、全速で雲の谷間へと進もうとすると、生き残りの竜騎士たちと再会を果たした。


「お前ら無事だったのか!?」


 ブラックドラゴンとの壮絶な死闘を物語る、鱗が千切れ、あちこちに出血がある傷だらけのドラゴンと、その竜騎士達を見て勝達は「相当苦戦したんだな」と気の毒な表情を浮かべる。


「あぁ! しかし、アラン隊長が、戦死してしまった!」


 勝は先程のアランの生首が相当なトラウマになっており、酷い吐き気を催しているのか、水を飲んでクールダウンしている。


「何だと!? あのアラン隊長が!?」


「実は生首を刎ねられたんだ!」


「ひでぇな……! いやおいあれ、見ろよ……!?」


 仲間内の一人が、深刻そうな表情を浮かべて指を刺しており、その方向を見ると、シルバードラゴンがハオウ国の中を蹂躙している。


「今のうちに逃げるか!?」


 アレンは、臆病風に吹かれており、できることなら今すぐこの場所から逃げたいと思っており、口に出してはいけないことをつい漏らしてしまった。


「馬鹿野郎! あの人らは、何も悪くないんだぞ! 悪政を敷かれて革命を起こしたんだ! 助けに行くぞ!」


「分かったよ!」


 勝は勢いそのままに、ゼロの手綱を引き、ハオウ国へと引き返すが、内心は「あんな化け物とどうやって戦えばいいんだ?」と恐怖に怯えているのである。


「なぁ、何でゴルザさんは俺達がここにいるのが分かったんだ!?」


「分からん! ただあの人は危険察知能力が高いからなあ……」


 ハオウ国が見えると、そこにはゴルザとヤックル達が結界を張ってシルバードラゴンの攻撃を凌ぎながら魔法攻撃をしており、「これではジリ貧だな」と勝達はため息をついた。


     🐉🐉🐉🐉

 西暦2000年初頭、人類は宇宙開発に向けての準備を着々と進め、これからいるであろう地球外生命体に向けてメッセージを送り始めていた。


 無限の星空に歓迎のメッセージを送り続けていること数十年、大型の円盤がアメリカ大陸で現れ、カタコトの英語で無線を送る。


『渡したいものがあるからこれから渡す』


 円盤の中からは、地球人とさほど変わらない顔つきで青白い服を着た宇宙人が現れ、手には虹色の聖杯が握られていた。


 リーダーらしきそいつは、害意はないと言い、広大な宇宙には地球と変わらない天体が多数あると伝えて、聖杯にとある液体を入れれば時空を操作できる、私たちと同じレベルの文明力に達することができると言い、その液体は今の地球にはない、だが、相当な年月を重ねればある生物から採取できると告げて、元の星へと帰って行った。


 その聖杯はアメリカの国庫に厳重に保管されたが、程なくして第三次世界大戦が勃発し核戦争が始まり、世界中がメチャクチャになり、聖杯の行方が分からなくなってしまった。


「……これが、古文書に書いてある内容だ」


 バモラが持っている古文書はかなり古びており、英語で書かれ、これを解読できるのはごく一部の限られた人間らしく、他の兵士が見てもちんぷんかんぷんな表情を浮かべている。


「宇宙人とは……他に情報はないか?」


「いや、宇宙に旅をする事は出来たんだが、他の生物を見つけることが出来ずにいたと。宇宙人が来るまでは。それ以外は知らないぞ」


「なるほど、かなりぶっ飛んだ話だがこれが真実ってわけか……やっこさん、あんたらが聖杯に執着している理由がわかったぜ」


 ゴルザは全てが合点がいき、納得した表情を浮かべているが、核兵器だとか円盤だとか宇宙人だとか、この世界ではまず聞かない単語を聞いて、「俺たちは前の文明がトンデモ世界だったんだなあ……」と辟易している。


「だがもう遅いんじゃ! シオンとシルバードラゴンを迎撃に出した! あいつらはこの国の兵士全てが束になっても勝てない! ……皆殺し、じゃあ!」


「何!? 皆の衆、こいつをひっ捕えろ! 核兵器が製造されている場所に案内しろ! ゴルザ、お前は今すぐ勝達の応援に迎え!」


「はっ!」


 衛兵たちがバモラに手錠をかけ、首に刃物を突きつけられて無理やり歩かされるのを見て、仮にも実の兄弟が犯罪者のような扱いを受けているのをいたたまれない表情をカヤックは浮かべて目を逸らした。

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