第78話 革命その4

 建物の影にエレガー達はおり、ルーカス達の話を勝は聞き、一瞬動揺したが、この短期間で色々なことがあり過ぎたためか、酷い悪阻を感じており、「またか」と呟き軽くため息をつく。


 勝が異世界に転移してから半年が過ぎ、今までに受けた情報の暴露量はかなりのものであり、戦時中の人間にとってみたらそれは、軍事訓練や戦地でアメリカ軍と戦う時よりもかなりのストレスに苛まれたのであった。


「そうか、貴様がこの国の王の隠し子だったんだなあ……」


「あぁ、そうだ。元々バモラは俺のことを捨てたからな、家族的な愛情は特段無かった。なので、この国を内側からぶっ壊して忌々しい戦争を終わらせるだけだ」


 エレガーは実の父親を殺す羽目になったとしても、愛情は全く存在せず、むしろ戦争の引き金になった危険人物を生かしてはおかないと思っている。


「危ない! 伏せろ!」


 ルーカスは異変に気がつき、慌てて魔法でバリアをはり、勝達を地面に伏せると、建物が何かによって爆発するのを目の当たりにし、彼等は慌ててその場所から立ち去ろうとする。


「いや何よあれ!? ヤバいんじゃない!?」


 ジャギーは爆発の衝撃で胸のボタンが取れたのか、胸の谷間が露わになり、それを見た勝は鼻血を出し始め、「糞野郎!」と勝の頭を思い切り引っ叩いた。


       🐉🐉🐉🐉

 アランは、親がいない孤児であり、生まれてすぐに孤児院に預けられ、退所する年齢に差し掛かった時に兵士の求人がありそこに応募したらすぐに採用された。


 竜騎士での訓練では優秀な成績を収め、カヤックに認められ、野生の卵から孵化したばかりのホワイトドラゴンをあてがわれた。


 フランクと名付けたそのドラゴンは、スクスクと成長し、すぐにアランと仲良くなり、10数年が過ぎて成長し切った頃にはもう既に彼等に敵う兵士はいなくなった。


 約15年前、戦争が勃発していた当時、すぐにアランとフランクは実戦投入され、獅子奮迅の活躍をし、司令官へと格上げされ、幾つかの勲章を貰った頃、勝がこの世界に転移してやってくる。


 勝、アレン達が起こす数々のトラブルは、兵士を統べる司令官であるアランの頭痛の種であったが、あいつらが成長していく姿を見ておきたかったな、とアランは思い、心臓を貫かれたことによる失血で、彼の意識は消えていった。


      🐉🐉🐉🐉

 勝は、何かに勘付いたのか、空を見上げると双頭の生命体が勝達の元へと向かってきており、それは明らかにしてシルバードラゴンだなと直ぐに分かった。


「ひぇえ! 首が二つあるだなんて、キモっ!」


 ジャギーは胸の谷間を手で隠しながら、おそらく今まで図鑑でしか見たことがない、絶滅したはずのシルバードラゴンを生で見て、思わず小便を軽く漏らしてしまう。


「あれは、やはりシルバードラゴンだ! 絶滅種のクローンに成功したんだな!」


 ルーカスは、噂ではシルバードラゴンが復活したと聞いていたのだが、まさか自分たちを討伐するために、わざわざ出向いているのを見て、恐怖を感じながらも、魔法を放つタイミングを見計らっている。


「ん……!?」


 勝の視界には、見慣れた顔ぶれが映っており、呆気に取られた表情を浮かべ、それを見たジャギー達は、何事かと思い目線の方を見ると、そこには、寝返ったヤックル達が複雑な表情を浮かべて向かってきている。


「貴様! 何しにきた!」


「この裏切り者!」


 ジャギーと勝は、口汚く彼らを罵り、ほんの昨日まで仲間だったが、今は敵対している間柄であるため、仕方なく臨戦体制に入る。


『グオオオーン……!』


 シルバードラゴンは雄叫びを上げ、口から炎が漏れ出ており、搭乗しているシオンは何かの袋状のものを持っているのか、勝達の方へとそれを投げる。


「なんだこ……うぅっ!」


 それは、ほんの一時間ほど前には確かに、生物としての形状を成していたのだが、胴体と首と何かものすごい力で分断され、地面に転がっている。


「アランさん! フランクが……!」


 地面に転がっているのは、フランクとアランの首であり、仮にも彼等は大陸一の実力派だったが、それでも伝説には勝てないんだなと、彼等は恐怖に慄いた。


 勝にとって、アランは確かに性格が悪くてほんの些細なことで暴力を振るうパワハラ気質な部分はあったが、それは予科練時代に嫌というほど経験しており、そこまでストレスではなかった。


 しかし、尊敬する上官であり、美女のいる風俗でも不能である真性童貞という部分では、かなり共感する所があったため、仲間を殺された怒りと悲しみで勝の心は引き裂かれている。


 シルバードラゴンの口からは輝く吹雪が吐き出され、周囲が凍っていき、エレガーは結界を急いではろうとするが、ヤックルは煉獄を彼の方へと放つ。


『グギャア!』


 吹雪と炎が相殺された形になり、彼は怯んだが、直ぐに体勢を整えて勝達の方へと踵を返し、槍を向けて突進してくる。


「……!?」


 刹那、シオンの動きが止まり、これは金縛りの魔法だなとエレガーはすぐにわかり、冷静に周囲を見回すと、壊れかけの建物の傍に、ゴルザが詠唱をしているのが目に入った。


「アレン! 貴様寝返ったんじゃないか!?」


 勝はアレンの方へと走って向かい、思い切りビンタをすると、アレンは顔を真っ赤にして「話を聞けよ!」と殴り返す。


「これは芝居なんだ! この国を壊すための! 大半の兵士が降伏してこっちにきてから、内部を撹乱する! エレガーさんが考えた策だ!」


 ヤックルはそう言ってエレガーを指さすと、エレガーはドヤ顔をして、ポケットからハンカチを取り出し、アランの生首に被せる。


「そんなの聞いてないわよ!」


 ジャギーは、全く理由がわからずに拘束されて投獄されるという不本意な羽目にあい、セクハラまがいのことまでされるという人生最悪の日の原因を作ったエレガーを睨みつける。


「まぁ落ち着けお嬢さん。エレガーは仲間を集めていたが、この国だけでは限界があった。ムバル国で仲間を探そうとしていたが、情報がいつ漏れるのか分からなくて手をこまねいていたところに、この方達が降伏をしようと話しているのを耳にして仲間に加えるように話し合って決めた。ただこれには、ムバル国でバレないという前提が必要だった。国内では秘密だった。勝、君に話した場合、精神に混乱をきたして逆に再起不能に陥るから仲間に加えるのはやめようという事になった。ジャギー、君もだ」


「そうだったんだな……でもなんで、ゴルザさんがここにいるんだ?」


 勝は、ムバル国でカヤックの護衛にあたっているはずのゴルザが何故ここにいるのか疑問に駆られているが、強力な仲間が手に入ったことを素直に喜んでいる様子である。


「停戦の交渉に来たんだ、カヤック王と一緒に」


「えぇ!? 停戦だと!?」


「君は知らなくて当然なんだろうが、カヤック王とバモラは実の兄弟だ。バモラが兄貴だ。虹色の聖杯を巡り兄弟喧嘩になり戦争が始まった。今からこの国は革命が起きて終わるんだが、その前にはっきりと白黒つけさせたくてここに呼んだんだ」


「……」


「金縛りが解けるぞ! やはりあれは、強大な力には長時間は無理なんだ!」


 シルバードラゴンとシオンは気力で金縛りを解き、両方の首から炎を吐き出そうとしており、エレガーとルーカスは魔法のバリアをはろうと詠唱を始める。


(間に合うか!?)


『グギャア』


 勝は死を覚悟したが、聞き覚えのある声を空の方から聞き、天を見上げるとゼロとオスカーが翼を広げて勝達の方へと向かってくる。


「行くぞ勝! 飛び乗れ!」


 アレンは、アランの生首に手のひらを合わせて一礼し、線香代わりにオモコの入った箱を置いて、オスカーの背に飛び乗った。


「あ、あぁ!」


 勝はゼロの背中に飛び乗り、目の前に余裕たっぷりに飛んでいるシルバードラゴンと、中指を立てて威嚇しているシオンを睨みつけた。

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