第77話 革命その3

 ゼロに一旦別れを告げ、ハオウ国の前にたどり着いた勝は、門番との交戦を覚悟したが、肝心の門番がおらず、周りを見回しながら入っていくと、そこには地獄絵図が広がっていた。


(なんだ、これは……!?)


 国の内部は混乱を極めており、武装した国民が鎮圧に向かった兵士と交戦しており、攻撃魔法が飛び交い、あちこちに死体が転がり、勝は混乱に生じて待ち合わせの時計台へと足早に向かう。


 時計台は、大砲の流れ弾なのか、レンガが崩れかけており、今にも倒れそうな勢いであり、周りを見回すと2.3人の屈強な兵士が勝に槍を向けている。


「なんだ貴様! お前もレジスタンスか!?」


 ドラゴンの鱗でできた鎧と鉄製の盾、ドラゴンの爪で作られた長槍で武装した兵士を見て、自分の装備と大差はないなと少し安心した勝は魔封剣を鞘から抜き、威圧する。


「お前もエレガーやルーカスの一味か!?」


「ルーカス!? 誰なのかよく分からんが、俺はあいつらの事は知らないぞ!」


「嘘をつけ! ぶち殺せ!」


 彼らは怒りたって勝に襲い掛かろうとすると、閃光のようなものが彼等に浴びせられ、電流が迸り、その場に倒れた。


「誰だ!? 新手の魔法使いか!?」


 勝は閃光が発せられた方を見やると、ジャギーとエレガーがほっとした表情を浮かべて勝を見ており、その中に見たこともない人物がいる。


「勝! 間に合ってよかった!」


「誰だその男は!?」


「私の名前はルーカスだ。革命軍のリーダーだ……!」


「革命軍だと!? おい、頭がさっきから混乱してるんだが、詳しく教えろ!」


 知能レベルが予科練の知識しかなく、高度な事が理解できない勝は頭をひねらせ、ルーカス達に尋ねようとすると、時計台が音を立てて崩れ落ちる。


「勝、後でゆっくり教えてやるから、ちょっと場所を変えよう! ここでは危険すぎる!」


「そうしよう!」


 彼らは取り敢えず、この混乱の渦から逃れようと、落ち着けそうな場所を探すと建物の隙間があり、そこにしようとエレガーは言って、身を隠すことにした。


      🐉🐉🐉🐉

 回復呪文をフランクにかけ終えたアランは、目の前を悠々と飛翔しているシルバードラゴンと、それに乗っているシオンを、きっと睨みつける。


 シルバードラゴンは速度があるのか、ぐんぐんと近づいてきており、少なくとも大陸内で1番、速度や攻撃力があるホワイトドラゴンのフランクよりも優速である事が伺える。


「来る……!」


 シオンは身構え、シルバードラゴンと真正面から対峙する形となり、槍を向けて、フランクは炎を浴びせかける。


「やったか!?」


 炎の隙間から、そいつは威勢良く飛び出してきて、片方の口から炎を吐き出して、お互いの炎で相殺し、もう片方の口から吹雪を吐き出してフランクに浴びせかける。


 ホワイトドラゴンの鱗は、大陸一の耐久性を誇るものであるはずだが、吹雪が強烈なのか、鱗が寒さを耐えきれずに凍り始める。


 アランは慌てて上昇を命じるのだが、シオンが槍を向けてきて突入して来、抵抗をするのだが向こうが数段実力が上なのか、槍が弾かれ、無防備な状態になる。


 シオンは中指を立て、アランの胸元に深々と槍を突き刺し、シルバードラゴンはフランクの喉元に勢いよく噛みついた。


      🐉🐉🐉🐉

 カヤックは、オモコを口に咥えてニヤリと笑い、革命に乗じて戦争を勝つつもりでおり、対照的にゴルザは何か別に思い当たる節があるのか、天井を見上げて何かを思案している。


「おいどうした? 戦争に勝てるならこんなメシウマな事はなかろう?」


 こいつどこまでも器の小さい小心者なんだな、と周囲は思うのだが、それは、この国に生まれた以上は宿命的なもので仕方ないのだなと諦めている。


「カヤック殿……思い当たることがあるのですが」


「なんだ? 言ってみろ!」


「ハオウ国の国王とは、確かご兄弟でしたよね?」


「何言ってるんだ貴様は!」


 ゴルザは詠唱を始め、何もないはずの空間から、絵巻物を取り出し、それを開き、慌てふためいている衛兵やカヤック達に見せる。


 古びた巻物には、家系図が書いてあり、そこには確かに、カヤックとバモラが血の繋がりがあるという記載があった。


「これが証拠ですが?」


「……」


「貴方は、バモラの異母兄弟だと先代の王から聞いておりました。バモラは妾の子でしたが、世間体的にも良くないと、生まれてすぐにハオウ国へと飛ばされたと。子宝に恵まれなかったので養子に出したのです。戦争を起こしたきっかけは、遺産争いだとドレ老人の読心術から聞いておられますが……」


「おいよくも、騙しやがったな糞野郎!」


「初めから仕組んでたんだな!」


 兵士は当然の事ながら全くこのことは知らされておらず、兄弟喧嘩での戦争で多大な被害を被った事を相当に怒り散らしている。


「ひ、ひええ……!」


 怒りだった兵士達は刃物をカヤックに向けており、その瞳には明らかに殺意が篭もり、これは流石にまずいなと、人質としてカヤックを利用しようとしているゴルザは「やめろ」と制し、口を開く。


「私から提案があります。カヤック王を交渉人としてハオウ国に差し出し、停戦の協定を結ぶのです。このままでいけば、確実に甚大な被害がでます。カヤック王、私の提案は受け入れては頂けないでしょうか? 仮に断ったとして、クーデターが起きて命の危険の責任は持てませんが、如何でしょうか?」


「う、うむ! 分かったよ! 行けばいいんだろ!? 向こうが戦争をいきなりふっかけてきたんだよ!あいつ、先代の遺産をよこせって言ってきて……!」


「では、これから行きましょう。この中で腕利の衛兵を2.3人ぐらい連れて。これから瞬間移動させてハオウ国に行きます……」


「あ、あぁ……」


 衛兵の中から、数名が推薦されて名乗り出、死にそうな顔をしているカヤックを見て気の毒に思いながら、ゴルザは瞬間移動の魔法の詠唱を始めた。

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