第76話 革命その2

 勝はゼロを岩山に隠し、一人でハオウ国に向かおうとすると、魔法石から何かノイズのようなものが聞こえており、アランからの通信かと思い耳を傾ける。


『勝、勝か……!?』


 魔法石からは、エレガーの声が聞こえており、勝のいる部隊だけにしか発信ができないように細工してあるのにも関わらず、これは盗聴なのではないのかと思わず口を開く。


「貴様! 俺達を裏切ったのではないか!? 盗聴かこれは!?」


『いやよく聞いてくれ! 俺が裏切ったのは、ハオウ国を内側から壊すためだ! 革命を起こすための芝居だ!』


『革命だと!? お前そんな事を考えていたのか!?』


 革命という言葉は、勝がいた日本ではあまり聞きなれない言葉であったが、過去に似たような事があったなと思い出し、エレガーの言葉を待つ。


『あぁ、真正面から戦いを挑むのは流石に無謀すぎるだろ!? 内部から崩す! 君の力を借りたい! 協力してくれないか!?』


『あ、あぁ! 分かった! そちらに行くが、どこで待っていればいいんだ!?』


『時計台がある! 赤い煉瓦のやつだ! そこで待ち合わせよう!』


『分かった!』


 魔法石からの通信はそれで途絶え、勝は気持ちを切り替えようとオモコを取り出して火をつけ、ニコチンに似た物質が体に染み渡り、クールダウンしてゆっくりとハオウ国へと足を進める。


(革命、か……。俺のいた世界では、日本で言うところの2.26事件のようなものか? いや、それとは規模が違うんだろうな。何せ、ドラゴンや魔法が存在する世界では、拳銃や爆弾とは比較できないものだ。ただ、それが起きて内部撹乱が起きてくれるならばこちらにとっては都合がいいがな……!)


 勝が満洲で兵役に就いた後、間も無くして陸軍将校による2.26事件が起き、程なくして、日本国内は、誰にも止めることが出来ない負のループに嵌ることになる。


「ん?」


 突如としてハオウ国からは黒煙が上がり始め、これはいよいよ、本物の革命が起き始めたのだなと勝は高揚し、オモコを吸い終えて吸い殻をもみ消した。


        🐉🐉🐉🐉

 「革命、だと……!?」


 カヤックはハオウ国に送り込んだスパイからの報告を聞き、眉を顰め、今の状況を整理しようとゆっくりとオモコに火をつける。


「はっ。 今しがた入った情報によると、ハオウ国内でレジスタンスによる革命が起きました。国民全員が決起しており、国内は混乱を極めていると……!」


「そうか……! やはりあの国は色々と内乱が起きても仕方なかったんだな……!」


「私が参りましょうか?」


 ゴルザは、何か秘策があるのだろうか、大胆不敵な笑みを浮かべており、「これは何か企んでいるぞ」と周囲は直感で感じた。


「うむ、ここで手を緩めないで一気にやるぞ!」


 おおっ、と皆の中から歓声が響き渡り、モチベーションが上がり、もしかしたら、最強の国家に勝てるのかもしれないという一縷の望みをハオウ国にいる勝達に送る。


「ただゴルザ、貴様は居なくなると困るからここに残って護衛に当たれ。主力メンバーが殆ど出て行ってしまったからな」


「は、はい」


 チキン野郎、とここにいる兵士全員が心の中で呟き、せっかくのチャンスを活かしきれずに落ち込んでいるゴルザを気の毒な表情で見つめる。


      🐉🐉🐉🐉

 国家を構築する際、君主が気をつけなければならないことは、国民に過度の負担を与えずに生活を続けさせることであり、ましてや革命などもっての外である。


 ハオウ国は、過去に革命が何度か起きそうになり、当事者を尋問すると、必ずと言っていいほどルーカスの名前が出たが、尻尾を掴めないでいた。


「ルーカスとエレガーがやった、だと……!?」


 バモラは、禿げかかっている頭から湯気が出るほどに殺気立っており、かつて信頼を置いていた息子が、国家の一大事の時に革命を起こしたことが相当に気に合わない様子である。


「はっ。国民数名を確保して尋問しましたが、ルーカスとエレガーの名前が出ました。陰で活動をしていたと……」


 報告する兵士達は、バモラを気の毒に見つめているが、内心は彼の事を快く思っておらず、ようやく待ち望んだ大規模な革命に胸が踊っている。


「見つけ次第殺せ! 俺に歯向かうものは全員処刑だ! おい、そこの眼鏡! 貴様らの身の安全は確保してやるから、今すぐ前線に出向いて、ルーカス達を殺せ!」


「はい……」


 ヤックル達は、かつて自分と同じ飯を食べた仲間が敵の側に回るのを、複雑な心境で対峙しなければならない現実に辟易している。


「レオンは向かってるんだよな!?」


「はっ。ただ今入った交信情報によると、ムバル国の竜騎士部隊と交戦状態に入るそうです!」


「ふぅむ、希少種のブラックドラゴンに勝てたようだな。それなりに実力はあったんだな、だがこれで終わりだ!」


 バモラの下品な高笑いを背中に受け、ヤックル達は兵士の後に続き、アラン達の身の上の心配をしながら部屋を出て行った。


     🐉🐉🐉🐉


 ブラックドラゴン自体は強力なのかと言えばそうでもなく、徹底的な軍事訓練を受けたアラン達にとってはそこまでの脅威ではなかった。


 しかし、あまりにもその数が多く、それなりに犠牲はつきもので、最後の一匹を駆逐した時に、30名いた部下は15人以下に下がり、戦力の大幅なダウンは明白である。


「ふぅ……大丈夫か? フランク……」


「グルル……」


 アランとフランクは満身創痍であり、所々に噛まれた跡があり、つい数分前の激戦を物語っており、回復魔法を詠唱し傷を癒す。


「ん!?」


 勝とまではいかないが、裸眼視力5.0を誇るアランの視界に、明らかに自然界には存在しない筈である、双胴の竜がこちらに向かってきているのが飛び込んでくる。


「総員戦闘体制につけ! シルバードラゴンだ! あいつら、切り札を出してきやがった! 畜生、なんでこんな時によりによって……!」


 回復魔法により全快したアランとフランクは、大陸最強とはいえ、伝説上の化け物との戦い方を軍で習っておらず、どうしたものかと首を傾げ、なんとかやってみるか、とシルバードラゴンの方へと向かった。

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