第75話 革命その1

 ハオウ国の住民は、この国で生活をしていく上で幾多の重税を課せられ、青年期に差し掛かると半ば強制的に、徴兵を命ぜられる宿命にある国に生まれた人生を、呪う事しかできないでいる。


 革命軍リーダーのルーカスは、貧困層の家庭で生まれ育ち、劣悪な環境を変えるべく、15才の春に徴兵を快く受けて兵士になった。


 当時、和平協定を結んでいたムバル国の、同じ年の兵士であるジョセフと交友を持ち始めたのはその頃からである。


 数年後、ハオウ国とムバル国の和平協定が破られ、長きにわたる戦争が始まる際にジョセフとは離れ離れになり、手紙での交友も途絶えてしまった。


 当時からルーカスは、ハオウ国の上層部のやり方に疑問を感じており、同じ考えを持つ仲間を集めて、革命軍を作り上げる。


 その背景には、家族の事があり、軍人になり生活の保障をしてくれるはずの軍部はその約束を反故にし、強制労働と重税による生活苦からルーカスの家族は無理心中をしてしまい、ルーカスは天涯孤独のひとりぼっちになってしまった。


 更に数年の月日が流れ、世界戦争の際にジョセフが非業の戦死を遂げた事を聞き、ルーカスは革命を起こす事を決意する。


 そして、アンダーグラウンドでの活動を暫く行い、ムバル国に送り込んだスパイがエレガーと接触、計画は終わりかと一瞬覚悟したが、自分もその仲間に加えて欲しいと相談を持ちかけられ、事情を聞き快く承諾する。


 ちょうどその頃、ジャギーの持っていたネックレスで核兵器が完成間近だと知り、この国を壊すのはそのタイミングでしかないと分かり、革命が始まった。


「……」


 試作段階にある武器で武装したエレガー達は、地下水路を通りながら、この上のフロアにある国王のいる部屋へと向かう、ここは地下牢であると同時に、緊急時の避難経路である。


「ねぇ、あんた国王の隠し子だったの?」


 ジャギーは、眉間に皺を寄せ、終始険しい表情を浮かべているエレガーを見て、聡明な彼がここまで追い詰められるのは尋常ではないと思い、疑問を尋ねる。


 その質問はセンシティブな内容であるため、聞きづらいことを聞いてしまったかなと、ジャギーは一瞬躊躇ったが、エレガー自身のアイデンティティが、革命運動に参加するきっかけになったのではないかと思案に駆られた。


「あぁ、俺は妾の子だ。あいつの一方的な不倫の末に俺が産まれた。奥さんにバレて、国外追放になってムバル国に辿り着いたが、母が過労の末に亡くなって1人になったところをジレ長老に拾われた。そこからはお前が知ってるのと同じだ」


「……」


 エレガーは、まだ赤ん坊の時にムバル国に母のテレサと逃げてきて、2人きりでの生活が始まったが、母子家庭ということもあり生活は困窮し、エレガーが10才の時にテレサは流行り病に罹り命を落とす。


 孤児院に預けられそうになり、見かねたドレがエレガーを引き取り、魔力のチェックをした所、常人の5倍以上の魔力がある事が判明し、すぐさま軍司令部の監査の元、魔導師養成を兼ねて魔法研究所に配属になった。


 ちょうどその頃、戦地から帰還したジョセフが再び出征することになり、まだ5才だったジャギーを魔封剣と共にドレに預けて、兄妹のような関係が10年余り続いたのである。


「出口が見えてきたぞ」


 ルーカスが指差す方向には、地下道の出口と思われる光が刺してきている場所があり、誰かが待ち構えているのではないかとエレガー達は身構える。


      🐉🐉🐉🐉

 曇り一つない晴天の空の下、勝はゼロと共にハオウ国に単騎向かっており、その表情はかなり複雑そのものである。


(アレンやヤックル達と一戦を交えることになるのか……?)


 彼らが残した手紙の内容は、確かに降伏すると書いてあったが戦うことになるという確証はなく、勝の心の中で変な被害妄想に襲われている。


 仮に戦うことになったとして、アランと勝の次に強いアレンと、強力な上級攻撃魔法を使いこなすヤックル、妙な色仕掛けで迫ってくるマーラとやり合えば苦戦は必至である。


『……勝、聞こえてるか? こちらアランだ!』


 魔法石から、アランの声が聞こえ、ようやく入った連絡に勝の心は酷く不安に襲われ、悪い胸騒ぎがする。


『アラン隊長! ブラックドラゴンとの戦闘はどうなったのですか!?』


『強いが、大丈夫だ! よく聞け、お前は1人でハオウ国に行け! 着いたらゼロを隠し、合図を出すから笛でゼロを呼べ! 何度か連絡はするが、単独でのゲリラ戦だ! 内部から撹乱する! 以上だ!』


『はっ!』


 アランからの連絡はそれで途絶え、勝は首から下げている仲間のドラゴンを呼び寄せる笛を見つめる、これはドラゴンの聴覚に作用して、笛を吹いた主の元へと戻って来させるためのものである。


「見えた!」


 目の前数キロ先には、ハオウ国が見え、勝は慌ててバッグから偵察部隊が撮影した写真を取り出し、その画像が一致していることを確認し、見つからないようにどうしたらいいものかと考えると2キロほど先に岩山がある。


(ここにゼロを隠そう)


 勝は辺りを見回し、ドラゴンや砲兵がいない事を確認して、何もない事が分かり、とりあえずは一安心して岩山の方へと向かった。


      🐉🐉🐉🐉

 ハオウ国の会議室には、ムバル国から降伏してきた兵士達が20名ほどおり、その中には、アレンとマーラ、ヤックルが不安そうな表情を浮かべながら立っている。


「ほう、貴様らが降伏してきたんだな……」


 バモラは、くくくと笑い、この戦争は楽勝に終わるんだなと安堵して、マーラの胸の谷間をセクハラ満点でいやらしそうに見つめる。


 特にヤックルの場合、デルス国のゴーレム撃破とゴラン国の飛空戦艦の撃墜の件は密偵により相手側に伝わっており、相手国の魔導士としてはかなりの腕前だと、要注意人物としてマークされているため、仲間に寝返ったことがバモラ達にかなりの好印象を与えている。


「おい、お前らの軍の内情を教えろ。特にあの、異世界から来た男についてだ」


「それは……」


 アランは、勝を売ることを一瞬躊躇ったが、周りにいる兵士が槍を向けてきており、ここで出鱈目を言えば間違いなく殺されると思い、口を開こうとすると、使役の人間が慌てて部屋の中に入ってきた。


「ウルセェ!」


「大変です! 反乱が起きました!」


「何だと!?」


「国民全員が反乱に加担しています! 部隊の中でも反乱分子が出始めてます!」


「何ィ!? 片っ端から皆殺しだ! こっちには核兵器があるからな! 全員に伝えろ、謀反をやめない場合核兵器の使用を行うとな! 鎮圧しろ! レオン、今すぐ行ってこい!」


「……OK」


 レオンは、正直この国がどうなってもいいのだが、何処かに行く当てがない風来坊の自分の居場所がここしかなく、最低の国王だが、一応命令は聞いておこうと複雑な表情を浮かべて頷いた。







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