The person who was a friend.

棗颯介

The person who was a friend.

 真夜中のファミレスに私を呼び出した目の前の”友達”は、ひっきりなしにある友人との会話について愚痴を吐き続けていた。


「色んな考えで今までの人生遊んできたんだろ?あなたの人生設計は前半に全振りだろ?間違ってると思われる友人に、間違ってると言えなくなったら終わり」

「言われたくないであろうことは、敢えて言う必要はないし、それを言ったところで、相手が受け入れないなら、責任取れるわけじゃないから、言わなくたっていい。足を踏み込むべきではない」

「それは正論。まぁ、1000万レベルになると年収も隠すよね。そんなこと隠されての友人ってねぇ~と思います。私の価値観からすると、友達は友達内で助け合うべき関係で、それには正確な情報が必要だと思っております」


 前々から薄々感じてはいたけれど、今夜のこの会話が決め手になった。


 ———この人も、ダメか。


「そっか。ねぇ、ここじゃ人目もあるしさ、どこか落ち着けるところに行かない?……二人きりになりたいの」

「っ、はい。いいですよ」


 どこか期待した表情を見せる”男性”を一瞥し、私は会計を彼に任せてファミレスの駐車場に停めてあった車に乗り込んだ。エンジンをかけて店の入り口まで車を移動させると、示し合わせたかのように彼が助手席に乗り込んでくる。


「人って相手のプライベートまできっちり把握しておくべきだと思うんですよ。休日のスケジュールとか———」


 隣で彼は延々と自分で勝手に正しいと思い込んでいる常識だとか人生哲学だとか人の道だとかを語っているが、私は無視してハンドルを切っていた。今までこの人ならもしかしたらと思っていろんな話を聞いてあげてきたけどもうどうでもいい。聞く価値もない。


「あの、聞いてます?」


 ———今夜はカーラジオの調子が悪いのかな。ノイズみたいなひどい音が聞こえるよ、もう。トンネルの中でもないのに。


「もしもし?」


 ———あ、あれってこの間ネットで見かけた新しくできたお店か。今度一人で行こうっと。


 いつの間にか目的地についていた。もうここには何度も来ているから雑音交じりだろうが夜中だろうが問題なく来れる。


「あれ?なんで急に止まったんですか?というか夜の山道ってなんだか怖いんですけど」

「五月蠅いなぁ」

「え」

 

 横でずっと雑音を響かせていた”何か”に、私は何の躊躇いもなくナイフを突き立てた。当たり所が良かったのか、肋骨に刃先が当たることなく綺麗に心臓を貫いた手ごたえがある。”ゴミ”の駆除はもう何度もやっているから急所を見極める嗅覚が自然と身についているのかもしれない。


「な、ん、で」

「だから五月蠅いって」


 心臓に突き立てたナイフを勢いよく引き抜き、次は”それ”の顎下からナイフを突き刺した。ここか。さっきから誰も聞いていないクソみたいな雑音を垂れ流してたのは。

 胸からナイフを引き抜いた時に血が勢いよく噴き出し、フロントガラスに芸術的な赤い模様が浮かび上がる。それを見て私は、”これ”を車から下ろしてから処理すればよかったと僅かに後悔した。

 顎下からの一突きで”それ”は物言わぬ”ゴミ”になり果てていた。私は助手席側のドアを開けると”ゴミ”を引っ張り出し、そのまま夜の雑木林を少し進む。やや開けた場所には錆びかけたスコップが墓標のように地面に突き刺さっており、私はいつも通りそれを使って人一人分程度の穴を新しく掘ってそこに”ゴミ”を投げ捨てた。


 ———あ、なんかまだイラつくわ。もうちょっと切り刻んでおくか。


「はっ、ハハッ。ハハハハハ。アハハハハハハハ!!!!」


 誰も来ない暗闇の中、私は気が済むまで”ゴミ”にナイフを突き立て、抉り、縊り、切り裂き、へし折り、握り潰した。


「はぁ~、すっきりした」


 気が済む頃には、”ゴミ”はもう原型を留めていなかった。

 飛び散った血が染み込んで湿っぽくなった土を肉片の集まりに被せた私は最後にトントンとスコップで優しく地面を叩いて車に戻る。

 木々の隙間から差し込む月明かりに照らされながら、ふと”友達だった”誰かが以前言っていたような気がする言葉を思い出した。


 ———私の価値観からすると、友達は友達内で助け合うべき関係で、それには正確な情報が必要だと思っております。


 友達同士はお互いのことを包み隠さずオープンにしなければいけない?そんな友達、私は友達とは呼ばない。友達っていうのは他人に言えない”秘密”があっても、それを言わなくても友達でいてくれるから友達でしょう?


「友達、なかなかできないなぁ」

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The person who was a friend. 棗颯介 @rainaon

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