うさぎさんとたくさんの本

 とある深いふかい森のおくに、ひとりで暮らしているうさぎさんがいました。


 白いからだに赤い目、エプロンすがたのうさぎさんは、レンガづくりの小さなおうちにずっと一人ぼっちでした。

 でもある時、ゆうきを出したことで、森の動物たちと仲良くなることができたのです。


 きっかけは大好きな本でした。ながい間コツコツとあつめてきた、たくさんの本のかしだしをはじめたのです。


 本をよみたい人の他にも、じぶんの本をおいてほしいという人もあらわれて、うさぎさんのお家は今では「森のとしょかん」と呼ばれるようになりました。


 ◇◇◇


「うーん、どうしましょう」


 そんな毎日を過ごすうさぎさんには、さいきん、悩んでいることがありました。


 みんなに本をしょうかいしたり、一緒にお茶をしたり、時にはどくしょ会をひらいたり。どれもとても楽しいことなのですが、ときおり、「もっと本があればなぁ」と思うのです。


 ひとりで集められる本の数はかぎられています。

 みんなで使うと、同じ本を読みたい場合もでてきますし、どんなに大事にしていても傷んで最後には読めなくなってしまいます。


 うさぎさんは、問題をかいけつする良い方法がないかと、さがしていました。



「こんにちは」


 そんなある日のことです。「森のとしょかん」に新しいお客さんがやってきました。

 スーツがきりっと決まったネコさんです。茶色い毛皮に、黒ぶちのメガネをかけています。


 うさぎさんは恥ずかしがりやです。

 初めて出会う格好いいネコさんにどぎまぎしましたが、やわらかい笑顔で声をかけてくれたので、なんとか「こんにちは」と返すことができました。


「はじめまして。町のとしょかんからやってきました」

「えっ?」


 とてもおどろきました。たしかに町には立派なとしょかんがあって、うさぎさんも行ったことはあったけれど、まさかそこからひとが来るなんて思わなかったのです。


 もしかして、かってに「森のとしょかん」をやっているのを注意しにきたのでしょうか?

 うさぎさんは不安になってしまいました。


 すると、ネコさんは「しんぱいしないで」とまたほほ笑みます。きゅうに来たことをあやまって、わざわざやってきた理由をおしえてくれました。

「森のとしょかん」ができたときいて、見せて欲しいと思って来たというのです。


「見ても良いですか?」

「は、はい」


 おこられるのではないと知り、うさぎさんはホッとしました。

 そしてネコさんをお家の中にあんないし、出したお茶とクッキーでおもてなししながら、ぽつぽつとお話をしました。


「それでとしょかんを始められたのですね。すてきです」

「ありがとうございます」


 ネコさんはやさしくほめてくれて、うさぎさんはうれしくなります。そこで、思いきってさいきん悩んでいたことも相談してみる気になりました。

 みんなに楽しんでもらうためにも、本がもっとあったらいいのにという問題です。


「皆さんがときどき分けて下さったりもするんです。でも、それでは足りなくて。ほかに何かいい方法はないでしょうか?」

「そうですね」


 ネコさんはしんけんな顔で話をきいてくれて、少し考えこんだあとでいいました。


「こういうのはどうでしょうか?」


 ◇◇◇


『森のとしょかんは、おやすみです』


 ネコさんが来たあとのことです。うさぎさんのお家の前には、時々そんな看板かんばんが立てられるようになりました。


 その日は、うさぎさんが大きめのバッグを持って、町のとしょかんに出かけて行く日なのです。


 ネコさんが提案ていあんしてくれたアイデアは、「町のとしょかんから本を借りてくる」という方法でした。

 「森のとしょかん」を使う動物たちのために、とくべつに借りられるようになったのです。


 それだけではありません。ネコさんたちは、知っておくと役に立つ、としょかんのちしきも教えてくれました。


 うさぎさんはその勉強べんきょうのためにも、町のとしょかんに通うようになったのです。いつも新しいちしきを得ることが出来て、とても楽しいじかんです。


 森の動物たちは、さいしょはとてもおどろきましたが、うさぎさんのうれしそうな笑顔を見て、今では応援おうえんしてくれます。

 その日も通りがかったヤギのおばあさんが声をかけてくれました。


「あら、今日はおでかけなのね。がんばってね」


 うさぎさんは「はい!」と返事をして、元気よく出かけていきました。



《おわり》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る