うさぎさんとステキなしるし

 ここは、とある森のおくにポツンとたたずむ「森のとしょかん」。本好きのうさぎさんが自分のおうちに作った、みんなのいばしょです。


 本をよんだり、お茶をしたり、あそんだり。ときには楽しい「もよおし」もします。

 おやすみの日のほかは、いつも、ちいさな子どもからお年よりまで、たくさんのひとでにぎわっていました。


 ✽ ✽ ✽


「ありがとうございました。みなさん、気をつけてかえってくださいね」


 ゆうがた、うさぎさんはニッコリとわらって、来てくれたどうぶつ達にこえをかけました。

 きょうの、森のとしょかんはおしまいです。


「うさぎさん、ありがとう」

「おやすみなさーい」


 みんなも手をふりながら、まんぞくそうな笑顔えがおでかえっていきました。

 うさぎさんはとびらをパタンとしめると、「ふぅ」とひといきついてから、本だなのせいとんをはじめます。


 みんな、よんだ本は元のばしょにもどしてくれます。

 けれど、大人おとなでもうっかり間違まちがえてしまうこともありますし、子ども達がつかう絵本のたなは、どうしてもぐちゃぐちゃになりがちです。


 本だながみだれるのは、それだけ本がよまれたということでもあり、うさぎさんにはうれしいことです。


 でも、森のとしょかんに来てくれるひとがふえてくると、やっぱりせいとんも大変たいへんになってきていました。

 それに、うさぎさんには気になっていることもありました。


「この本、どこにもどしたらいいかしら?」

「ここでいいのかな……?」


 そんなふうに、まよっているすがたを見かけることが、たびたびあるのです。


 りゆうもわかっていました。

 本だなには「えほん」、「りょうり」、「いきもの」、「ものがたり」といった見出みだしをつけているものの、本にはまだ、しるしがありません。


 町のとしょかんの本には、せなかの下のところに数字すうじのシールがついています。

 本をないようごとにわけて、ならべるための数字です。


 これがあれば、さがしたい本をみつけるのもカンタンです。

 森のとしょかんの本もふえてきたので、うさぎさんもそろそろしいなとおもっているところでした。


 ✽ ✽ ✽


 そんなある日のことです。

 うさぎさんは町へおかいものに来ていました。


 とちゅう、とおりかかった雑貨屋ざっかやさんのまえで足をとめました。

 うさぎさんは本とおなじくらい、かわいい小物こもの文房具ぶんぼうぐなども大好き。見ているだけで、ワクワクしてきます。


「いらっしゃい。よかったら見ていってね」


 やさしい声にさそわれて、たなをながめます。

 キラキラした首かざりやゆびわ、イヤリング。ツヤツヤとかがやく小物いれに、ペンやプレゼント用のかわいらしいカード……。


「あっ」


 うさぎさんは、その中にあるものを見つけて、おもわず手にとっていました。


 ✽ ✽ ✽


 よくじつ、いつものように森のとしょかんに来てくれたみんなは、本だなを見ておどろきました。

 なんだか、はなやかになったように見えたからです。すぐにはそのわけが分かりませんでしたが、そのうちに、子どもがはずんだ声をあげました。


「あっ、おはな、かわいい!」


 そう、おはなです。かわいいピンク色のお花のシールが、本のせなかの下のほうにはってありました。

 ほかのみんなも、それぞれの本を手にとって、見せあいっこをしながらいいます。


「こっちはペン!」

「これはボール!」


 うさぎさんはにっこりわらって、本だなをゆびさします。そこには、これまで付けてあった見出しといっしょに、シールとおなじ絵がかいてありました。


 さいしょのお花はしょくぶつの本、ペンは絵やこうさくの本、ボールはスポーツの本のしるしです。

 おりょうりの本にはおナベ、おさいほうの本にははりと糸。そして、絵本えほんにはみんなが大好きなオレンジいろの丸いシールがはられていました。


「こんどからは、この絵やいろを見て本をもどしてね」

『はーい!』


 大人たちは「なるほどなぁ」、「これはいいわ」と口々にいいました。これなら、まだがよめない小さな子でも、本をまちがえずにもどすことができるからです。


 ✽ ✽ ✽


 本だなは、まえよりスッキリするようになりました。


 子どもたちも、絵をそろえるのがあそびみたいで面白おもしろいらしく、せっきょくてきにキレイにしてくれます。

 もしヘンなところに入ってしまっていても、すぐに気づくことができました。


 うさぎさんのあとかたづけも、あっという間におわるようになりました。シールをはるのは大変たいへんだったけれど、けっかはだいせいこうです。


「あ……」


 ふと、少しだけとび出ている本を見つけました。いきものの本です。

 いつものようにととのえようとした、うさぎさんのしろい手がとまりました。それから「ふふっ」とささやかな声がこぼれます。


 シールをきめる時に、ちょっぴりなやんだ「いきもの」の本のせなかには、かわいらしいうさぎさんの絵。

 もちろん、文句もんくをいうひとはいませんでした。だって、ここはうさぎさんのとしょかんですからね!

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