絵かきの魔女と森のとしょかん

 とある森に、一人の魔女が妖精とともに住んでいました。


 わるい魔女ではありません。森のどうぶつたちのためにくすりを作ったり、こわれたものを直してあげたりする良い魔女でした。


 ◇◇◇


「うーん、うーん」


 ある日のことです。

 明るいお日さま色のかみと青いひとみをした魔女は、黒いローブをきこんで家の中でうなっていました。


「どうしたの?」


 耳元で子どものような高い声がしました。かおを上げると、あわい光がちらちらとまたたきます。

 魔女のお手伝いをしてくれる、妖精の声でした。


「絵がかけないの」


 妖精は「また?」とあきれました。

 それもそのはず、魔女は絵をかくのが好きなのですが、いつもテーマになやんで、なかなかかき始められないのです。


「そんなに苦しいならやめればいいのに」


 魔女は絵かきではありません。かけなくても困ることはないのです。だから、妖精はしんぱいして言ったのですが、魔女はうなづきませんでした。


「いやだ。かくのはたのしいもの」


 かきたいものを見たり、あたまの中でそうぞうしながら線をかき、色をぬっていくさぎょうが好きなのです。


 部屋のあちこちには、これまでにかいた絵がたくさんおかれています。こうして、できあがった絵をじっとながめるじかんも幸せなひとときでした。


「テーマが魔法でだせたらいいのにな」


 何でも出せる力はもっていても、何を出すかきめてくれる魔法はありません。魔女はふたたび「うーん、うーん」とうなり出し、やがて妖精がいいました。


「しかたないなぁ」


 魔女のまわりを妖精がクルクルと飛びまわれば、光がきらきらとふりそそぎます。すると、ぼんやりしていた魔女の目がぱっちりとひらきました。


「そうだ、あれをかこう!」


 妖精のおうえんで、かきたいものをひらめいたのです。魔女は少しまえにキツネがおすそ分けにとくれたリンゴを二つ出してきて、まるいテーブルにおきました。


 赤い実と青い実をならべると、なんともすてきな味わいに思えました。


 ◇◇◇


 少しずつ少しずつかいた絵は、あわい色合いにしあげました。リンゴのあまずっぱいにおいが、今にも届きそうです。

 魔女もできばえには大まんぞくでしたが、一つだけ気になることがありました。


「せっかくかいた絵、だれかが見てくれないかな」


 自分でかいて、自分で見る。それはそれでたのしいのですが、できることなら他のだれかにも見てほしかったのです。


「だったらこうしよう!」


 妖精はいうなり、ゆびをぱちん! とならしました。風がわっとおこり、部屋じゅうにちらばっていた絵があつまってきます。


 みるみる一つになって、さいごには一さつの本になりました。魔女の画集がしゅうのでき上がりです。

 それを魔女にもたせて、妖精がつれていったのは森のおくにある小さな家でした。


「こんにちは。うさぎさん」


 妖精が声をかけると、中からエプロンすがたのうさぎさんが出てきました。


「こんにちは。妖精さん、魔女さんも。中へどうぞ」


 とてもやさしい笑顔にまねかれて家に入ると、中には大きな本だながあり、たくさんの本がつまっているのが見えました。

 魔女も本は好きだったので、よみたくてウズウズしてしまいます。


「ここは森のとしょかんなんだ。うさぎさんは本好きの人に、本をよませてくれるんだよ」

「としょかん? ……あっ」


 そこで気がつきました。自分も、たった今できたばかりの本をもっていることに。魔女は画集をさしだし、見てほしいとおねがいしました。


「わぁ、ありがとうございます」


 画集も大好きなうさぎさんはうれしそうに受け取ります。

 ひょうしは一ばんの新作、二つならんだリンゴの絵でした。ページをめくれば、魔女がこれまでかいてきた絵がつぎつぎにあらわれます。


 よぞらの月や、木のえだでねむるふくろう。ほこほこのパンケーキもあれば、妖精の飛ぶすがたもあります。

 まるで魔法をとじこめたような「かがやき」にあふれていました。


「どれもすごくすてき。ここにおかせてもらえませんか? みなさんにも見てもらいたいです」


 これ以上のほめことばがあるでしょうか。魔女はうれしくなって、笑顔でうなづきます。



 それから森のとしょかんに通うようになった魔女は、どうぶつたちともっと仲良くなり、もうかくものに迷うこともなくなったのでした。



《おわり》

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