第3話

 マモンと忍者の戦いは壮絶だった。

 マモンの放つ眩惑の術を聖十字の印を結ぶことで退けたかと思えば、逆に封魔忍術で敏樹の住む部屋は爆破され、爆破されたかと思えばマモンの時間操作によりその直前に戻り、時間遡行の瞬間を見きった幻術が再び炸裂した。

 忍者と敏樹を間違えたマモンの銃弾が敏樹を貫き、契約の違反によりマモンは自爆する形で封じられたのであった。


「迷惑をかけたな。少年よ」

「部屋めちゃくちゃだよ」

「迷惑ついでに一つ良いか」

「金くれるならいいぞ」


 頭巾の下から忍者の鋭い瞳が敏樹を睨む。


「聞く気が無いのならば、お主がマモンに操られて犯した罪の数々を今から通報しても良いのだが」

「ま、待ってくれ! 脅されてたんだよ! だってあいつヤクザと繋がってるからいう事聞かねえと家族がさぁ~!」

「あの悪魔に上手いこと言いくるめられていただけであろう」

「わっかんねえよぉ~! 俺馬鹿だからよぉ~!」

「知っておる。お主には忍者になってもらう」

「はぁ!? なれる訳ねえだろ!」


 忍者はこれみよがしにため息をつく。案外フランクだ。


「お主はマモンがどこに封じられたか分かるか?」

「わかんねえよ! 知ったこっちゃねえもん!」

「お主の中だ。マモンは死の寸前、あえて契約違反をすることで、ペナルティとして自らをお主の中に封じたのだ。このままでは、お主が新たなる悪魔となるが、かといって殺せばマモンに逃げられる」

「し、死にたくねえよぉ~! せっかく楽してがっぽり金儲けたのによぉ~! 俺才能あるって言われたのなんて初めてなんだよぉ~!」


 敏樹は情けない悲鳴をあげた。

 これは本音だ。


「そ、そうか。ともかく封魔の忍者となれば、悪魔に打ち勝つことができるやもしれぬ。封魔の忍びはみな、己の中に潜む悪魔と対話しその力を使いこなすものだからな……」

「か、かっけぇ~! なる! なるなる! 給料いくら!? 正社員待遇か!?」

「いや、厳密にはフリーランスだが……まあ良い。お主は封魔忍軍で雇ってやろう。まずは見習いからだぞ」

「よっしゃあ~!」

「お主、案外ノリが良いな」

「だって、頑張ったらマモンのねーちゃんと仲良くなってちゃんと話聞いてやれるかもしれねえしさ」

「正気か?」

「俺を助けてくれたのは、マモンさんだしさ。ケンタにも優しかったし、嘘もついてないんだろ? そんな悪い人じゃねえと思うんだよなあ~」

「人っていうか、悪魔だが……?」


 この時、敏樹はまだ知らなかった。

 悪魔と封魔一族のいにしえより続く相克の歴史を。

 彼が巻き込まれる戦いの運命を。

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でも、明日を信じて 海野しぃる @hibiki

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