奈津美と葉月

 昼休み。渡り廊下で昼食を食べていた司は、突然頭を掻き始めた。

「あぁ、もう。ほんっとにムカツク!」

 それをみて笑いをこらえる奈津美。

「司、まだ気にしてんの?」

「そりゃそうよ。あたしが除霊とか言わなかったら、お姉さんはまだいてくれたんだよ?」

 そう言って赤茶色の髪の毛をぼさぼさにする司を、奈津美はまるで回し車を走り続けるハムスターを見るように眺めた。

 奈津美はすっくと立ち上がると、折れ曲がったスカートを正した。そして柵にもたれかかると、遠くの山々を見つめた。

「お姉ちゃん、怖い顔してた。もちろん、私を守るために必死だったからかもしれない。でもあの顔は私に向けてたんじゃないかな、って今は思うの」

「ナツに? なんで?」

「その——もっとしっかりしなさい、って」

 司はしばらくぽかんと口を開けていたが、しばらくして、がははは、と笑い出した。

「ウケる、それ。ちなみに私もそう思いまーす」

 とおどけて手を挙げる司の頭を、奈津美は肘でつついた。

「だからね、私お姉ちゃんが心配しなくてもいいようにしっかりしなきゃって思うようになった。お姉ちゃんの分までしっかり生きようって。そうすれば安心して天国で過ごせると思うの」

 司が奈津美の横に並ぶと、その細い目尻で奈津美の真剣な眼差しを見つめた。それから遠くの空を一緒に眺めた。その広大な青の中に、二人にしか見えない光を見つめるように。

「ナツの姉さん、いつも近くで見守ってくれてたんだね、でももういなくなっちゃった」

 山の麓で小さい新幹線が通り過ぎるのが見えた。

「いなくなってなんかないよ」

 優しい風が二人を包んだ。奈津美の前髪がふわりと風で揺れた。

「——私の中にずっと、お姉ちゃんは私のそばにいつもいる」

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私のそばにいつもいる 木沢 真流 @k1sh

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