エピローグ~澄人の目覚め~

エピローグになります。

澄人が眠りから目覚めます。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


──ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ


 電子音に起こされて目を開ける。


 カーテン越しに朝日が差し込んできて、鳥のさえずりが外から聞こえてきた。


 七月の突き刺すような日差しを頬に受ける。


(暑……あれ? このタオルケット……)


 机に突っ伏した状態で寝た俺は、体にタオルケットがかけられていることに気付いた。


 誰がかけてくれたのかは分からないが、俺のことを気にかけてくれる人がいるようだ。


 体をゆっくりと伸ばして立ち上がり、大きくあくびをする。


(今日は……確か、奨学生試験を受けるんだったか? でも、七月に高校入試?)


 昨晩は疲れていてあまり頭が回らなかったが、今は不思議と冴えている。


「……おはよう」


 リビングへ行くと、すでに身支度を整えている香お姉ちゃんが朝ごはんを作っていた。


 俺が声を掛けると、驚いた顔を浮かべている。


「起こす前にこっちへ来るなんて珍しいわね。座って待っていて、今作るから」


「ありがとう」


 お礼を言うと一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔になって朝食を作り始める。


 俺はソファーに座ってテレビを眺めることにした。


(なぜお姉ちゃんが? ご飯を普通に作っているなんて……)


 テレビではニュースキャスターが原稿を読み上げており、どこかの事件を紹介していた。


 それを見る振りをしつつ、雷を走らせて家の中にいる人を把握する。


(お姉ちゃん以外に……気配は三つか。聖奈と……大きさ的に夏さんかな? それに……ふむ……)


 特定できた聖奈と夏さん以外の気配がこちらへずんずんと近づいてくる。


 足音と一緒に軽く床が振動しており、とてもうるさい。


──バンッ!!!


 リビングのドアが勢い良く開かれ、じいちゃんが笑顔で入ってくる。


 なぜか手に竹刀を持っており、今にも打ち合いを始めそうな格好だ。


「澄人はもう起きておったかのか? 一緒に稽古でもするか?」


「えっ……いや……今日入試みたいだから止めておくよ」


「入試? 今日は学校見学じゃろう? 誰がそんなことを?」


「聖奈だと思います。あの子、見学会を道場破りかなにかと勘違いしているみたいです」


 食事を作り終えたお姉ちゃんが食器を並べながら呆れている。


 じいちゃんも食卓へ座り、額に手を当てて困ったように笑っていた。


「あいつはそそっかしいのぉ。澄人も気を付けるんじゃぞ」


 目の前に並べられていく料理を見ながら、俺の知っている現実との違いに戸惑う。


(なぜじいちゃんが家にいるんだ? はざまの世界に……あれ? 境界が全くない)


 じいちゃんが家にいるだけではなく、俺が常に感じ取っていた境界への直感が反応しない。


 これは一体どういうことだろうか。


 ニュースからもほとんどハンターに関する内容が流れずにいる。


「澄人、どうかしたの? お味噌汁美味しくなかった?」


「えっ……ううん……美味しいよ。まだ寝ぼけていたみたい」


 考え事をしていて手が止まってしまったようで、お姉ちゃんが心配そうに顔を覗き込んできた。


 俺は急いで取り繕うと、箸を取って食事を進める。


(やっぱり……おかしい……)


 黙々と食べ進め、最後に白米を食べ終えてからごちそうさまをした。


 食器を片付けていると、身支度を終えて中学の制服を着た聖奈がリビングへやってきた。


 そして、俺の顔を見て目を見開き、口元を引きつらせる。


「もうお兄ちゃんが起きているの!?  なんで!?」


 信じられないものを見たという表情の聖奈が大声を上げると、じいちゃんも驚いた様子を見せる。


「そうなんじゃ、澄人が早起きするのは珍しいの」


 二人の視線が痛くて思わず目をそらすと、聖奈が詰め寄ってきた。


「お兄ちゃん熱ないよね? 大丈夫?」


 額に手を当て、聖奈が心配そうに上目で聞いてきた。


 俺はその手を優しく払いのける。


「俺は至って健康だよ。それよりも、どうして今日は五時なんだ?」


「え? えーっと……それは……」


 聖奈も知らないのか、視線を泳がせて挙動不審になる。


「忘れてしまったのか? 高校見学へ行く前に、御神木へ挨拶に行くんじゃ」


 お茶を飲んでいたじいちゃんが代わりに答えてくれた。


 俺は聖奈の方を向いて笑顔を作ると、彼女は苦笑いを浮かべる。


「そういえば、そんな話があったような気がするなぁ……ご飯ご飯~」


 聖奈が逃げるようにしてリビングへ向かうと、お姉ちゃんがクスリと笑って食器を並べた。


「さあ聖奈、早く食べなさい」


「ありがとうございます! いただきます!」


 元気よく返事をして、嬉しそうに朝食を食べる妹の姿を横目に俺は席を立つ。


「それじゃ、行くときになったら教えてね」


 そう言い残して部屋に戻り、聖奈と同じように中学の制服に着替えた。


 十分ほどしてから声がかかり、玄関へ行くと聖奈とじいちゃんだけが靴を履いて待っていた。


「お待たせ」


 靴を履いて外へ出ると、夏の日差しが容赦なく照りつけてくる。


 聖奈が暑苦しそうにため息を吐き、恨めし気に空を睨みつけた。


「暑いよ~……おじいちゃん、ご神木への挨拶って本当に今日行かないとダメなの?」


 じいちゃんは顎髭を撫でながら困ったように笑う。


「お前たち二人は本家の直系じゃからの……毎年この時期に行っているじゃろう?」


「お兄ちゃん、連れて行ってよー」


 聖奈は面倒くさそうにしながらも俺の腕を掴んでくる。


 この子なりに甘えたい気持ちがあるようだ。


 そのまま三人で並んで歩き、俺の知っている草根高校へ近づく。


「これが御神木……」


 草根高校の裏には小高い山しかなかったはずだが、その頂上に巨大な樹木がそびえ立っていた。


 太い幹から伸びる枝は青々と茂っており、天まで届きそうだ。


 葉の間からは木漏れ日が降り注ぎ、神聖な雰囲気を感じる。


 草根高校の中を通り、御神木へ向かう山道へ入りながら改めて御神木を見上げた。


「澄人、どうしたんじゃ?」


「なんでもないよ。ただ、すごい大木だなって思っただけ」


「ほとんど毎日見ているのに? ただの大きな木でしょ?」


──ゴンッ!


 つまらなそうに樹へ悪態をついた聖奈の頭へじいちゃんの拳骨が落ちる。


 涙目の聖奈が頭をおさえて申し訳なさそうにじいちゃんを見上げた。


「ごめんなさい……」


「わかればいいんじゃ。聖奈、どうしてワシら本家の人間が御神木を大切にしなければいけないのか覚えているか?」


 じいちゃんに怒られて、聖奈は素直に謝罪している。


 自分でも拳骨を受けた理由をわかっているらしく、うーんと悩みながら口を開く。


「昔、ご先祖様を救ってくれた人が、一族の繁栄をさせたいならこの樹を植えるようにって言ってくれたんだよね?」


「その通りじゃ。だから、この御神木を守ることが、二人の健康祈願に繋がるんじゃ」


(どこかで聞いたような話だな……)


 俺は二人の話を聞きながら、聖さんへ世界樹の苗木を植えるときに言い残した言葉を思い出す。


 そうしているうちに御神木の根元へ到着すると、じいちゃんが立ち止まった。


「よし、二人とも樹へ挨拶をしてきなさい」


「わかった」


「はーい」


 俺はじいちゃんの指示に従い、目の前にある巨木を眺めてみる。


(この樹……いやいや……まさかな……えっ!?)


 俺は半信半疑で樹に対して【鑑定】を行い、出てきた結果に目を見開いた。


【鑑定結果】

 世界樹


「お兄ちゃん、どうかしたの?」


 俺が固まって動かなかったからだろう、聖奈が心配そうな顔をしながら話しかけてきた。


「この樹を見入っていただけだよ。近くで見たら大きいなって」


 何とか驚きを誤魔化し、樹を見ながら聖奈の反応を待つ。


「ふーん、私から挨拶するからね」


「ああ、いいよ」


 聖奈は軽い調子で数歩前に出てから、両手を合わせて拝むようにする。


「御神木さま、【皇】聖奈がご挨拶を申し上げます」


「……えっ!?」


 聖奈が口にした名前を聞いて漏れそうになる声を必死に堪えた。


(聖奈の性が皇!? なんで!? えっ!?)


 俺のことを兄と呼んでくれいた聖奈が、皇だとすると俺も皇澄人なのだろうか。


 なぜこんなことになっているのかわからず、とにかくまずいことになったと冷や汗を流した。


「…………?」


 突然声を漏らした俺を見て聖奈が首を傾げているが、何も言わずに樹に向き直して目を閉じた。


 俺はそれを見なかったことにして、ステータス画面で自分の名前を確認する。


(草凪澄人だ……能力もそのまま残ってる……じゃあ、これは……)


 俺の名前や能力は、今もそのまま残っている。


 それなのに自分の周りにある状況だけが著しく変化していた。


「澄人、次はお前の番じゃ」


 俺が考え込んでいると、後ろにいたじいちゃんが声を掛けてくれる。


 聖奈が俺を見ながら不思議そうな顔をして御神木から離れ、俺の横に並ぶ。


「あ……うん」


 俺はじいちゃんの言葉に従って、ゆっくりと御神木へ近づいた。


 聖奈と同じように手を合わせ、口上を真似する。


「御神木さま、草凪澄人がご挨拶を申し上げます」


 俺が口上を述べると、目の前の御神木がわずかに光った気がした。


 そして、俺の視界へ金色の画面が表示された。


【シークレットミッション達成】

 草凪家のご神木へ挨拶をするシークレットミッションを達成しました

 達成報酬としてメッセージを表示します


【草凪澄人へメッセージ】

 澄人のおかげで寿命を迎えるまでこの世界で過ごすことができた。

 本当にありがとう。

 多少、人物関係が変わっていると思うが、すべてお前が瘴気を浄化してくれたおかげだ。

 俺はいつまでも神域からお前のことを見守っている。

 その能力で存分に世界を堪能してくれ。

 新しい世界でもミッションはたくさん考えてある。

 また、会えることを楽しみにしているぞ。

 草凪澄


「お兄ちゃん? 終わったの?」


「あぁ、もう大丈夫。行こうか」


 聖奈の声掛けによって、俺は現実に引き戻された。


 草凪澄からのメッセージを視界から消し、聖奈と一緒にじいちゃんの後を追って御神木から離れる。


 数歩進んでから草凪澄が植えた世界樹に振り返り、目を細めて微笑んだ。


「こちらこそ、本当にありがとう」


 俺はこれから始まる新しい生活に胸を躍らせて歩き出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 読者の皆様、ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。

 最後まで書き切ることができました。

 これもひとえに皆様の応援のお陰と感謝しております。

 草凪澄人の物語はここで一旦終わりになります。

 2週間前辺りから、ランキングやフォロー数が急激に増加したため、続きを考えようかとも思いましたが、蛇足になると思い、ここで完結することにしました。

 この作品を楽しんでいただけたのなら幸いでございます。

 今後も頑張っていきますので、何卒よろしくお願いします。

 ぜひ、【★評価・いいね・フォロー】をよろしくお願い致します。

 重ねて、本当にありがとうございました。

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∞【無限】ミッション!~俺だけに与えられたシークレットミッションを達成して手に入れたSSS級の能力や神器で世界を見返す史上最強のハンターへ~ 陽和 @akikazu1012

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