第6話

 アリアさんが師匠となり、Sランクに上り詰めるための修行を始めて早1か月が経過した。


 その間俺がやったことは、まずEランククエストの受注だった。農作業や土木作業は、非常に良いトレーニングになるそうだ。さらに普段の生活では使わないような筋肉も使うため、強くなるには持ってこいらしい。


 にしても異世界に来て最初にやる仕事が力仕事とは思わなんだ。創作の連中は異世界ついた瞬間からその世界でもかなり危険なモンスターとか倒してんのに・・・。仕事終わりの水がうまいことに驚愕しつつ、その後はアリアさんとの修行に入る。


 8時間働いたのち3時間修行という正直過密なスケジュールだとは思うが、なんだか強くなっている実感があり、それだけでも継続意欲を保持するには事足りた。


「どうだ蓮?取り敢えず1ヶ月やってみた結果は」


「最初は全くもてなかったレンガとかを軽く持てるようになってきましたし、成果は出てきてるとは思います。まぁこの1ヶ月ずっと筋トレとか走り込みとかしてましたからね。正直成果がなかったら泣きますよ」


 そう、この1ヶ月はとにかく俺の体を作ることに専念された。アリアさん曰く、「そんなヒョロヒョロじゃ戦い方教えたところで体がついていかないよ」だそうだ。まぁ確かに学校の持久走程度で毎回吐くやつが戦えるかって話だ。


 力仕事や筋トレなどの甲斐あってか、今では走っても吐くことはなくなり、それどころか1500Mを4分ちょっとで走れるくらいになった。目覚ましすぎる成果と言えるだろう。それともう一つ進展があった。


「確かに1ヶ月前と比べると見違えるようだよ。別人のようだ・・・というかお前は誰だ?」


「アリアさんに忘れられた俺なんて生きてる価値はない!さようならアリアさん、さようなら世界!」


「ふふっ、なんだそれは!安心しろ冗談だ。私がお前を忘れるわけがない」


 なんて軽口を叩き合えるような仲にもなった。1ヶ月も一緒にいるのだから当然かも知れないが、最初にあった時は殺しそうな目を向けられたものだが、今ではそんなことは全くない。


 アリアさんのことは弟子としても人としても尊敬してるし、感謝している。アリアさんも俺のことは凄い尊重してくれているのが分かる。本当にこの人に会えてよかった。


「よし、では来週からはクエストを終了して他の修行に当てようと思う。具体的には剣や魔法の修行だな」


「剣・・・ですか?使ってみたいとは思ってましたけどなんで」


 ーー魔法剣士。そういう物語が好きなら1回は憧れるであろう職業。実際俺はゲームだとこればかりは使っていた。接近戦では剣を振るい、遠くの敵には魔法を放つ!時にはそれを掛け合わせたり!・・・まぁとにかくロマンがある。


 だがこの世界は魔法が主体であり、剣は魔力が低いものか、モンスターをそのまま持ち帰りたい時にしか使われない。それなのに何故?


「理由は簡単だ。お前がもし味方と協力できない状況になった時、1人でも戦えるようにだ。そんな状況がこないに超したことはないがいざと言う時、他に選択肢があるというのは大きな精神的支えとなる」


「なる程。よし、そっちも極めてやる!」


「と言っても修行のメインは魔法だがな。私自身剣はあまり使わないからそこまで教えられそうもない」


「まぁその辺はなんとか頑張ってみますよ」


 こうして修行を続けた俺は、明日ステータスを更新しに行ってみることとなったのだが、そこで軽い事件が発生してしまった。

 -------------------

 ステータス更新のためギルドへ向かっていた俺達だったが、その道中、何やら人だかりが出来ていたので見ていると、店の主人にいかにも小悪党そうな見た目の3人組が絡んでいた。


「アリアさん、あれって・・・?」


「あぁ、この国にいる貴族の息子とその取り巻き1・2だ。因みに1・2はDランク、息子の方はCランクの冒険者だ」


「うわ、俺あいつらより下かよ。改めて考えると辛いな」


「安心しろ。少なくともあの2人よりはすでに強い。私が保証する」


「Sランクに保証されると自信出ますね!・・・そういえば貴族なのに冒険者なんてしなくちゃいけないんですか?危ないんじゃ」


「基本的に長男、家によっては次男までは冒険者にはならない。家を継がねばならんからな。だが奴は3男、後継権がない兄弟は冒険者などとにかく何か仕事をしなければいけないらしい」


 貴族も大変だなぁ。生まれた順が違うというだけでその後の人生が変えられるとかやってられないだろ。


「それにしても何やってんでしょ?」


「仕方ない、このまま見てるわけにもいかんしな、よし蓮。行ってこい」


 アリアさんなら簡単に止めるだろう。いってらっしゃ・・・?今なんて?


「あの、もしかして俺に行けって言いました?」


「あぁ。お前人を助けたいんだろ?この程度なんとか出来んならそんな願望は捨てなさい」


 キツイ・・・けどまぁそうだよな。人の命救いたいってやつがこんなんで臆してどうする!一丁やってらる!・・・噛んだ。大丈夫か?


「あの・・・どうしたんですか?なんか揉めてるみたいですけど」


 最初は下から作戦。舐められるかも知れないがこれが一番相手を逆撫でしないで済む。


「ん?誰だ君は?今オレはこいつと喋っているんだ。消えてくれないか」


 あ"?何が消えろだ!異世界の貴族ってこんなんばっかか!なんでこんなとこだけ創作のまんまなんだ。


「あのさ、貴族かなんか知らないがいきなりその態度はどうかと思うぞ!ちょっと見てたがお前らのそれは話になってない、一方的にガトリングガンぶっ放してるだけだ。キャッチボールしろ!」


「おいお前!さっきから失礼だぞ!この方をどなたと心得る?こちらは--」


「黄門か?」


「違うわ!誰だ黄門って!この方はあの"ネディナ"の3男!ディアス様だぞ!ひれ伏せ!」


 誰だ?俺が知らないだけで相当の名家なのだろうか?


「・・・アリアさん、ひれ伏した方がいい?」


「わかり切ったこといちいち聞くな。無用だ」


 この問答に腹が立ったのか、取り巻きの喋ってなかった方、俺の中では助さんと呼ぼう。助さんが胸ぐらを掴んできた。以前の俺であれば恐らく怯んでいたんだろう。しかし今ではとても脅威に感じない。ほんとにこれがDランクかと疑いたくなるほどだ。


 胸ぐらにある手をしっかり掴み、その腕に体重をかけ俺は体を持ち上げた。そして--その勢いを乗せた足で顎を蹴り付け、気絶させた。


 Dランクの男を倒した。しかも一撃で。これは大幅に強くなったという証である。


「ほんと、アリスさん様々だな」


 --取り巻きを倒したことで、それを見ていた群衆は大盛り上がり、アリアさんはそれを受け「どうだ!あれ私の弟子だぞ!!」と自慢していた。恥ずかしいからやめてくれ!そう思っているとーー


「ーー黙れ!!」


 歓声にか、それとも助さんがやられたことにかは分からないが、ディアスは怒りに震え、大声を張り上げた。


「・・・君何者だ?冒険者か」


「ああ。今からギルドに行くとこなんだ、だから早く散ってくれよ」


「ランクはなんだ?よもやあの実力でDではないだろう?」


「えっ?ランク?えっとー、その、あれだよ!いー感じのランクだよ。」


「オレを愚弄しているのか?」


 言わなきゃだめっすかね?結構恥ずかしいんですけど。まぁでもちゃんと言わないと話進まんだろうな。


「・・・Eランクです。はい」


 それを言った瞬間、周りの空気が凍りつくのを感じた。Eランクってそんなレベルなのかよ。このEは何か?エンドのEなのか?


「E・・・ランク・・・?ははっ、はははははは!」


 大爆笑してる。ギャグ言ったつもりないんだが。


「--ここまで愚弄されたのは初めてだよ。Eランクがオレに歯向かうなんてね」


 そう言ったのち、ディアスは何やら花を俺に投げつけてきた。何か分からず取り敢えず拾うとーー


「拾ったな。つまりこれで決闘は同意されたと言うことだ!」


「決闘?なんで?普通に嫌だけど」


 そう言うと、アリアさんがため息を吐き頭を抱えていた。


「その花は決闘を申し込むときの儀式だ。そして花を受け取ったものはその決闘を受けたと見做され、戦うことを義務付けられる。つまりその決闘を断ることは出来ん。・・・教えなかった私の責任だな」


 ・・・まじか!渡されたもん拾っただけで強制決闘とかどんなルールだよ。


「決闘は一週間後の今日。そこでオレをコケにしたことを後悔させてあげるよ・・・!ではまた決闘でね・・・Eランク冒険者殿」


 こうして俺は、あのくそ生意気な貴族3男ディアスと決闘をする羽目になってしまったのである。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る