第2話
突然こんな世界へと放り出された俺は、赤髪の女性アリアさんにひとまず泊めてもらえる事になった。彼女の住むアラガスタまでは、ペットだという角生えカラスに乗って向かった。
――で、このカラスの乗り心地が悪い悪い。掴むところをないのにめちゃくちゃなスピードで飛んだり、途中意味もなく旋回をしたせいで俺は落下し、リアルに死にかけた。絶叫しすぎたせいで喉が痛い。このカラスも殴りたかったが、1番腹が立ったのが、アリアさんが大爆笑していたことだ。
俺死にかけたんですけど、お宅のペットのせいで……ここが夢なら死ぬ直前に目が覚めそうなものだが、異世界なら話は変わる。あーあ死んじゃったで済まないのだ。俺はもう死にたくない!
殴りたいという気持ちが以心伝心したのか、カラスは再び旋回しやがった――そして落ちた。
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必死の思いで、ようやくアラガスタに到着した。取り敢えずゆっくり休みた――
「おい蓮!腹は減っているか?奢ってやる!」
「いや、大丈夫ですよ。あのバカカラスのせいで食欲ないんで」
――ゴツン!と頭に鈍い音が響いた。
「いっつぁあー!ぶったね!親父にしかぶたれたことないのに!」
まぁ実際は親父なんて会ったことないから殴られたとか分からんのだけどね。
「知るか!可愛いコルボをバカ呼ばわりとは許さんぞ!あとカラスってなんだ?蔑称か?!」
あー、この世界じゃカラスって言わねえのか。なんで説明しよう?
「あのーあれっすよ!真っ黒の体に光物と生ゴミが大好きな汚い生ぶ――こゔぁら!」
また殴られた。……俺が悪い……んだろうな。
「やはり蔑称なのではないか。コルボはちゃん躾けてあるからな。生ゴミになんて近寄らん!」
「……さいですか。……で、因みに家まではどれくらいかかるんですか?」
「お前、初めてきた国なのにドライ過ぎるだろ。普通もっと色々見て回りたい!とか言うものだと思うんだが?」
それはよく言われる。昔から出かけることがあまり好きじゃなかった俺は、家族で出かけるたびに「ねぇいつ帰るの?もう疲れた!」と言っていたらしい。流石にこの年になると気を使って"行かない"という選択肢を取れるようになった。
とにかく俺は出かけることに興味がない。ただでさえ疲れてるのにこれ以上疲れられるか。
「いいですよ別に。来たいと思ったらその時いくんで。それより何分くらいですか?」
「……変な奴だな。まぁお前がいいならいいけどさ。私の家はここから大体30分くらいだ、すぐ着く」
歩きの30分ってすぐなのだろうか?という質問は飲み込んだ。なんかまた殴られる気がしたからだ。それにしても――
「ほんと中世ヨーロッパ感あるなぁ」
「ちゅうせいよーろっぱ?なんだそれ?」
あら、声に出てた。気をつけねぇと。
「造語ですのでお気になさらず。そうだ、この移動中に色々聞いても良いですか?」
「ん?ああ構わんぞ。答えられる範囲なら答えてやる」
今わかっている情報は、まず彼女の名前はアリアさん、ペットの名前は……ガルボだっけ?今いるこの国はアラガスタで、この世界には魔素の塊らしいモンスターがいて、魔法が存在する。で俺は脳無し。これくらいか?仮にここが本当に異世界だと仮定して、生き残るのに必要な情報は?
「ではまず、この世界の人ってみんな魔法が使えるんですか?」
正直1番重要な情報とは思えないが、すごく気になる。死ぬ前異世界ものにハマっていたこともあり、魔法が使えるのなら使ってみたいとずっと思っていた。
「使えるポテンシャルは持っている。だが魔法は基本戦闘の為にしか使われないからな、一般市民は基本使わない」
「戦闘ってさっきのモンスターとか?」
「そうだ。そしてモンスターを討伐するのには認可が必要でな。認可が降りずにモンスターと戦うことは基本的に処罰の対象となる」
「認可ですか?じゃあその認可ってどこがやってんですか?」
「ギルドだよ。ギルドに登録してステータスを作り、その値に応じた仕事が振り分けられる。私が今やってる見回りもその一つさ」
おお!ギルド……ステータス!なんだあるんじゃん!流石異世界!略してさすいか!
「そのステータスってどうやって出すんですか?口でいうだけじゃステータスウィンドウとか出なかったんですけど?」
「出す?ウィンド?なんだそれ?風魔法か?」
なる程……この世界はデジタルではなくアナログタイプか。まぁそっちの方がリアルちゃあリアルだけど。
魔法は使えるのかという疑問から派生して結構重要な内容も聞けた。ギルド……話を聞いたり、前世からの知識と照らし合わせる限り、ギルドというのは向こうだとハローワークみたいなもんかな?ようは仕事の斡旋。
「なる程、じゃあ取り敢えず生きていくにはこのギルドに入った方が良いってことですよね?明日案内してもらえませんか?」
「まぁそれは別に構わんが、もしモンスター関連の仕事……つまり冒険者になりたいんならやめといた方がいい。チェルボ程度に逃げ出す奴が、戦えるとは到底思えない」
確かにあいつらに追いかけられた時心臓止まるかと思うほど怖かったけど……
「でも俺、その冒険者?以外やれることないと思うんですよ。商業とか農業とかも全くやったこと無いし……」
「はぁ……わかったよ。案内くらいはしてやるさ。まぁ昔から脳無しは魔力が高いって言われてるからな、そこに賭けろ」
「おお!ありがとうございます!」
よし!これで取り敢えず仕事は確保出来そうだ。
そうこう話しているうちに、アリアさんの家に到着した。
木造の平家で、中に入ると意外と広々としていた。
「疲れたんだろ?聞きたいことも沢山あるだろうが今日は寝ろ。明日ギルドに行ったあと慰めながら答えてやるよ!」
「慰めって……そんな酷い値になりそうっすか?」
「あぁ。モンスター絡みのお前からは悲鳴しか聞いたことがないからな。最初からすごいやつはモンスターに追われても逃げはしない、少なくとも悲鳴は上げん」
ぐっ……!何もいえねぇ。今度は正論でぶたれた。
「あの、俺どこで寝れば良いですか?床?」
「んなこという訳ないだろう。その扉の向こうにベッドがある。それを使え」
ベッドはありがたい。ゆっくり寝れそうだ。それにしてもアリアさん、俺とは完全に他人なのによくしてくれてんな。普通こんな奴泊めたりしない。
「……あの、アリアさん」
「なんだー、早く寝――」
「ありがとうございます。色々と。見つけてくれたのがアリアさんで良かった!じゃあ、おやすみなさい」
俺は彼女に一礼をし、寝室に入った。
「なによ急に……?正面切ってそんなこと言われたら、恥ずいじゃない……!」
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今日は激動の1日だった。車に轢かれ死んだと思ったらこんな異世界にやって来て、右も左も分からないうちにモンスターに襲われ助けてくれた女性の家で寝ている。
――よく考えたら俺今女性の家でしかも使ってるであろうベッドで寝てんだよな?やばい、急に緊張して来た。さくらんぼ少年にこの状況は宜しくない。意識し出したら全然眠れなくなった。
よし!こんな時は羊を数えると相場が決まっている。
羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹――こうして羊を数えること1万6百匹目。朝だ……。
結局俺は一睡もすることが出来ずに朝を迎えることとなった。
「これは不味い……早く独立出来る様にならねば!」
俺は新たな決意を胸に異世界ライフを送るのであった。
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