第11話
ランクが上がった俺は、因縁の相手チェルボ討伐のクエストを受けている。修行も兼ねているということもあり、討伐方法に条件が出された。それは、3体のうち1体は剣で倒すというものだ。
走ってくるチェルボに対し、俺はストックがあった重力魔法を遠距離から放ち確実に数を減らす作戦をとった。
「えーっと、確か右手を対象にかざして・・・
重力魔法が放たれ、直線上にいた1体が倒れた。霧散してないから倒し切れてはいないな・・・やっぱ慣れない技は威力に問題がある。
他2体は1体やられている隙に、急激に距離を詰めてきた。しかも連携しているのか、バラバラに。厄介だな、早く対応しないと挟まれる。
俺は2体のうち、僅かだが距離が近かった方を優先することにした。危なくなったら残り唯一の雷を使えばいい。
剣を抜き、全速力で相手に近づく。向かってくるとは思わなかったのか、一瞬怯んだ。その隙を突き、俺は相手の腹下に潜り込み、剣技を放つ--「
4つの足を体を旋回させながら切りつける技。こういう腹下が死角のやつように開発した。
「よし、成功!」
本物相手に使った事はなかったので不安だったが、なんとか上手く行ってくれた。
足を切られ、バランスを失ったチェルボは地に伏した。そして剣を突き刺し、その命を絶った。
普段であればここで何かしらの感情に浸っていただろうが、今は戦闘中。後回しにしたもう一体の方に意識を向ける。そいつは俺が剣を刺し、動き出しにくい状態の時に飛びかかってきた。やっぱりこいつら状況を判断する知能があるのか。
今のままだと避けられないと判断した俺は、魔法を発動し、雷を纏った。アリアさん曰く、雷属性はその身に纏う事で急激な速さで動くことが出来るらしい。俺は相手の背後に回り込み、剣にも雷を纏わせ切りつけた--
「
切りつけられたチェルボは胴を割り、そして、どこか恨めしそうな目を向け・・・霧散して行った。危なかった。この使い方習ってて助かった。
・・・よし、あと一体。向こうで倒れてるやつを倒せばクエスト終了だ。俺はそのチェルボの方へ向かった。1か月前、俺はこいつらに殺させそうになった。あの時は何もできずに逃げるだけだったが、今はこうして倒すことが出来るようになった。本当に強くなったのだと改めて実感できる。
俺は少し感情に浸りながら剣を構え、そして突き刺した。チェルボはしばらく体を震わせていたが、やがて大人しくなり、絶命した。
・・・正直このリベンジマッチ、もう少し爽快感があると思ってたんだが、あんまり気持ちの良いものでもないな。勝手な話だが、霧散してくれた方が気持ち的には楽だ。
3体とも討伐し終わると、アリアさんが話しかけてきた。
「お疲れ蓮。はじめてのモンスター討伐どうだった?」
「そうですね・・・難易度としてはあまり高くはなかったです。だけど、命を刈るってのは良い気分ではないな・・・と」
俺の気持ちを正直に答えると、アリアさんは少し笑みを浮かべ--
「それで良いよ」
そう言った。それでいい?正直そんなんで冒険者務まるか!って言われるかと思ったんだが。
「私達冒険者は確かにモンスターの討伐がメインの仕事だ。当然何匹もの命を刈るよ。だけど蓮、これだけは忘れないでくれ。命を刈る時に楽しいなんて感情は湧いてはいけない。気分良く殺すなんてしちゃいけないんだよ。・・・だからお前のその感情は正しい」
「アリアさんもずっとその感情を持ちながら戦ってるんですか?」
「私の場合は・・・割り切ってるって感じだな。モンスターは増えすぎると危険だから討伐しなきゃならない。強いモンスターと戦うには戦闘経験を積まなきゃならない、そのために倒す。簡単に言うと、生きるための糧にさせて貰ってると考えるようにしてるよ」
糧・・・か。確かにそう考えると元の世界でも似たようなことやってんだよな。危険だからと殺したり、生きるためにと殺すことなんてザラだ。家畜なんかがその代表例だろう。俺もそんな風に考えるべきなのかもしれない。
「蓮が私のように割り切れるかは分からないけど、ゆっくりで良いよ。急ぐ必要なんてない。蓮が自分なりの結論を出せるまで、私はずっと近くにいてやるから、安心して迷いなさい」
--ほんと、この人にはいろんな意味で追いつける気がしないな。
「はい・・・ありがとうございます・・・!」
「よし!じゃあ帰ろうか!」
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俺たちは行きと同様カラスに乗り、国へと戻った。そしてギルドの近くまで来たところで、急降下を始めた。
「えっ、ギルド寄るんですか?」
「ああ、チェルボの死骸の回収依頼をかけないといけないからな。それに蓮のクエスト達成報告も。どうする?先に帰るか?」
先に帰るとなると、このカラスに俺1人と言うことになる。それは危険だ怖すぎる!そんなもん安全レバーのないジェットコースターに乗るようなものである。
「・・・ギルドの中で待ってます」
「そうか、じゃあ待っててくれ。さして時間は掛からないから」
俺はギルドの中に入り、入り口すぐ近くの座席に腰掛けた。
「はぁ、なんか疲れた。・・・そういえばもう魔法のストックないな、どうしよ」
そんなことを考えながら天井を見ていると、急に知らない顔が出てきて声を掛けられた。
「--やぁ!」
「うおわぁ!・・・いっつぁーあ!」
びっくりしすぎて椅子から転げ落ち、挙句頭を打った。そんなコンボはいらないよ!にしても誰だこの人・・・?
「うはー!すげぇこけっぷり、大丈夫?」
「まぁ、大丈夫ですけど・・・誰ですか?」
「酷いなー!おいらのこと忘れるなんて薄情な奴!薄情!淡白!裏切り者ー!・・・まぁ初対面だけどね!」
・・・・・・何こいつ?怖えよ!怖え!不気味!不審者ー!
「あの、本当いよいよ誰?」
「おいらかい!おいらの名前は"エトラ・ローレンス"!エトラって呼んでくれ!」
突然変なノリで絡んできた金髪の男エトラ。よく見たら結構でかいなこいつ。
「えっと・・・エトラ?結局なんのようだ?何もないなら正直帰って欲しいんだが」
「くっはぁー!冗談きついぜ兄弟!」
「マジだぞ。あと、出会って数分のやつと兄弟になんてなれるかバカ!」
「お前結構口悪いなぁ。まぁいっか!俺頼まれて来ただけだし」
「頼まれた・・・?誰に?そもそもお前みたいなやつに頼む奴なんているのか?」
俺だったら絶対頼まない。むしろ頼まないことを頼むくらいだ。
「・・・その前にまずさ、魔法見せてくんねぇ?」
「は?会ったばっかのやつに誰が--」
「--使わにゃ死ぬぜ・・・!」
そういうと、エトラは突然右手を突き出し攻撃してきた。俺はとっさに剣を抜き、その手を防いだのだが、何故か拳と剣の間数センチ空いたところで、見えない障壁のようなものにぶつかった。
魔法か・・・?そう思い、俺は剣に魔法を纏わせたところ、見せない障壁はなくなった。
「・・・おいエトラ、どういうつもりだ?お前なにもんだよ?」
「へぇー!凄いな、本当に吸われるんだ!」
「おい!質問に答えろ!」
「分かったわかった!兄弟の義理だ!特別に教えてやるよ。おいらはBランク冒険者エトラ・ローレンス。魔法は
空気をロック・・・?無茶苦茶な魔法だな。
「魔法は分かったさ、確かに凄いよ。だがそんなことより、なんで俺を攻撃してきた!理由はあるんだろうな!」
「はは、そんな怒んなよ!・・・教えてやるからついてきな」
エトラは何者なのか?このまま放置出来ないか・・・。カラスに1人で乗る方を選べば良かったと後悔することになるとは・・・
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