第14話

 バルクとの勝負が始まり、俺はひとまず魔法を発動しておくことにした。前回ディアスとの戦いではいきなりぶっ飛ばされたことからな。


 それにしてもこいつの取り巻き2人は珍しそうな魔法だったが、こいつ自身はどんな魔法を使って来るんだ?


「せめてこねぇのか?だったら俺から行かせてもらうかな!」


 そう言った直後、バルクは猛スピードで俺の方に飛んできた。そしてその勢いのまま拳を振り上げた。


「・・・確か魔法を消せるんだったな?」


 完全に魔法が飛んでくると思い油断していた。振り上げられた拳に魔法は付与されておらず、素の拳で顔面を殴り付けられた。しかも殴られたことに意識を持っていかれ、一瞬魔法を解いてしまった。


「--砂魔法・・・掠め取る大砂嵐ブルー・サピア!」


「ぐぁあ!」


 足元に発生した砂風が俺の体を抉っていく。


異類無礙アクセプト!」


 俺は砂風を吸収し、攻撃に転じようと瞬間、バルクは再び距離を急激に詰め、直線上に砂嵐を放った。


「攻撃なんてさせるかよ!砂の一閃デザート・ソッフィロ


 切り替えのタイミングを狙われ、俺は壁に吹き飛ばされる。くそ!なんでこいつこんなタイミングよく打って来るんだ?!


 俺は雷を纏いバルクに急接近する。そしてその勢いのまま攻撃を叩き込んだが、簡単に避けられ腕を掴まれた。


「速さは充分、だが直線的過ぎるな!凝縮した砂嵐コンデンス・ストーム!」


 掴まれた手元で砂嵐を起こされ、腕の肉が抉られる。「ぐぁああ!・・・ア・・・異類無礙アクセプト!」


 砂を消した俺は残った手をバルクの方に向け、魔法を放った。


砂の一閃デザート・ソッフィロ


「うぉ!俺の魔法かよ!」


 バルクは手を離し距離を取って攻撃を避けた。


 あいつに近づいてはダメだ。ここぞって時に叩き込まないと。


「ん?距離を取ろうってか?させねぇよ!」


 再び急激に距離を詰めて来る。まぁそう来るよな。だから罠を仕掛けさせて貰った。


砂漠の槍ランサデザート


 砂を槍の形に変形させ俺に向かって突き刺してきたが、その攻撃は見えない壁に阻まれ俺には届かない。


「なっ?これは・・・!」


 動揺している隙に俺は奴の背後に回り込み、魔法を放った。


「食いやがれ!万雷砂漠トルメンタデザート!!」


 砂と雷を融合させた魔法。これほどの威力なら流石のこいつも・・・なっ!


 完全に直撃した。そう思ったのだが、なんと奴の背中に砂の盾がついており、それで攻撃を防がれてしまった。


「悪いな・・・そこは昔やられたことあんだわ」


 バルクは振り返り槍で俺を叩き飛ばす。更に飛ばされた方向には砂の剣が突き刺さっていた。


 これは不味い・・・!そう思い、俺はとっさに魔法を使い吸収した。だが後ろに気を取られすぎ、相手への意識が外に向いてしまった。


「そっちも大事だが俺も見ろよ!」


「--ぐはぁ!」


 --拳が鳩尾に入る。その後も猛攻は止まらず拳、足、頭までも使い肉弾勝負を仕掛けてきた。


 俺は雷を纏いスピードを上げ、なんとか距離を取った。すると、バルクは少し笑みを浮かべ、上空に大量の砂を撒き始めた。


「何を・・・?」


 すると急に空が陰り、あたりが暗くなった。何事かと思い上空を見ると、その光景に戦慄した。


「おいおい・・・嘘だろ・・・?」


 なんと先程バルクが持っていた槍が、数百というレベルの数上空に浮かんでいた。


「おいおい、お前ほんとにAランクかよ・・・!」


「気ィつけろよ。じゃねぇと・・・死ぬぜ!--砂漠の街には槍が降るランサデルビオッチャ!!」


 その技名と共に数百の槍が次々と降ってきた。逃げる隙間はどこにもない。あいつはどうするんだと思い見てみると、砂で傘のようなものを作り防ぐらしい。


 くそっ!異類無礙アクセプト使うしか無い!だがそれだと俺から反撃が・・・いやまて。まだ手立てが残ってるじゃ無いか2つほど!


 俺は手を上に掲げながら魔法を口にした。


異類無礙アクセプト!!」


「--気付いてるぜ!お前、吸収中は他の魔法使えないんだろ?悪いがその間にボコらせて貰うぜ!」


 バルクが突っ込んで来た。予想通りだ。


 そして槍の雨が俺に突き刺さる--となる筈だったが、直前で全て消滅した。


「ははっ!ほんとになんとかしやがった!拒絶魔法だろ?ルニアの魔法吸ってたもんな?だが無駄だ!」


 --バルクには考えがあった。誰もが考えられるように足止めを食らっている蓮に物理で攻撃する。しかしそれは何かしらの理由で対処して来るだろうとなんとなくは予想していた。思いついたのは拒絶魔法。アリアの拘束を解いていたのを覚えていた。これを使えば魔法を消滅させられる。施錠魔法をかけた扉を開いて出て行ったことからその可能性も考慮していたが、それはすでに使用済みだ。


 つまりあいつは攻撃を防ぐ魔法をもう使えない。ならば単純に実力が上な俺が勝てる。残念、施錠魔法を使うのは早かったな。


「悪いな!これで終わりだ--砂の槍ランサデザード!」


 もう防ぐ術は残っていない。この攻撃は間違いなく直撃する--そう確信したバルク。彼の知り得る情報だけではそれが正しかった。だが・・・その攻撃は見えない壁に阻まれた。


 流石のバルクにも動揺が走る。そのせいで目の前の相手のことを一瞬忘れた。 


「悪い・・・?それはこっちのセリフだよ!」


 奴の意識が俺から外れた瞬間、雷魔法で胸ぐらまで接近する。恐らくこれが最後のチャンスだ。


 今出せる最大出力の雷を手元で回転させる。アリアさん直伝の必殺技「雷神の裁きゼウス・ディオス!!」


 元々の攻撃力に回転を加え更に攻撃力を増した一撃。これでも本物の10分の1も出せてはいないが、ノーガードの相手なら十分のはずだ。


「しまっ--ぐぁはっ!」


 魔法は横腹を直撃し、その体を吹き飛ばした。


 --勝った、Aランクに。くっそ結構ギリギリだったな・・・そりゃそうだけどさ・・・。


「あの施錠魔法さ、実はお前と会う前にも1回吸収してたんだよ。もし知られてたら俺は負けてたと思うよ」


 その言葉は完全に勝ちを確信したことにより発された言葉だ。あれを食らって意識がある筈がない。そう確信できるほどの一撃だった筈なのだ。


「・・・なのに・・・なんで?」


 バルクは少しふらつきながらも立ち上がった来た。しかもその顔には笑みが浮かんでいる。


「いやー、効いたぜ兄弟!今のは効いた。施錠魔法隠してるとは思ってもいなかったよ。いや、エトラの性格を考えれば疑ってかかるべきだったな、迂闊だった」


「おいおい、ふざけんなよ。今の・・・俺の全力だぞ。それ食らってピンピンしてるとか化け物かよ?」


「その化け物をワンパンした女の弟子だろ?こんなんで驚くなよ。だけどいいな!気に入った今の攻撃!」


「既視感のあるセリフ吐くなよな。それ俺の思い出のセリフなんだからやめてくれ。この後は何だ?弟子にでもしたいのか?悪いがお断--」


「安心しろ、弟子にはしねぇよ。・・・んじゃあそろそろ俺の必勝パターンで倒すかな」


 マジか・・・!さっきの槍の雨じゃねぇのかよ。こりゃ無理か・・・?


 バルクは自身の体から砂を発生させ、その砂で会場を覆い尽くし始めた。砂以外全く何も見えない。おまけに砂粒が体に当たり結構痛い。傷に染みる。


 恐らく必勝パターンとは砂嵐で視界を防ぎその間に相手を倒すというもの。今までそれが通用しない相手はいなかった筈。ならばそれを打ち破れば隙が出来る。


 体的になんとかあと一発は魔法が打てそうだ。その一発で決められなければ俺の負け。まぁ決めても勝てるかどうか。だけど・・・諦めるのはやってみてからでも遅くない。


 --全意識を集中させ、俺は砂嵐を吸収した。目の前には今まさに攻撃を仕掛けようとしているバルスの姿。予想通り一瞬隙が生まれた・・・今だ!「雷霆万釣トルメンタ!」


 ディアスを倒した一撃。その一撃が相手の胸に突き刺さり、貫通した。・・・貫通?


「--砂上ノ楼閣さじょうのろうかく


 目の前のバルクが崩れ始め、砂の塊になった。声のする方に目を向けると、そこにはバルクの姿があった。


「悪ィな、終わりだ--砂の雨いさごのあめ


 目の前の砂が針状へと変化し、俺の元へと走ってきた。・・・そうか、俺が看破することを看破してやがった。--勝てねぇわこりゃ


 全ての攻撃を受けた俺は血を流し意識が途切れていく。アリアさんの声が聞こえた気がするが、すぐにその音は潰えた。

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 2時間ほど経ったという頃、ようやく俺は目を覚ました。


「--っ!全身が痛い」


「当たり前だ、なぜ途中で諦めなかった?逃げることも大事なことだ」


 ずっと看病してくれていたのであろうアリアさんがそういった。確かに諦めるべきだったとは思うよ、今の俺ならそうしてる。


「なんか戦ってる時って何故か最後までやってやろうって気になっちゃうんですよね。あぁ、これが冒険者としてのプライドって奴なんですかね?」


「はぁ、まぁ説教は帰ってからだ。とにかく、お疲れ様。ゆっくり休みなさい」


「はい、そうさせてもらいま--」


「よぉ兄弟!目ぇ覚めたか!」


「バルク・・・負けたよ。完敗だ」


「アリアさーん、俺勝ちましたよ!」


「もう一度ボコボコにされたいのか?そうならそう言え今すぐしてやる」


「ははっ!おっかねー!・・・あ、そうだ。俺お前に勝ったわけだし、命令1個していいか?」


「ん?そういえばディアスの時もそんなのあったな。いいよ、負けたわけだし」


「それじゃあさ・・・お前、俺の仲間になれ!」


「・・・・・・ふぁ?」


 唐突な発言に、間抜けな声が出てしまった。


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