13。恋愛 時代もの 400字 源氏物語宇治十帖より、浮舟
遠ざかりゆく後ろ姿に、あの男の影が重なって見えた。
薫の遠ざかる姿を見続けるのに耐えられず、私はすぐに背を向けた。胸から湧き出て溢れそうな切なさが目頭を熱くする。法衣の黒い袖を目元に当てようとして、ぐっと堪えた。心を移して、彼を傷つけたのは私。袖を濡らすだなんて許されない。
カツンカツンと一歩ずつ歩めば、ゆっくりと寺の門から離れてゆく。尼となって忘れたはずのことが憎く思えて、まだまだ私は半人前だと、自嘲するように石畳を蹴った。
一途に愛してくれる薫は、いつどんな時も誰より優しかった。私があの男に靡いてしまった時も、彼は私を待ってくれた。誰よりも優しいから、彼のいない日々が寂しかった。夢にも現れてくれなかった。私に隙を作った彼が悪いのよ。
いくら責めても、いくら謝っても、浮舟という女はもういない。薫もずっと遠くへ行ってしまった。重い下駄をもち上げて、振り返らずに、寺の敷居を跨いだ。
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