12。スポーツ、学園もの400字

 マウンド上のヒロインは、キャッチャーミットを睨みつけた。ビリビリと肌が焦げるようだ。

私はごくりと唾を飲んだ。あと一球。あと一球で、今までどのマネージャーも書けなかった完全勝利の文字を、この試合記録に残せる。

「鋭くいけー!」

「ユウカならいけるー!」

「よく見ろ山本ー!」

 敵も味方もぐちゃぐちゃだ。怒号のような応援の渦の真ん中に、たたずむ彼女。思いっきり伸び上がって、勢いよく腕を回した。ぐるんッ!

「いける!」

 誰もが一球から目が離せなかった。ラストバッターはバットを振り、最後の一球は乾いた音を立てた。

 ……ミットの中だ。

「やった、やったよユウカ!」

「よくやった!」

「みんな本当に頑張った!」

 チームメイトたちが、ベンチのコーチたちが飛び出してヒロインを囲み、ワッと湧き上がる。

 そんな中私はその場で、ただ呆然としていた。完全勝利。震える手でなんとか書き込んだその一言が、まだ、夢のようだった。

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