黒髪のミコト ~寿命を克服しようとして、転生することを選んだ賢者の冒険談~
小碓命
第1話 プロローグ
輪廻転生。
本当に存在するのか誰も知らないが、この世に生を受けてもなお、生前の記憶を持つ者も実在する。
ミコトは3歳になり、突然自我が目覚めた。
普通なら前世の記憶を失っているか、残っていたとしても3歳までに徐々に失われていくようになっている。
それとは真逆の減少が起きて、ミコトは理解した。
自分が転生前に賢者であった事実と失いたくなかったその膨大な知識のために自己の魂に魔術を施したことを思い出したのだ。
人の生活から離れ、隠れ住んでいた賢者ミコトは、寿命に対抗する手段としてそこに気がついた。
知識や技術と別に人生を終える前までに学んできたことがある。
それを、転生人根幹として魂に添えておく。
ミコトは、思い出した知識と別に次のことを確認している。
賢者とわかれば有力者や知人などの人々から利用される。
だが、その知恵は、正しく使われるべきだ。
かつての人生でも社会のしがらみで何度も利用された。
力があれば、権力も持てるが、大きすぎるちからは、怖れられ、排除される。
人々の争いに巻き込まれ、最後は疎まれる。
一般人は何も考えていない。
自己欲にまみれた者の言うまま騙され、愚かにも意味のない権力に従うのだ。
知恵は知恵を知る者のみが使うべきだった。
ミコトは知恵の力で寿命を延ばしたため、年齢は500歳を超えていたが、肉体細胞の劣化による再生が追いつかなくなりそれももう限界である。
その人生の中でミコトは何度も文明が滅びるのを見てきた。
生きる者全てが幸せになるよう与えた知恵は、悪用され争いに利用される。
そこに気づいて、社会から姿を消したが、いよいよ延ばした寿命が終わりそうだ。
もうこれ以上は限界らしい。
記憶を失えば、また1からやり直しだ。
文字にして記録したら、愚かな者に知恵をあたえてしまうので、それはできない。
弟子をとっても、弟子が賢者になるとは限らない。
以前教えを受けた弟子がいたが、権力に溺れ、自分が優れていると勘違いして、師を排除したばかりか、破滅の道を選んだこともあるのである。
その時破壊された社会は、復興まで何千年とかかった。
ミコトが今まで研鑽してきた賢者としての知恵を失うわけにはいかない。
そこで、生まれ変わったあとに3歳へ成長後に覚醒するよう自己の魂に術式を刻んだ。
産まれに立ち会った者に「ミコト」と命名するよう発動する術の重ね掛けも忘れずに刻んだのである。
こうしてミコトは今、ここにいる。
さて、この世界は、どんなものだろうか。
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