第4話 初めての友人


 時は過ぎ、ミコトは6歳を迎えた。


 3歳の誕生日に元賢者時の人格と記憶が蘇り、転生前に使えた魔術がこの世界でも使えることが判明したことから、これまでの間にミコトの覚えている限りの魔法と魔術についての発動状態や威力を観察し、前世との違いを秘密裏に調べてきた。


 その結果、ここでは存在しない呪術(魔術はその中の一部である。)までもが賢者の記憶通り普通に使えるのだと判明したし、その事と一緒に懸念していた呪いやその解除も問題なく使えることが確認できた。


 ただ、呪文や魔法陣にこの世界の文字や言葉を使うと予期せぬ結果となることが多いので、そこはこれから研究するべきことなのだと思う。


 それにミコトの家庭教師であり武術師範でもあるアルトからは、ミコトは早くも免許皆伝を許されてしまった。

 子どもとしての体力しかないので動きや技にかなりの制限はあるが、前世でいろいろな武術も齧っていたミコトとしては免許皆伝など当然のことなのだが・・・少しやりすぎた感じは否めない。


 アルトに師事した数多い弟子の中、ミコトの免許皆伝は最年少の記録らしい。

ミコトの家庭教師として長い付き合いのあったアルトのことは優れた先生だと尊敬しているのだが、流石に何度も自分の道場を継がないかと誘われたのには閉口した。

 今までも各地の道場は弟子に任せて自分は住み込み教師をしていたので、アルトが今更道場に顔を出しづらいのはわかるのだが、そこにミコトを存在させる意図がわからない。


その事をアルトに聞いてみると、また新たな道場を開くので、そこに道場主であるベテランの弟子を派遣し、その後任としてミコトを抜擢するつもりのようだった。


「先生の理由はわかりましたが、やっぱり無理ですね。そもそも父が納得しないでしょうに」


「それはそうなのだが、領主様は坊っちゃんに甘い。だから坊っちゃんが俺の跡を継ぐと言ってくれれば、それもアリだと思ったんだけどな」


「そんなことより、自分が新道場を運営すべきでしょ?」


「それはそうなんだが。俺は金銭面の管理が駄目で道場をうまく運営できない自信があるんだ」


「先生。それを自慢げに言うことですか?仮にも僕は6歳児ですよ。頼ってどうするんです?金銭面が不安ならその方面の人を雇えばいいじゃないですか」


「言われてみればそうだな。金銭管理の人を雇うなど考えてもみなかった」


 アルトは先生としては優秀だが、意外におバカなところもあるようだ。

 6歳時に説教される剣聖。

 なかなかシュールな光景である。





 ミコトは6歳の誕生日に父から王都にある学院への入学を勧められ、試験にも合格したので今度の春に入学することになっている。

 個人的には、今更魔術も武術も学院で学ぶ価値はないと思うので遠慮したいのだが、父の意向なので仕方ないと諦めた。


 父の言うには、この国で貴族として活動するためには国の認めた学院の卒業が必須条件らしいのだ。

 そうでないと、貴族の後継者として国が認めてくれないらしい。

 もしもミコトがわがままを通せばこの地の領主は父から他の者へ替えられるのだろう。

 それを聞いて一人っ子であるミコトは学院入学を断れなかったのである。

 父の跡を継ぐ者としての最低条件らしいから仕方のないことだ。





 学院の入学試験は、ミコトが想像していたよりも簡単だった。

 ミコトが領主の子である為に貴族枠での受験となり、簡単な面接だけで済んだのだ。

 これはミコトとしても悪目立ちしないので助かった。


 一般枠では受験時に実地試験があるのだが、歳相応に見せるためにミコトがどの程度手を抜く必要があるのかが全くわからなかったためである。


 学院は、学年ごとに貴族と一般の2つのクラスしかない。

 受験者を全て受け入れる貴族クラスと違って、一般クラスは、過酷な試験を乗り越えた者ばかりの少数精鋭なのであるのだが、貴族として無試験の僕は、当然貴族クラスになり、一般クラスと違う授業を受けることになる。


 2つのクラスの違いは、貴族クラスは、経営学と帝王学を学ぶ事であり、一般クラスは、戦闘訓練が義務付けされている事だ。





 クラスメイトに自己紹介後、学院の行事として入学生が学院に慣れるためと生徒同士が仲良くなるためのオリエンテーションが組まれていた。


 その中で、ミコトにも早速友だちといえる存在ができたのは収穫だ。

そいつは最初出会った時から波長が合うと感じた奴だった。


「君、良かったら友だちになって貰えないか?」


と、下手に出てくるところも好感が持てる。


ミコトは二つ返事で了承した。


「名前は、アリューシャ。アルと呼んでくれ」


「俺は、ミコト。よろしく。」


 二人はにこやかに挨拶を交わす。

 話によると、アルは貴族であるのだが次男であるために家を継げないそうだ。


 かといって、兄に何かあればアルが家を継ぐことになるので学院卒業はしておきたいらしい。


 アルの実家もミコトと同じ末端貴族なので、金銭的な余裕はないらしく卒業後も兄とともに暮らすわけにもいかない事情があると言う訳だ。

 だから学院卒業の有無にかかわらず成人すれば何処かに仕えるしかないのである。


 そんな理由もあって、アルとしてはこの学院の人脈でなんとか渡りをつけようと思っているらしい。

 貴族の子である以上、家を落としめる所には就職出来ないのがつらい所だとも言っていた。


「アルに兄弟がいるのは羨ましいと思ったけど、なかなか難しいものなんだね」


「そうなんだ。いい兄貴なんだけどそれだけに迷惑をかけたくないし、困ったものさ。だからといってここで優秀な成績を残せるほど俺に優れたところはないからね。それができれば就職先も決まったようなものなのだけど。もう、ここでこんな俺でもいいから雇うと言ってくれる友か俺の目的を叶えてくれる人脈を持つ者を見つけるしかないんだよ」


「じゃあ、俺が雇おうか?」


「冗談言うなよ。ミコトのところも末端貴族なんだろ。金銭的にも無理に決まっているし」


「そうでもないぞ。末端と言っても領地が辺境地だから開拓し放題なんだ。父に頼んで土地をやるからアルが開拓すれば?」


「えー。俺には無理だぁ、一般の開拓民でも生活に苦労してるじゃないか。そんな事貴族である家の両親が認めてくれるはずもないだろ」


「まあアルが卒業後、最悪どこにも行くアテがなければ仕方がないだろ。だから俺が救いの手を差し伸べてみたんだけどやっぱり無理か?」


「ああ。無理だな」


「そこはお世辞でもミコトがいて心強いとか言っとけよ」


「いやっ。普通に駄目だろ。貴族が開拓民をやれるか」


「自慢じゃないが俺の父は普通に畑を耕すぞ。それに獣を狩って来ることもある。それを見ていると案外楽しそうだぞ」


「ミコトの親は領主だろ。自分の領地で何をしようと勝手だからな。まあ、普通の領主なら威張ってふんぞり返ってばかりだろうから、領民に寄り添うミコトの領地なら案外住み易いのかもしれないな」


「ああ、そうだよ。領民全部友達みたいなもんだ」


「じゃあ、ほんとうに俺の行き先についてどうしようもない時は頼もうかな。その場合確実に家から勘当されるだろうけど」


「勘当されても生きていければなんとかなるさ」


「さっきから聞いていれば他人事だな?ミコトが領地を裕福にして稼いだ上で俺を高給で雇ってくれれば問題解決なんだが」


「ああ、他人事だよ。アルの計画は、なんか人を当てにしてばっかりじゃないか。もう少し頑張れよ」


 学生の殆どには、こんな理由があるので就職に学院のツテを頼る貴族が多いらしい。


 アルのような事情を持つものはたくさんいるので、卒業までに優秀な成績を残せない者には厳しい選択を迫られるのだろう。

 だからなのか、アルのようにミコトに話しかけてくるものは少なかった。


 辺境領主の息子に話しかける時間など、そんな目的を持つ彼らにとってはもったいないらしい。

 彼らは懸命に裕福な者に取り入ろうと、それこそ必死に話しかけるがほとんど無視されている。


 自分の実力の自信がある者は他人に話しかけられるよりも1人で自己研鑽したいようだし、実家が裕福な者が接触するのはそれ以上に裕福な者である。

 このクラスは、そういった利権を得るための競争が激しいようだ。

ミコトが貴族クラスに来た時の違和感がそれで理解できた。


 それに貴族クラスには実力もないのに親の名を出して威張る者など、口ばかりでダメな奴も沢山いる。

 ダメな奴でも家を継ぐのが世襲制の嫌な所だ。

 そんな奴ほど権力にへつらい取り入って私欲を貪るのである。

 こればかりはいつの世も変わらないらしい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る