令和の「箱男」

実に面白い。
 まず外伝以外はほとんど主人公の一人称なのだが、それに徹底した描写ができている。
例えば、召喚を企てた王国の名前はまだない。そんなもんは書籍化する時に考えればいいと、潔く余計な描写がない。それでいて読んでも気にならない、つまりしっかり没入できるのだから尋常ではない。
 ドラゴンを倒したい王国、元世界に帰るか異世界で自立したい被召喚者、それをゲスでストイックという独特な第三者視点で傍観する主人公。
 外界描写が限定的なこともあり、安部公房の「箱男」を思い出し、リスペクトしているならば筆者の腕にも納得がいく。
 そしてその主人公は、やっていることがゲスで英雄譚から外れるからモブと言っているのだろうが、しかし悪党であっても無法ではない。
 悪事であろうと行為にはきっちり筋を通し、助ける相手にも善行だの徳目だのといった余計な観念もない。
 こういう作品にとやかく言う方もおられるが、似たようなゲスでモブな小生としては面白いと言わせていただこう。作者の益々の活達を願う。

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