005

—— 追跡 ——


「渚君は、ヲタク文化に詳しいかい?」


「あ…ん?まぁ人気な漫画くらいなら知ってるけど、青いロボットが助けてくれる奴とか亀に修行つけてもらう漫画も読んだ事あるな」


まぁ漫画より小説を読む方が多かったけど、それでも知らないわけではない。


「なるほど、その程度か、この国には昔から伝統的なイベントがあって年に2回にそれが開催されるんだけど、表向きはサブカルチャーの発表の場所として年々すごい盛り上がりを見せてるんだけど、数十年前から不思議な事が起き始めた。」


「なんだよ、いきなり恐い話か?それよりラン—」


「その不思議な事っていうのが、開催前日まで発行されていたそのイベントのパンフレットのデザインがなんとなく変わっているんだ」


「まさかそこに載ってるのか?」


一般人には見つからないけどオタクには見つけられるって事か?それはそれで問題だな。


「いやそこに載っているのはランキングではなく座標か何かを指定した数字や文字、謎解きや暗号化されている事が多い」


「なるほど、宝探しはまだ続くって事か」


「ただパンフレット事態もそんなに簡単に見つかるような書き方はされていない。毎年ページ数とか色々規格変更はあるから、でも一つ絶対に変わらない事がある」


「知ってる奴だけが見れる方法か」


「そう、いくつかのページを重ねて透かす事、それだけはいつも変わらない。、もちろん偶然見つける人もいるけど大多数はそんな事気にも留めないし、ネットのいくつか流れてる噂のままだよ」


「それで、そのイベントの開催日はいつなんだ?」


「夏と冬、コミックバザール、通称コミバと言われるこの国最大のサブカルチャーイベントだよ」


「そういえば、毎年ニュースになっているような、って事は夏はもう終わってるし、次の開催はまだ先じゃねーか!」


「そうだね、さらに残念な事にこないだ開かられたコミバのバックナンバーはまだ解明されてない、でも去年の冬の奴ならあるよ」


「おぉ早く見せてくれ!」


「そんなに急かさなくて見せるよ、いつも持ち歩くほどリスキーな人生を僕は送りたくないから」


たしかに、そうだよな。自分が特殊な能力を持ってるかそれに関係してる可能性がある時点で色々と面倒になるからな。


至る所をガムテープや木の板で補強してある、窓ガラスの隙間から暗いオレンジの光が差し込み、天井に所々空いた穴からは少し暗い夕空が見え始めていた。


「今から場所を移すのか?それとも子供はもう帰る時間か?」


「僕は今、ある事件の調査で忙しいんだ、だから今夜中には見せるからあと数時間待ってもらえるかい?」


「数時間って、まさかお前の能力か?」


「うん、でもその前に最大限の警戒をしないと、使われていない倉庫だけど、たまに近所の不良とか、うぇーい系の大学生が肝試しとかで、隣の工場に入って来たりするから」


「まぁ、俺も確かに能力を使うときは周りを気にするけど、そこまで警戒するか?」


「目の前で政府や裏社会の研究者に連れて行かれ、無気力になって帰ってきた奴を知ってる。拷問か研究のための実験か。この都会で1人や2人居なくなっても誰も気にしないよ。」


俺の来た郊外ではほとんど田舎と言ってもいいくらい穏やかな場所だった。ここの来て人とビルの多さと空の狭さを実感した。


田舎町で人が消えればそれは町中の事件と噂で持ちきりになる。


それから数時間、完全に当たりが暗くなるまで、俺は倉庫と工場の周りを見回りつつ、今夜の宿をスマホで探していた。


海月はまだ仕事が残ってるとかで鞄に入っていたパッド型のノートパソコンで何やらいかにも意識高そうな仕事をしていた。


「場所がカフェなら完全に意識高い系大学生だな」


トンっとパッドを操作する指が止まり、一瞬聞かれたか焦ったけど、ようやくその時が来たらしい。


「さて、と。僕の能力は今日は不完全なんだ。本領が発揮されるのは満月の夜。今日は半月にもなりきってないから、自分の記憶した物しか映し出せない。」


と言いながら1枚の紙を取り出して端から手で覆い、逆側にスライドさせていく。


「僕の能力は念写。満月の夜には、過去に起きた自分が知りたい場面を何かに念写できる。」


手で覆われていた部分から徐々に何かが浮かび上がってくる。

はっきり言って自分以外の能力を見るのは初めてで少し感動していた。


「満月の夜以外は自分の記憶にある物、新月の夜は能力がほとんど使えない。でも極稀に過去に起こっていない出来事が念写される」


「それってつまり未来予知なんじゃ」


「まぁそれも、ワンシーンから読み取れる場所や時間がわからない時が多いから何か起こって気がつく事がほとんどだよ。でもジャーナリストとしてはすごく重宝する能力だ」


たしかに、誰よりも早くいい写真が撮れてれば記事にする時に便利かもしれないが。


はいっと手渡された紙に目をやると、そこには古い電気店に展示してあるブラウン管に名前と顔の画像が映っていた。


「この1番上の『最後に笑う者L a s t J o k e rって奴が1番ヤバい奴って事か?」


「うん、ここ数年、上位の顔ぶれは変わっていない。特にラストジョーカーって奴はずっとその位置にいる」


「じゃあこいつに会えば何かわかるかもしれないな、何かこいつの情報とかはないのか?」


「僕は情報屋じゃないから詳しくはわからないけど、そもそもラストジョーカーの情報は少ない。西から南での目撃情報が多いことから拠点は西側にあるとされてる、けど。昔は神出鬼没であまり目立って動く事はなかったから、何か起こった後から目撃情報が少しずつ出てくる」


「なるほど、力も未知数で神出鬼没か」


「たしか、中域区の工場地帯の一部が崩壊に遭った数日前から近くで目撃されてるのを最後にあまり噂は聞かないな」


中域地方の工場地帯で沿岸部の潮風で劣化した廃工場が一斉に崩壊したってニュースで見たな。

まさかそんな小さな事件にも能力者が関わっているのか。


「とりあえず中域地方に行ってみるか、ありがとう海月!」


「その紙は持ち歩かない方がいい、もし何かの拍子に見つかったら渚くんが狙われるよ」


「いや、これはまだ取っておく、どっちにしろ地元の小さいヤクザに追われる身だからここに来てから遠くに行こうと思ってた」


「ヤクザかそれは厄介だね、この辺だと清龍会系か、裏社会に絶大な影響のある五大会も能力者を何人か抱えているらいしから、あまり派手に目立たない事だ」


この世界で歪んだ力を持った時点で覚悟はしている、何かに追われ、俺もまた手がかりを追う。


「ラストジョーカー」どんな能力なんだ、天災を起こす程の力の持ち主なのか。

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