003

 —— 痕跡 ——


 21XX年 某月某日 中域地方オワリ地区


 そこは、海風が工場群の間を抜け、磯の香りと鉄の匂いが立ち込めていた。


沿岸部の工業地帯は反社会的な俺にとっては身を隠しつつ東へ抜ける唯一のルートと言ってもいい。この街の住人ですらこの入り組んだ工業地帯を詳しく把握している者は少ない。

いや、いないと言ってもいいだろう。まさしくここは鉄のジャングル。

あぁあぁああ〜

高らかに叫んでみたが少し反響しておわった。ターザンもこれじゃ悲しくなるぜ。


さてと、なんだかんだ観光も楽しんだし、さっさとこのむさ苦しい場所からおさらばしますか。

それにどこで漏れたのか、俺とシンリの間で話した内容が変に歪んで世に出回ってやがる全くやってらんねぇ。

これだから人気者は!俺もモテるからなぁ。


「ぬぉおいおいおい、なんだか見たことある顔だなぁああああぁああん?」


眼前に広がる鉄に覆われていたはずの光景が突如として古びた船のように錆びつき脆く崩れ落ち、そこに1人の大男が立っていた。


いくらモテても俺は男になんかモテても嬉しくないぜ?いや待てよ新しい扉を開くチャンスか?落ち着け俺、一時の気の迷いで穴の機能を失った野郎を散々みてきたはずだろ?

それにしてもアイツ、えらくゴツゴツとした格好してるなここじゃ流行ってのか?


「おいおぃブツブツとうるせぇぞ、確かテメェは、例のランクの1番目立つところに載ってたよなぁあ?今すぐそのでっけぇ玉座、俺に譲れや」


おいマジかまじか勘弁しろってんだ。俺は平穏に暮らしたいだけなのに、いや平和的にここを通り過ぎたいだけなのに、


その瞬間数発の銃声が響く


「おぃおいてめぇ何ブツブツ言いながら、いきなり撃ってきてんだぁああん?!危うく死にかけただろうが!」


あぁ…あぁあ違うんだよ、俺は基本的には平和主義者なんだよ.....でも気づいたら目の前はいつも血の海が広がって.........最高にクレイジーな俺カッコよすぎだろ。


まだ銃声の反響が鳴り止んでいない、しかし間髪入れず大男の背後から無数の槍が出現し、気づけば串刺しにしていた。


「ちくしょっぉおおお、てめぇえ次から次へと!おちょくってのか!ガハッ」


大男は血反吐を吐きながら、物陰へ隠れた。


「あぁ、思い出したあんた確か下の方に名前が載ってたよなぁ。えぇっとたしか名前…」

うーん、忘れた。


「はぁ…はぁ…ふざけやがって俺は、ランク9位『終焉を贈りし獣ボア・デッドギフト』てめぇの通り名はたしか——


2108年 9月15日 東部地方ムサシ地区4番街


東部の大都市であるムサシ地区は大規模な街群が数字で管理されている。

その中でも4番街は特に広く犯罪件数はトップである。

ここになんらかの情報があると信じて来てみたが、表向きは普通の都会の風景だった。


 スーツを着たサラリーマン、早歩きの大学生

談笑している年寄りベビーカーを押す女性。

ファーストフード店の行列、天高くそびえるビル群、少しうるさい電光掲示板。


 なにもかも普通だ。気づけば、ふと目についたベンチに座りぼーっとしていた。


 遠い目に何やら人影が映る、だんだんと近づいて来ている、見た目は少し地味な印象の男だ、肩から一眼レフをぶら下げ反対側には中くらいのボストンバッグを身につけている。


 俺は少し動揺しつつあった。都会にしては人気がないが、それでも数10分に一回は誰か通る公園で、他にもベンチはいくつかある。


 確かに何席かは人が座っている、少し小汚いお爺さんとか、誰かと連絡しているサラリーマン、遊具の付近には子連れの母達が談笑している。


で、その男は、他にもベンチはあるのに真っ直ぐと俺の方に向かって隣に腰掛けた。


いつも同じ場所に座っていて、今日はたまたまこのベンチに俺が座っているだけの可能性もある、定位置的な感じ?まぁ都会には変な奴が有象無象いるからな。


ちょっと休憩もできたし、そろそろ違う場所にも行こうかと、ベンチから腰を浮かした瞬間、隣の男も同時に動いた。


偶然だよな?と不気味に思いつつも、変に違和感を覚えた。そしてすぐ横のベンチに腰掛けてみたがその男も同じように隣に腰掛けた。


まさか、絡まれてるのか、いつもの定位置を取っていたから?可能性としてはあり得るそれ以外付き纏われる理由がない。


急いで離れた方が良さそうだな。


あまり横を見ないように腰を動かして公園の出口まで早足で向かった。


「とりあえず人通りの多い場所まで行くか」

大きく深呼吸をして、気合を入れ直した。


その瞬間、背後から気配を感じ、バッと状態を反転させた。


そこには先程付き纏われた男がいた。


「おいなんの真似だ、俺になんか用かよ?」

 変な奴に関わるのは危険だが、咄嗟に出た言葉は飲み込めなかった。


「君、何やら嗅ぎ回っているね。これ以上、首を突っ込んではいけないと忠告しに来た。」

男の言葉から察するに、これ以上裏に手を出すなって事は、こいつは何かを知っている。


「あんたに忠告される筋合いはねぇと思うが、もしかしてランクボードにつ——」


急に目つきが変わり、男は俺の口を手で押さえ、首筋に何か冷たい無機質な感触があった。


「それ以上、この街でそれを口にしてはいけない、例え君が何かを知っていても。」


驚きと動揺で声が出ない所か身動きすら取れない。完全に目で殺されそうなほどの重圧だ。


「ふむふむ、もしかして君は——そうか」


ようやく手が離れ恐ろしいほどの緊張感が解けた。


何かを知りたければこの子に会うといい。

内ポケットから1枚の紙切れを差し出された。

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