004

 —— 導引 ——


 紙切れを渡すと男は何も言わず来た方向とは逆に姿を消した。

 一体なんだったんだ。とりあえず紙切れを見てみる事にした。


 そこには場所と時間、そして名前?が書いてあった。


 2108年 9月15日 17:00

 東部地方ムサシ地区1番街 

 ラジオ資材館前

 海月 


 くらげ?名前なのか?読み方あってるかわからねぇ

 まぁ行くしか選択肢がねぇけど。


 同日 ムサシ地区1番街 17:00


 確かラジオ資材館はこの辺だよな。

 海月っぽいやつは今のところいない。

 いや会った事もねーのにどんな奴かわからねぇよ!

 だが、何かを掴むチャンスを逃すわけにはいかない、必死で辺りに目をやるが、どいつもこいつも似たような格好で同じような顔してやがる。さすがオタクの街って感心してる場合じゃない!


 ドンッ!


「す、すいません、急いでて」

 いかにもモヤシって感じの奴とぶつかった。

 そいつの手に持っていたであろう書類がいくつか地面に散らばった。


「おいあんた怪我はないか?」

 俺は散らばった資料に手を伸ばしながら安否確認を取った。


「は、はい、だぃっ大丈夫です!」


 少しおどおどしている様子だ。

「悪いな俺もよそ見してたから—」

 散らばった資料の一つに目を奪われた。


「おい、もしかしてお前、くらげか?」


「ちっちがいます!!『くらげ』じゃなくて『みつき』です。」


 みつき?海に月でみつきって読むのか。


「って、え?あ、あの、なんで名前の事を知ってるんですか?」


「変な男がお前に会えば俺の知りたい事がわかるって言うからそいつにもらった紙切れに書いてあった情報でここに来たら—」


「ま、まさか、変な人ってカメラ持ってましたか?」

 せっかく俺が説明してる途中なのに食い気味で質問してくるなよ。


「あぁ、確かにカメラを肩からかけてもう片方には荷物持ってたな、でもまぁ地味目な格好してたし、目つきは冷酷でほとんど直視できてないからなぁ。」


 なんか、怖いもの知らずだと思ってた俺が自信を失いそうになった。やつは雰囲気こそ何も感じないが目つきが変わると途端にヤバい奴になるそんな印象が強い。


「幻影仙花.....僕の事を知られているなんて」


「げんえいなんだって?」


「い、いえ、何でもないです、それより僕を探してたってどういう事ですか?」


「あぁ、この辺りにランk—」


「や、やっぱり場所を変えましょう、なんとなく聞きたい事はわかりましたから」


 こいつはいちいち人の言葉を切って来やがるな。


「ぼ、僕について来てください」


「わかったよ。でも次俺の話切ったらただじゃおかねーからな!」

 海月は早足で歩き始めた。


 こいつの後ろについて歩き続けて15分くらいは経ったように思える。

 そこでいくつか気づいた事は大通りや人気ひとけのない場所を選んで進んでいるようだ。

 それに、誰かとすれ違うたびに、進路を変更して同じような路地に入っている。


 そしてあーだこーだ文句言いながら俺は1時間以上歩き続けてようやく海月が足を止めた。


 そこは廃工場の隣に併設されていた倉庫で正面は少し人が通る道路に面してはいるが、裏口から入った俺たちに気付くものは誰もいなかった。


「まずは自己紹介から始めようか。さっきも言ったけど僕の名前は海に月で、読み方は『みつき』。とある新聞社の天災報道課に所属してる、表の仕事は天災の被害者家族のインタビューとか、一応、傭兵認可証も持ってるから緊急時は国の自衛軍と同じ権限を行使できる。現場じゃ色々重宝するからね。」


「えらくさっきとキャラが違う気がする、さっきまであんなにオドオドしてた奴には見えないな。」


「当たり前だ、ここは人がいないし誰にもつけられてない。僕は外の世界が恐ろしいだけだよ」


「なるほどな、でお前みたいなモヤシ野郎も傭兵認可証っておりるのか?えらく簡単な試験なんだな。」


「アレは単純な体力的な測定をするわけじゃない、あまり舐めない方がいいよ、確かに僕は体力には自信ないけど頭なら君には負けない」


 謙遜してるのか馬鹿にしてるのか、それに俺は頭は悪くない。


「俺の番か?わかったよ。俺はなぎさ、父の死の真相を知るために色々調べててようやくこの街に手がかりになりそうなランクボードがあると知った。でもどこにもそんなのはないから困ってたところ変な奴にお前を紹介されたってわけよ」


「—なるほど、はっきり言うと知らない方がいい事もあるよ。渚君のお父さんは不慮の事故だったと諦めて普通の暮らしを送った方がいい。」


「ふざけるな!ようやく、ようやく何か掴めそうなところまで来たのに、諦めきれるか!」


 海月は難しい顔を崩さない。感情的になった心が少しづつ落ち着きを取り戻す。


「なんでもいいから教えてくれよ。」


「いや、そうか、少し考えたらわかる事だったな、あの人の紹介、会ったことはないけど、噂通りなら—」


 あの変な奴のことか?知り合いでは無さそうだな


「いいよ、わかったその代わり君の“能力”について教えてくれたらね」


 多少の覚悟はして来たつもりだったが、あーもあっさり能力について聞いてくるなんてやっぱりこの能力みたく、誰かが意図的に起こした災害。


「聞かれたのは初めてみたいだね、隠してるんだろう?僕も能力者だからわかるよ。政府機関や裏のヤバイ連中に見つかれば捕まって何をされるかわからないからね」


「あぁ、確かに俺は人とは違い能力を持ってる、海月もなのか…。」


「僕の能力は扱いづらくて、あってないようなものだけど、君の能力はさぞ強いんだろう?」


「あぁ、俺の能力は“世界の鈍足化”」


「なるほど、それで渚君は干渉できるの?」


「俺以外が全てスローになるし俺はその中で普通に動ける、あくまで鈍足化」


「その能力は、時間停止できなくてもそれに干渉できるだけで相当チート級だね」


 ありがとうっと満足げな顔をしている。


「さぁ、俺の事は話しただろ。教えてくれよランクボードの在り処を」


 ようやく手に入る情報に少しの焦りと胸の高鳴りを感じていた。

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