007
—— 流浪 ——
「今時ヒッチハイクなんて珍しすぎて思わず止めちまったよ。青春だなぁいやロマンって奴か。」
オワリ地区へ向かうトラックをひたすら1日ヒッチハイクして待って、ようやく捕まったかと思うと、そこには無精髭の少し小汚いおじさんがテンション高めにロマンだ青春だとかれこれ1時間語っていた。
その中年の横で俺は早くオワリにつかないかと、ずっと考えていた。
2108年 9月16日 19:00
中域地方オワリ地区 都市部
トラックのおじさんにお礼を言うとさらに熱くテンションが上がり、これで「うまいもんでも食え」と親戚のおじさんばりに小遣いをくれた。
確かに旅費を節約しようとヒッチハイクはしたけど、夏の間はバイトをしてたから、そこまで金に困ってはいない。
さてと、まずは、情報収集と行きたいが、今日はもう日が暮れている、ネットカフェにでも泊まろう。
ネットカフェで、天災の起こった場所の詳細を探ろうと検索をかけた。
予想通りというか当たり前だが、そこら一帯は、連鎖崩落の恐れがあるので政府管理の指定立入禁止区域になっていた。
まだ崩落の危険があるのか、それとも政府は何かを隠している可能性もある。
衛生写真で見る限り不自然な点がある。
海風で劣化したなら海側から風化するはず。
しかし、円形とも取れるような崩壊の仕方をしている様にも見える。
衛生写真の最高拡大では荒すぎるため、あまり参考にはならないが、もしその円の中心に人がいたとすれば…。
能力者同士の戦いの爪跡。
探せば粗はいくらでも出てくる。
憶測だけで語るのは簡単だ。だからこそ確信が欲しい。
明日はここに行く。例え手がかりがなくても、その場所で感じ取れる何かはあるはず。
2108年 9月17日 06:00
中域地方オワリ地区 工業地帯
立入禁止区域付近
月も眠る時間から激しい雨が降り出していた。
この雨なら多少無茶してもバレないだろう。
崩壊した地点から約500mくらいの場所に警告用の柵が張られ。いくら雨が激しく降ろうと管理が徹底していた。
今朝から周囲を観察しているが、巡回の数と作業車、そして研究所の名が入ったトラック、人の出入りが激しい。
いくら崩壊が危険とはいえ、ここまで警戒するのは、やはり何かある。
地上から入るのは厳しそうだな、一旦出直すか。
何気なく、地面に目をやった。
そうか、下水道からなら、柵の中に入れるか?
極力目立たないマンホールを探すか。
幸いここは、もともと入り組んだ地形だ、入る所は問題ないが下水道の中はどうなってるかな。
少し離れた場所にうさぎの模様が描かれたマンホールを見つけた。
中に入るともう使われていないのか水は干上がり臭いもあまりしない。
雨水が少し流れ込んで来ている程度だ。
ただ予想通り、至る所に道が繋がっていてどこに進めばいいか運任せだな。
とりあえず、崩壊してるであろう場所の方向を目指しながら進むか。
15分後
「ほんとに、ここは日本か?上ったり下ったり、もうどの方向から来たかすらわからないな」
似たような風景を何度も見ている、迂闊に外に出て警備隊のど真ん中に顔を出すわけにもいかない。
ただ外の音を探ろうにも雨音が響くだけでなんの情報にもなんねぇし。
完全に迷子だな。
あたりをキョロキョロとしていると、遠くで鈍い光が見えた。
こんなところに人か?
急いで懐中電灯を消し息を潜める。
光はじょじょに近づいてくる。
目はだいぶ暗闇に慣れた、念のため持ってきたサバイバルナイフを片手に、身を構え静かに待っていた。
あれは、男、服装は少し汚い感じだな、警備隊の奴らじゃない、研究者っぽくもない。
男は、ランタンを片手に持って大きなリュックを背負っていた。
俺は物陰に隠れ背後を取ることに集中した。
「おい、あんた何者だ?」
背後から首筋にサバイバルナイフを回し、男の動きを止めた。
当然の事だが、男は驚いた。
「わぁッ!はぁ……はぁ…、なんだお前は急に話かけやがって」
「質問に答えろ、ここで何をしてる?」
「おいおい、まさか国の野郎じゃないだろうが、俺は怪しいもんじゃない、あんたもならず者だろ?仲良くしよう、な?」
とりあえず危険は無さそうだ。
人を脅すことに慣れてない、今まで素手での喧嘩はあったが、ムサシの都心で買ったサバイバルナイフを初めて人の脅しで使った。
首筋からナイフを離した。少し手が震える。
「いきなり襲ってすまない。てっきり上で作業してる警備隊かと思って」
「上?ここの上で何を警備するんだ?」
「立入禁止区域を知らないのか?あの崩壊があった」
「あぁあそこか、あそこならもっと東だここは、オワリ地区の大都市より北側って所だな。あんちゃん相当な方向音痴だなぁ」
なにっいつのまにそんな所まで。入り組み過ぎだろ。まぁいい今はこのおっさんだ。
「そんで、あんた何者なんだ?」
「俺か?俺は浮浪者って所か、まぁ世間的に見れば社会不適合者だな。あんちゃんも同じだろう?一般人でこんなとこに入ってくる奴は、そうそういないからな。」
「一般人じゃなけりゃ入ってくるのか?例えば....“能力者”とか」
「…あんちゃんは、そっちの人間か。あぁ確かにそうだな、裏社会に身を置くならず者や政府から追われてる奴。まぁ色々いるがこの先にある地下都市『ワンダーランド』にいる奴の中には不思議な力を持った奴もいるよ」
「こんな地下に街があるのか…」
「なんだあんちゃんなんも知らねーで入ってきたのか、そりゃ運がいいな。いやまぁ上ほど治安は良くないから運の尽きかもな」
男はニヤニヤしながら俺を見ていた。
「まぁここで会ったのも何かの縁だ。俺は今から上に出て東の『エデンズ』に向かう所だ一緒に来るか?」
「東にもこんな所があるのか…いや、誘いは嬉しいがちょうど東からこっちに来た所なんだ」
「ほぉう、東から。観光か?」
「ラスト・ジョーカーって奴に用があって、何か情報があればありがたいな」
「あんちゃんは命知らずだな、地下街に行けば情報屋が何か知ってるかもな。まぁLJについて知っている奴は少ないだろうがな。幸運を祈るよ」
「あぁ…ありがとう。最後に一ついいか?」
「あぁん、なんだ?」
「地下都市ってどういうルートで入れるんだ?」
「ハハッ、白兎を追え。じゃあな」
片手を上げゆらりと遠のくランタンの火はいつのまにか闇に消えていった。
さっきの男が言ったいた事は嘘ではないだろう。
この下水道に入ってから壁にいくつかの落書きがあった。
使われてない場所が荒れるのは必然だと思っていたが。
今、思い返すとなんの統一性もない落書きは共通して兎に関係する絵や文字、記号が描いてあった気がする。
やはり自然と、男が来た方角へと足を向ける。
なるべく壁に注目しつつ、何か手がかりを探しながら進んで行く。
奥に進むにつれて壁の落書きがじょじょに芸術的とも呼べるクオリティに変化していった。
そして、目の前に一つの扉を発見した。
いかにも古びているが、しかしかなり頑丈な作りをしている事は一目瞭然だ。
その扉に赤いスプレーで『わんだーらんど』と殴り書きされていた。
「この先に街があるのか?」
ここまで来たら行くしかない。
ハンドルの形をしたドアノブを回し恐る恐る扉を開けた。
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