Epilog

「あら、今年の花招き月の踊り手は二人居るのね。しかも一人は祝いの子レガーロなんて。楽しみだわ」


 妖精女王ティターニア様の声が聞こえた気がした。

 水晶で出来た王宮から、自らに捧げられる美しい髪を持つ一族タルイス・グラッツたちの踊りを眺めるためにバルコニーに彼女は現れる。

 百日かけて大人になり、百日かけて赤子になる。そんな特別な妖精女王ティターニア様が、これからも美しい髪を持つ一族おれたちを守ってくれますようにという気持ちを込めて。


「さあ、行こう」


 真っ白で雲みたいな長上着を着たフロルは、菫色の羽衣を身につけている。

 差し出された手を取って、俺は鷲獅子グリフォンが牽く車からそっと降りる。

 星屑色のゆったりとした長上着の上に、金色の羽衣を忘れていないか確認した。

 フロルの髪にはラベンダーやライラック、ヒースが編み込まれていて金色の巻き髪を華やかに彩っている。

 俺の髪に編み込まれた琥珀の欠片や、金胡桃の実もこいつの花みたいに綺麗なんだろうか。


 目の前でフロルのゆったりとした巻き髪が揺れる。風が俺たちを祝福するように優しく吹き始める。

 鷲獅子グリフォンが、甲高い声で嘶き、風を纏った小妖精ピクシーたちが飛び回りはじめた。

 ヤマユリの笛やイキシアの琴が鮮やかな音を奏でて、大きな太鼓が空気を震わせる。


「俺たちの踊り、しっかり見せてやろうぜ」


「もちろん」


 金色の長い髪と、俺の真っ直ぐな黒いが揺れて交わる。俺の嫌いだった夜色の髪。あいつが見とれてくれて、探してくれた。

 俺の欲しい言葉を、夢を探して、見つけて、伝えてくれた。


 花招き月の舞を踊るこいつを、一番近くで見たかった。

 その望みを叶えてくれて、ありがとう。

 舞が終わり、俺たちは礼をする。

 頭を上げると、フロルがこちらを見ていた。


「バド」


「なんだよ」


「ありがとう。君が踊る姿を一番近くで見たかったんだ」


「そうかよ」


 フロルを抱きしめて、そのまま回る。

 歓声に溶けてしまいそうな感覚に酔いながら、俺は隣に降ろしたこいつの髪を手に取った。少し冷たくて柔らかいフロルの髪にそっと口付けをして顔を上げる。


「俺もだよ。お前が踊る姿も、お前の笑顔も一番近くで見たかったんだ」


 顔をくしゃくしゃにして飛びついてきたフロルを抱き留めて、俺たちは二人で舞台から降りた。

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花と夜 小紫-こむらさきー @violetsnake206

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