魔王さまとハロウィーン
「はーははは! トリック・オア・トリート! お菓子をくれてもいたずらするぞ☆」
「突然なんです、魔王さま」
「なになに、なんか楽しいことでもあったんですか~?」
断崖絶壁の孤島に聳える魔王城。
そこに響く高笑いは、何を隠そう我らが魔王さまのものです。
ご近所さんがいないことをいいことに、魔王城には防音性はありません。コスト削減、大事。
そんな彼女の笑い声を聞きつけて、実質No.1だの裏ボスだのと名高い魔女さまが、自身の使い魔を連れて広間に現れました。
……ちなみに私、マスコットは一応魔王さまの使い魔です。一応。
「うむ、いや、ハロウィーンだしな? 魔王軍としてはやらねばならぬだろう。
ほら、人間どもを恐怖と絶望のどん底に突き落とす系のパーティーをッ!!」
「つまり、騒ぎたいだけですね」
「ちっがーう!! 違うのだ! むしろ私としてはハロウィーンにかこつけて無闇矢鱈と騒ぎ立てる系の人種は苦手だ!
ここぞとばかりにコスプレしやがって、怖いメイクや血糊をつけたまま公共機関に乗るな! 子どもやお年寄りが怖がるだろう!!」
「そこら辺はノーコメントです、魔王さま」
むしろ騒ぎ立てるのは魔王さまなのでは、現在進行系で。
そんな私の胸中を知ってか知らずか、魔王さまと魔女さまは軽快なトークを繰り広げています。魔王軍流漫才とも言います。
「てゆーか、具体的にまおーさまは何したいんですかあ?」
「はっ!! ……こほん、よくぞ聞いてくれた使い魔よ。褒めてつかわす。あとで飴ちゃんをくれてやろう。
ふふふ、聞いて驚け。実はだな、この魔王自ら人間どもの街に姿を現し……」
「却下です」
「最後まで聞いてよぉ!!」
使い魔の問いに自信満々で答えた魔王さまでしたが、言い切る前に魔女さまに一刀両断されてしまいました。お可哀想に……。
「そもそも魔王さまが街に出現されたら、勇者たちが貴女を討伐に来てしまうではありませんか」
「それ!! それなのだ魔女よ!!
そもそも勇者一行!! あいつらいつになったら魔王城に来るのだ!! 勇者の仲間のかわいい魔法少女ほしいのに!!」
「下心がバレてるのでは?」
勇者一行とは、魔王軍討伐のために結成された正義のヒーロー(二人)……のはずなのですが。
待てど暮らせどこの魔王城に姿を見せないどころか、ちょくちょく彼女らにちょっかいをかけに行っている戦闘員たちによると、基本的にお喋りするだけで戦わないのだそうです。
……それでいいのでしょうか、勇者一行も魔王軍戦闘員たちも……。
魔王さまは勇者の仲間である魔法使いの女の子を自身の配下にしたいそうで、ことあるごとに掻っ攫ってこいとは言うのですが。
まあ、上記の通りなので、はい。無理ですね、とは戦闘員たちのセリフ。
閑話休題。
「つまりだな!」
魔王さまの演説が再開されました。
「『魔王対勇者! ~ドキッ! 秋のハロウィーン大運動会! 仮装もあるよ☆~』を今こそ開催すべきなのではないのかと!」
「却下です」
「にべもなく!?」
提案を全て魔女さまに却下されている魔王さまを見て、憐れに思ったのか使い魔が一言。
「てゆーか、魔王城でハロウィーンパーティーしましょうよ! お菓子いーっぱい食べたいでーす!」
「それが一番建設的ですよね」
彼女の意見に、僭越ながら私も賛成させていただきました。
人数が少なくて寂しいのはわかりますが、魔王軍 (六人)で仮装してお菓子パーティーをすればいいのではないのでしょうか……。
「去年も結局そうだったし! 魔王的にはやっぱり平和ボケした人間どもにそろそろ魔王のこと思い出してほしいっていうか……」
「まおーさまほどインパクトのある人のこと忘れることありますかね~?」
……人畜無害なおもしろ魔王、くらいの認識な気はしますけど。言わぬが花ですね。
悲しそうな顔で玉座に沈んでいる魔王さま。何とも言えない空気が、私たちの間に漂っています。
しかし、しばらくして廊下からバタバタと足音が聞こえてきました。
買い出しに行っていた戦闘員たちが帰還したようです。
「魔王さまー! ハロウィーングッズとお菓子、買ってきましたよー!」
「仮装用の衣装も色々買ってきましたよ。みんなでパーティーしましょうね!」
そう言って、いい意味で空気をぶち壊した戦闘員二人の腕には、荷物がたくさん。
重そうですが、彼女たちは戦闘員なので軽々と持てるのです。
「わーい、お菓子だー!」
「お疲れ様です、戦闘員たち」
喜ぶ使い魔と、戦闘員二人から荷物を受け取り微笑む魔女さま。
それを見た魔王さまは、ぽつりと戦闘員たちに呟きました。
「……街中に……お菓子とハロウィーングッズを……ばら撒くのだ……空から……」
「それはバレンタインの時にやりましたし、やはり地球を愛する悪の組織的にはNGではないかと」
「環境問題になりかねませんからねぇ……」
しかしそんな苦渋の提案さえも、魔女さまに却下されてしまいました。
私も思わず同意してしまいましたが。
地球を愛し、環境問題や温暖化にメスをいれる(と魔王さまが豪語している)悪の組織・魔王軍 (六人)としては、下手をすると街中にゴミを撒き散らすことになりますので……。
バレンタインの時は、運良く皆さん拾ってくださったようですが。
「……確かに同じ手はなあ……。魔王的にもすでに使った手をもう一度とかケチくさすぎるし……」
「それなら、魔王さま!」
再び玉座に沈んだ魔王さまに、戦闘員Aが声をかけました。
「SNSに写真をアップしましょう!!」
「……SNS? あー、知ってる、魔王それ知ってる。
まおったーとかまおすたぐらむとかのやつ。写真撮るために写真映えする場所に行ったりスイーツ買ったりして「なう♡」とか「ばえ~♡」とか言うやつだ、魔王知ってる」
「だいぶ偏見入ってますけど、そうですそのSNSです!
魔王軍ハロウィーンパーティー(仮装あり)の写真を撮って魔王軍公式SNSにアップするんです!」
「え、公式SNS? 何それ知らないんだけど! 魔王が知らないとかそれ実質非公式なんじゃ?」
「細かいことは気にしない気にしない。
それでどうです、魔王さま? この案、我ながら最高かと!」
喜々としてプレゼンを行う戦闘員Aに、魔王さまも「あれ? 案外アリかも……?」というような表情を浮かべ始めました。
……ちなみに魔王軍公式SNSは、魔女さまが設立し運用は戦闘員二人に任せているアカウントのことです。
街のグルメ情報しか載ってない? まさかそんな。
「……まあ、それはそれで面白そうか。魔王のリア充っぷりに人間どもも恐れ慄くだろうな! はーっはっはっは!!
よし、許す! 魔王軍ハロウィーンパーティー、仮装もあるよ☆ の開催と写真撮影を許可する!」
「やったー!」
「ナイスです、戦闘員A」
「……魔王さま、案外ちょろ……モゴモゴ」
両手をあげて喜ぶ使い魔、戦闘員Aを褒める魔女さま、言ってはいけない発言をし魔女さまに口を塞がれている戦闘員B。
何はともあれ、今年も無事にハロウィーンパーティーが開くことが出来そうです。
+++
結果として、魔王軍ハロウィーンパーティーはリアルでもSNSでも大盛り上がりでした。
猫の仮装をした魔王さまの写真は、なんとお気に入り登録が四桁を超えたそうです。
もちろん、ゴスロリを着た戦闘員A、甘ロリを着た戦闘員B、ミイラ姿の使い魔、そして魔法少女の仮装をした魔女さまの写真も大変人気だったそうですが。
私? 私はフランケンシュタインの仮装でした。いつもと違う姿になるのは、なかなか新鮮で楽しいですね。
魔女さまお手製のパンプキンケーキや戦闘員たちが買ってきたお菓子を頬張る魔王さまの表情は、それはそれは満足げな笑顔でした。
「ハッピーハロウィーン!」
めでたし、めでたし。
【短編集】この夜を越えて、静寂。 創音 @kizune
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。【短編集】この夜を越えて、静寂。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます