「日常の中の非日常ではなく、非日常の中の日常を描く」――とは、昨年惜しくも解散したラーメンズの小林賢太郎氏が自身のコントの作風を端的に言い表したフレーズであるが、この短編集が描き出す狂った世界の数々もまた、その形容で飾るに相応しい。
例えば、この中で最長話数を誇る『死ぬ部』。自殺を目的とする部活動という、この世の理を逸脱した世界観を提示しつつ、作中で描かれるのはあくまでそこに属する生徒にとっての“普通”の日常である。他の短編もしかりで、冒頭から狂った世界の枠組みを読者に見せつけながら、あくまで淡々とその世界の“普通”を描いており、そのギャップがシュールな笑いを呼ぶ。『乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したと思ったらファンディスクの世界だった。』などその最たるもので、温泉に覆われた世界というバグった舞台設定の中、どこまでも真面目に繰り広げられる地の文と登場人物達のやりとりがたまらない。
各短編の末尾に「自著解説」が付いているのも嬉しい。その短編の執筆動機や背景を知り、自分の感想と作者の思惑が一致していて頷くのも楽(たの)し、気付かなかった真実に驚愕するのもまた楽しだ。
カクヨムのコメディ短編の名手といえば、先日『はてなインターネット文学賞』にて「はてなブックマーク賞」に輝いたK氏の名が浮かぶが、個人的にはこのポンデ林氏もまた、「軟」のK氏・「硬」のポンデ林氏として彼と並び立ちうる短編マイスターだと思っている。そんなポンデ林氏の名刺となりうる短編集、あなたも読まねば損である。