第10話 シナリオ
「おぅふ………、マジで何もなかった。魔物ぐらい
「ふざけたことを言うものでは無いぞ、アース。旅とは最後まで気を引き締めねばならん。それにそんなことを言っているとホントに何か起きるかもしれん。私の中でそれは一種の持論なのだがな。………理由を聞きたいか?」
「どうでもいいっす。あ、精神統一一応やっとこう」
オレ達は約2週間ほどの旅に立ち、そこで様々な冒険をし、なんやかんやあって、街の人々に注目されながら旅を終える………、ことを始まる前は想像(妄想)していた。
なのに現実は何事も起こらずに、平穏に、旅は終わってしまった。
ヤショーが最後まで気を引き締めろとか言ってるけど、ハッキリ言ってもう絶対何もないわ。
オレの勘がいってる。
もう、何もない、と。
……精神統一すっか。
そのあと飽きてメイドのミリーナや護衛隊長のロロと暫く喋っていた。
そして
「嘘……、もう着いちゃったよ」
あっという間でした。
忘れ物はありませんでした。
喧嘩は起こりませんでした。
平和でした。
何も起こらなかったです。
……………………………。
「ちょっとオレもう一回旅したいんだけど一緒にしない?大丈夫、一回帰ってまたここに戻ってくるだけだから」
「ダメに決まっているでしょう!それでは二度手間ではないですか!退屈なのかもしれませんが、ここは我慢です!」
「そうですよー!俺たち護衛もせっかく問題が起きなかったのに、次はモンスターにでくわしますよ、絶対!」
「モンスター?むしろ行きたくなってきたーー!!」
こうなるのは当然だろう?
だってオレが英雄譚になる本が出るとして、初めての旅は順調そのものでした〜とか、読者が飽きるだろうが!もっと問題発生してくれよ!
そうやって馬車でギャーギャー騒ぎまくっていると、何人かの兵士が来た。
「失礼、少しお話しを伺ってもよろしいでしょうか?」
「ん?ああ、話とはなにかね?」
兵士達はオレ達に丁寧な態度で声をかけてきた。
恐らく貴族の家紋が刻まれている馬車が来たから、様子を見に来たのだろう。
貴族が乗っている、あるいは乗っている可能性のある馬車などは基本丁寧に接待されるし、馬車の中身の検査なども、しなくて許される時なんかもある。
貴族は特権階級だもんな。そのぐらい許される。
だからオレ達にも階級が上の兵士が寄越されたのだろう。
新人や頭が硬いやつだと問題を起こす可能性があるからな。
「話なら俺が請け負おう」
「では少しここに来た経緯や目的、その他も順に話していってくれ」
「わかった。この馬車にはヨーグラー男爵様はお乗りになっていないが、そのお客人様がお乗りになられている。だから我々が護衛に付いている。この馬車も御当主様の許可を得て使っている。この領地に来た目的はお客人様、アース様の見聞を広めるために、と仰せつかっている。あと、馬車の中身は確認して構わない。こちらからは以上だ。質問があればしてくれ」
「いや、まぁ十分ではないが、これだけあればいい。では次は馬車の中だ。一旦降りて貰うぞ」
そのまま降りて(何人かは残った。盗みの防止のためだ)、数分が経過した後、兵士達と護衛達が戻ってきて、「通ってよし」と、言われた。
そしてまた馬車に乗り込むが、それでもあと少しだ。
ここにいる間はここの領主邸でお世話になり、そこで生活するらしい。
「ふー、やっと馬車から解放された生活に戻れるぜ〜。もう馬車乗らなくていいようになりたい」
「帰りもあるのでそれは無理ですね、最低でももう一度乗らないとダメですよ」
「……走って帰るのは?」
「馬車で2週間は走りっぱなしの道を歩く、これならまだいいでしょうが。では食事は?睡眠をとる時の見張りは?用を足す時は?………それ以外にもありますが、どれもやめておいた方がいいでしょう。一人旅とは、高位冒険者ならまだしも我々のような力のない者には命懸けです。それも2週間なら、余程運が良くないと生き残れないでしょう。アース様は運の良い方ですか?」
「もぅわかったわかった。ていうか、冗談に決まってるじゃん、ジョークだよジョーーク!」
「ならばいいです」
時々ミリーナって頭堅いよなー。
リセルラブだから?忠誠とか誓ってるから?
まぁ、いいか。そんなこと。
オレだってそこまで考えなしじゃないってーの!
一人旅の無謀さとか簡単に分かるわ!
ただ、オレの英雄譚としては地味じゃねぇ〜?て思っただけです〜。もうちょっと華々しい活躍とか、逆に領民達に嫌われるとかそういう派手な……の………。
………嫌われる?
あ、それだわ。
オレは、オレという人間の本質を見失っていたな。
オレはハッピーで終わる主人公なんかじゃない。
オレの人生はバッドばかりで、それでもオレはそんな残酷な運命を打ち砕いていく。
まさに、運命を自分で切り開いていく英雄だ!
なんだよ、じゃあオレはこれから領地に入って何かやらかして領民に冷たい目で見られるとか、虐げられるとか、そんな感じか?
オレはそんな逆境を、生き辛い世界を生き抜かなきゃならないのか?
これから、ずっと?
………燃えてきたぜ。
「ふふ、ふくくく、フーハハハハハッ!テンション上がってきたぜーー!!」
「!?、どうしましたかアース様!」
「クク、大丈夫。何でもない、ただこれから入る領が楽しみになっただけだ」
「ほう?だが、楽しみにするのはいいことだな。人間楽しくない事をやってもつまらんだけだ。私のように剣や槍を楽しく振っていれば、才能が無くともこのように強くなれる。覚えておけ、アース。これは持論だが、嫌々ながら沢山努力する者と、少しの時間だが楽しく努力する者、この二つの選択肢でどちらが学ぶ者として適正があると思う?」
「いや、どうせ後者でしょ?そういう二択の問題って、絶対違うだろ!て奴が大体正解なんだよねー。あ、これも持論だけど」
ヤショーは少し不満げな顔をしていたが、やがてオレに続きを語り始める。
「………正解だ。これにはきちんとした論理的考えがある。まず嫌々ながら何かを学習している者は、その大半が誰かに強制させられている。そしてその強制させられた内容を学習し、学び終えると、もうそれについて学ばなくなってしまうのだ。『やりたくはないけど、親がやれって言うからやってました』と、そういう理由だ。そんな理由で学んでいて、もう終わりました〜、なんて言われたらそれについて学びたくなんかならないからな。他に興味があるものに気を取られるだろう。では逆に、少ししか習っていないが、それに興味を持っているとどうなる?」
ヤショーは最初は不満げに語っていたが、語っていく内に段々と話に熱が入り始める。
「答えは『教えてもらっていないものを自分で学んでいく』だ。そしてそういうやつはそれを極め抜いてしまう。もちろん、それはそいつの限界まで極め抜くということで、最強になるとかそう言ったもんじゃない。人には、それぞれ最初から出来る限界がある。その限界は才能によって千差万別ではあるが、才能にあぐらを掻いている者とそうでない者、そういう奴らは力関係が逆になったりする。もしくは」
「あー!!もういいって!ヤショーの持論はいちいち長いんだよ。つまりオレが興味を持った事をいい事だ、って言いたいんだろ?ならもっと短く言えるだろ……?」
「………むぅ」
オレはヤショーの話を途中で遮った。
めちゃくちゃ長くなりそうだったからだ。
ヤショーは武の腕は中々だし、頭も意外にいいのだが(お前が言うな!)、ちょっとした哲学オタクで語り出すと止まらない。
そういうところは超面倒くさい。
ちょっと前にヤショー持論の一つを全部説明してもらったことがあるのだが………、確か3時間ぐらい語られた。いや、時間なんてあんまり覚えてないけど。
水を一滴も飲まずに話すその姿勢には、もはや尊敬すら浮かびそうだ…………、やっぱ無いわ。ただただウザかった。◯ね。
とまぁ、オレはこういう経験があるので、ヤショーが熱っぽく語り出すとトラウマ(?)が発動し、止めてしまうのだ。
その後もオレ達は適当に話をしていて時間を潰していると、馬車が止まり、ロロに呼ばれた。
「アース様、モリス男爵の領主邸へ到着致しました。今兵士達がそれをモリス男爵に伝えているそうですので、馬車を降りるまでもう少しお待ち下さい」
「おけ」
「アース様、これからはこちらがお世話になる身です。屋敷の時は許されていましたが、その言葉遣いも直して頂きます。………それとも、『教育』される方が好みですか?」
「ロロ、モリス男爵には『これからお世話になりますが、ご迷惑をおかけしてしまうかもしれません。その時はどうぞよしなに』と、兵士に伝えるよう言ってくれ、頼む、お願い、お願いします!」
「そういう感謝の気持ちはアース様が言うべきお言葉です。それに、その言葉も変ですね。やはり、『再教育』が必要なのでは?」
ミリーナ、ちょい怖い。
なんか『教育』って言った時、綺麗な微笑みをしていたが、あれは目が笑ってなかった。
美人がそういうのをすると迫力がある。
故にちょっとびびる。
でもそういうのは悟られたくない!
ならばここはちょっぴり小粋なジョークを挟んで空気を変える!(教育の話を有耶無耶にする!)
ジョークというのは便利だ。
そういう硬い空気や重たい空気を一瞬で消し飛ばしてくれるのだから!
「ノー、アイムソーリーひげソーリー」
「ーーアース様?」
……いや、馬鹿だろ。おれ。
そういうジョークは面白い奴がやった時は空気を払拭できたりするが、あんまり面白くないと逆に空気が悪くなったりする。
いわゆる空気が読めない奴だな。
………失敗は成功の母。
その失敗が、お前を成長させてくれるさ。
……………多分ね?
そのあと、めちゃくちゃ(静かに)叱られましたとさ。
おれが裏切って、裏切られていく物語(旧題:冒険者は冒険を………しちゃダメなの?) ロロロロガガン @chocota
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