第9話 領地見学
「この領地から出て行け?………何で?」
「私はそんな風に言った覚えはないよ。要約すると、君の見聞を広めるために、他の領地へ行ってはどうかな?と提案しただけだ。出て行けなどと、私は思ってもいない」
オレはあのちょっとした問題の戦闘があってから、暫く時が経ち、今リセル男爵に呼び出され、領地を出ろと言われた。
ホントはもっと長ったらしく「君の世界は狭い。君はきっと大成する。そうなった時、私は君が心配なのだよ。世の中強いだけでは解決しないことなど山程ある。例えば私の執務室。ここでは腕力や暴力など必要なくうんたらかんたら…………」と、10分ぐらいクソ長い説明を受けた(いや全く長くない、むしろ頑張って要約してる)。
オレは後半寝ていたのであまり聞いてなかったが、オレの妖精?もしくはもう一人のオレ?が(呆れて)簡単に説明してくれた。
それが「この領地を出て行けって事だよ。ちゃんと話聞けよ」と教えてくれた。
こいつはオレに嘘を付かないし、敵意や悪意も感じないので、オレの味方だと思ってる。
最初は幻覚やその類だと思っていたが、どうやら現実だと最近やっと分かった。
こいつはオレに色々なものを教えてくれる。
通貨の大事さや、人とのコミュニケーションの大事さ、そしてめちゃくちゃ言われたのが衛生面。
オレはこれを実践するために男爵に言って色々買ってもらった。
石鹸やシャンプーは高級品に変え、歯ブラシも新しく綺麗で高価なものに変えた。
そしてめちゃくちゃ力説された何か肌を保湿するクリーム?は、なかったので何か保湿するための油?なのかな、これを買ってもらった。
めちゃくちゃ高かったけど、妖精(おれへの呼び方はその日の気分で変わる)はそれでも不満そうだった。
そしてその肌や匂い、そして髪へのケアはしっかり毎日やるように言われた。
こいつはいつも言ってる事は正しいけど、それは面倒だし嫌だ!と言った時の妖精の顔は今でも忘れられない。
何か血の涙で「そんなこと言ってられるのは子供のうちだけだぞ。お前は、それをしなかったことを、必ず後悔する。絶対だッ。…………やれ」と言われた(脅迫された)ので、素直に頷いた。
ちょっと女子みたいで嫌だけど、必ず朝晩そういう風に指示を出してくる。
保湿する油は何回も塗っても良くて、洗顔は1日最低一回、しても3回まで。
シャンプーをした後は香油で髪の艶と匂いをプラスさせる。
早寝早起きは鉄則。
これをずっと守っていると、なんかすげ〜朝起きた時も気持ちいいんだ。
閑話休題
「で?何でだっけ?もっかい説明して。あ、あと建前とかそういうの面倒いからいいよ。本心で話して。あと難しく長ったらしく話さないで、そうしないと寝るから」
「はぁ、全てこれらは本心だ。多少打算は含まれているとはいえ、本当だ。信じて欲しい。…………では要約しながら、手短に話そう」
「そうして」
「君は、もっと強くなれる。それは私たちが、そして君自身も気づいていると思う」
「まぁね、あの時に、オレのポテンシャルはオレが考えてるより高いんだと再認識したよ」
「そう、君はいずれ騎士長も兵士長も超え、このラタイト王国でも名の知れた騎士になることだろう。ここまでは全ていい話だ」
「ここまでは………か、なんとなく分かってきたけど、続きをどうぞ?」
ここまではオレでも分かるだろう。
………おれと同じなんだから話ちゃんと聞けば理解したはずだけど。
まぁ、それはおれがフォローしていけばいい話だ。
でも今回はリセルに説明を任せた方が分かりやすいだろ。
「世の中には、暴力、権力、資金力の、大きく分けて三つの大きな力がある。君はその中で、圧倒的な暴力の切符を持っている。だから君は早くに、それ以外の二つ、もしくは他のものを学ばなければならない。学ぶと言っても、それらを君が持つ、というわけではなく、それらが何を意味するのか、その意味を知って欲しいんだ。私から言いたい事は以上だ」
「………なるほど、ね。そうか、おけ」
「分かってくれたようで嬉しいよ。馬車の用意は出来ている。ヤショーと一緒に、他の領地の見学に行ってきなさい。きっと、役に立つよ」
「分かった、すぐ行く」
ねぇ?何「そういう事だったのか」みたいな顔で頷いて、行く約束までしちゃってんの?
いや、まぁね。悪くはないよ?だけどさ、お前あんなリセルが要約して言ってくれたのに何でほとんど分かってないの?馬鹿なの?
性格:馬鹿なの?
つまりは、他の領地見学行って来いって事だろ?物事の本質さえ見抜けたらそれ以外はどうでもいいんだよ。
どうでも良くねぇんだよ。ていうか多分本質はそっちじゃない。最初に言っただろ?これは領地を出て行かせて、お前を他領に行かせてる間になんやかんやしようっていうやつだよ。多分。
おれの時そんな都合良い勘無かったぞ?はぐらかそうとしてるだろ。
良いんだよ、これで!それに、頷いたもんは仕方ねぇ。
これも前から言ってたよね?おれ。ほいほい分かってないものにしたり顔で承諾とかすんなって。おれ言ってたよね?
………………………。
「さて、早速外に出ようか。もうヤショーも馬車も待っている」
「よし、早く行こう。新しい冒険が、オレを待っている!」
オレは早速執務室を飛び出し急いで馬車へ向かう。
決して居心地が悪くなったからとか、そういうのじゃない。勘違いすんなよ!
暫く向かうと、そこに高級な馬車と何人かの兵士、メイドが一人と、ヤショーがいる。
「ヤショー!話は聞いた!今すぐ行くぞ〜!」
「よし!………いや待て、御当社様への挨拶は?」
「いや、それがもうすぐ行けって事らしい。『挨拶なんていらん。それよりもお前達が一分一秒でも強くなる事の方が大事だ、だって!」
「なんという………!お任せくださいリセル様!我が弟子は必ず強くなる!そして私がよりそれを完璧にしてやりましょうぞ!そういうことだ、行け!時間が勿体無い!」
動き出す馬車。
オレの嘘を間に受けて燃え上がる奴ら。
そしてさらに燃え上がる、いやもう燃えてるヤショー。
やはりこの人の扱い超ラク。
超扱いやすい師匠、略して『超やしょー』。
「さすがヤショー!超やしょー!」
「褒めても何も出ぬぞ、お前に出るのは褒美ではなく修行だ。今日からは暫く馬車の中で精神統一だ。これはよく効果がないと言われるが、私の持論は違う。例えば躍起になる時、あれは一種の興奮状態でありそれを抑えるためにもせい」
「ヤショー、もうやってる。喋らないで」
「だ、そうですよ〜ヤショーさん。アース様はもうやっておられるのですからその意味ないうんちくやめましょう?」
「いや、意味がないわけ無い。私はお前達の倍以上生きてるんだぞ。もう少し私の持論に耳を傾けても」
「い・い・で・す・か?………ね?」
「……はい」
メイドさんには形無しのヤショー。
何でも女には逆らうな、という持論があるらしいからだそうだ。
単に女に強く出れないだけだろうと思う。
ま、どうでもいいか。
「さて、何日かかって何日楽しいのかな?………ま、そのうちわかるか!」
オレの楽しい旅が始まる。
追伸
旅は何事もありませんでした。
おれより
「………精神統一て何なん?何も統一してないわ」
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