「特別じゃない少年」の苦悩、葛藤の描写に引き込まれる

 作品を最後まで拝読しました。

 この作品の秀逸な点を一つだけ挙げるとするならば、「特別じゃない少年」の苦悩、葛藤の描写です。

 この作品、「なろう系アンチ」がタグの一つになっているだけあって、なろう系と共通する異世界転移の要素を持ちながらも、典型的ななろう系と異なる作品にしようという意志が随所に滲み出ています。

 典型的ななろう系の作品は、主人公の状況を飲み込む力が異常なまでに高く、また、主人公に特殊な能力が付与されるケースが多く、それ故にお話がサクサク進むような印象があります。

 一方この「なろう系アンチ作品」。主人公は普通の——不遇であっても少なくとも普通の感情、思考を持った——少年です。真剣に戸惑い、苦悩し、葛藤する心理描写は、どこかゲームをプレイしているような気持ちで話が進むなろう系と対比的と言えるでしょう。

 また、伏線の張り方、と言いますか、伏線のミスリードの仕方も上手く、予想しながら読んでいて楽しかったです。

 いくつかの話《わ》の最後に書かれている、「ツッコミ」については、好みが多少分かれる部分だと思います。メタい文章が他にかく嫌いな人は嫌いかもしれませんが、個人的には「なろう系アンチ作品」の張り詰めた空気を少し緩めてくれるような感じがして、悪くないと思いました。

 以上のことを考慮しまして、星2つの評価をつけました。心を動かされる小説、ありがとうございました。

その他のおすすめレビュー

模-iさんの他のおすすめレビュー9