ぼう-りょく【暴力】
乱暴な力。無法な力。なぐる・けるなど、相手の身体に害をおよぼすような不当な力や行為。(岩波書店 広辞苑 より引用)
この小説のタイトルにもなっている「暴力」。優しそうな印象の語り手の回想を軸に進むこの物語の中で、一番印象に残った言葉です。
「暴力的な表情」とは、思いつきそうでなかなか思い出せない組み合わせです。表情を投げかけた相手に、無理やり表情を変えさせるような表情が暴力的であるようです。
つまりタイトルの「暴力装置」とは、暴力的な表情によりコミュニケーションを進める私たち人間のことではないかと考えられます。
……とまあ、色々と考察を述べてみたは良いものの、これらはあくまで私の推測にすぎません。この作品の(いや、全ての作品に於いて)文章の意味を全て理解しつくすのは、不可能ですので。
この作品の良さはまさにそこに、ふんわりとしたところに、あると思うのです。何となく分かるけど、ギリギリ理解できないライン。そして、何となく分かる範囲を少しでも広げるために、私達はもう一度はじめから読み直すのです。
そう、この作品は、噛みしめるように読みたい純文学なのです。
逆にいえば、文章を読むのが苦手な人にはあまりおすすめ出来ない作品かもしれません。星三つをつけるのを躊躇ったのは、そのためです。
この小説は、語り手のメモ書きで締めくくられます。このメモにも多くの解釈の余地が残されております。勿論、私なりにこのメモのあらわす意味は考えたつもりです。しかし、それをここに全て書いてしまうのは野暮というもの。
というわけで、私はここで筆を置くことにします。じわりと心に沁み込む小説を、ありがとうございました。