まず、このレビューは小説をほとんど読まない人間が書いていることをご了承ください。また、文章の感想を求めるということは、それがその人にどのように伝わったかを確認するという意味合いが大きいと思われるため、この文章についての私の理解を記すことで感想と代えさせていただきます。また、私がそもそもなろう系に明るくないため、アンチなろう系的な要素についてはあまり触れられないかと思われます。すみません。
【レビュー】
まず、隆弘にとって突如現れた異世界は直近頭を悩ます兄の異常性のメタファーであると捉えられます。フリアに対するイナの振る舞いや、傷だらけのカーロ、川に映る兄の顔など、異世界は隆弘にとって異世界は当初、兄の暴力性を想起させる忌避すべきものでした。したがって、その世界の住人であるロイを決して自分だとは認めません。自分はあくまで兄を嫌う隆弘だからです。これは、9章まで守り続けられます。
しかし、異世界には異世界の状況があります。現実では眠って居留守をすることでやり過ごせた暴力性も、異世界では対応せざるを得ません。10章からは、徐々に隆弘が異世界に対応し始めます。しかしこれは隆弘がロイになっているとでも表現すべき状況であり、現実の問題は放置されていることには注意しなければなりません。ドラゴンという空想の象徴のような生物と闘いになるのは、あくまでこれが比喩としての兄との決闘であり、隆弘にとって現実の兄の問題を解決するものでは無いことを強調するものでしょう。
しかし、魔王戦では、隆弘が魔王を完全に兄と同一視することで兄との問題と異世界の問題が結合されます。これは、隆弘にとって既に異世界の問題も家族の問題も同じ方法で理解されるものであるということです。したがって、魔王を倒すことで、隆弘は寝て誤魔化したりせずに兄の暴力性と向き合うことになり、最終的に現実への帰還を選択します。
この現実と異世界の結合が、恐れるものへの変身といういかにもファンタジー的な要素で成り立っているのも非常に良いです。
あえて不満な点を述べるとすれば、当初はロイと隆弘という2つの概念が最終的に結合されたのに対して、優しい兄と暴力的な兄(=魔王)の結合が行われなかったところでしょうか。これでは、兄の優しい部分だけを信じていたとも取れるため、少々アンバランスな気がするとも言える気がします。
本当に楽しい作品でした。文章も平易ながら全く幼稚さは感じず、すらすらと読み進めることが出来ました。
ありがとうございました。
作品を最後まで拝読しました。
この作品の秀逸な点を一つだけ挙げるとするならば、「特別じゃない少年」の苦悩、葛藤の描写です。
この作品、「なろう系アンチ」がタグの一つになっているだけあって、なろう系と共通する異世界転移の要素を持ちながらも、典型的ななろう系と異なる作品にしようという意志が随所に滲み出ています。
典型的ななろう系の作品は、主人公の状況を飲み込む力が異常なまでに高く、また、主人公に特殊な能力が付与されるケースが多く、それ故にお話がサクサク進むような印象があります。
一方この「なろう系アンチ作品」。主人公は普通の——不遇であっても少なくとも普通の感情、思考を持った——少年です。真剣に戸惑い、苦悩し、葛藤する心理描写は、どこかゲームをプレイしているような気持ちで話が進むなろう系と対比的と言えるでしょう。
また、伏線の張り方、と言いますか、伏線のミスリードの仕方も上手く、予想しながら読んでいて楽しかったです。
いくつかの話《わ》の最後に書かれている、「ツッコミ」については、好みが多少分かれる部分だと思います。メタい文章が他にかく嫌いな人は嫌いかもしれませんが、個人的には「なろう系アンチ作品」の張り詰めた空気を少し緩めてくれるような感じがして、悪くないと思いました。
以上のことを考慮しまして、星2つの評価をつけました。心を動かされる小説、ありがとうございました。
日本に住む中学生の「黒井 隆広」は幻聴のような声に導かれミスリルの剣を手に取り勇者の使命を与えられるという白昼夢を見る。
そしてその夜、眠りにつくと知らない人たちに起こされる。
そう異世界転移を果たしていたわけです。
複雑な家庭環境ではありますが、まあテンプレなスタートか……と思うとそこはちょっと違います。
中学生の男の子が異世界に行っていきなり不思議な力やスキルに目覚めて無双するわけでもなく、剣も剣道レベルでしか使えませんし陰キャラは異世界に行っても陰キャラなわけで、最初は言葉が通じるのも怪しい感じ。
色んな方向からテンプレを崩してきます。
ちょっぴり弱気で後ろ向きな上トラウマが多い黒井くんこと勇者ロイ。この等身大で精一杯の魔王討伐の旅を一緒に体験してみませんか?